45 邪魔だてするんですのー!? 後編
降下を続ける〈ヴァルテンベルク〉から、四機の騎士機が先行した。
第一小隊が左右へ展開し、全長二百メートルの巨竜へ迫る。
まずは艦から引き離す。
射撃が白銀の鱗を叩くと、竜が顔を向けた。続いて巨体が旋回し、長大な尾が雲を薙いだ。
一機が回避へ移った。しかし、尾の先端は機体よりも速かった。
胴部を直撃された騎士機が激しく回転し、破片とともに雲の下へ落ちる。通信が途絶えた。
「一機、喪失!?」
「散開! 距離を取れ!」
三機が離れる。その間に竜は頭を持ち上げ、口元へ異様な光を集めていた。
直後、白い奔流が空を貫いた。
「隊長! あいつ、ブレスが長い!」
旋回して逃れようとする一機を、竜の顎が追う。機体が光に呑まれ、通信には短い雑音だけが残った。
「氷か!?」
確かめる余裕はなかった。残る二機は互いに距離を取り、射撃を続ける。だが竜はすでに、騎士機から顔を背けていた。
翼を大きく広げ、その先にある都市空母へ加速する。
「まずい! 艦に向かってる!」
「また体当たりする気だ!」
追撃する二機の射撃にも、竜は進路を変えなかった。
艦橋に接近警報が響く。
「くそっ! また来やがった!」
ヴァルターがモニターを睨む。シュミットは操艦要員へ姿勢維持を指示し、通信へ声を向けた。
「騎士機部隊、目標を本艦から引き離してください」
第二小隊の四機が、側面から割って入った。
一斉射撃。砲弾が鱗へ次々と命中し、閃光を散らす。しかし、巨竜の速度は落ちない。
「命中! ……くそっ、効いてない!」
「射撃を続けろ! 頭をこちらへ向けさせるんだ!」
四機が位置を変え、さらに撃つ。着弾するたびに竜の輪郭が煙に隠れた。それでも次の瞬間には、傷らしい傷もない巨体が煙を突き破ってくる。
「〈ヴァルテンベルク〉から引き離せ!」
その叫びを、ディートリヒは格納庫で聞いていた。
第三小隊は、まだ発進を待っている。
出撃から、わずかな時間しか経っていない。もう二機が失われ、第二小隊の射撃も竜を止められずにいた。
「……あんなのを、どうやって止めるんだよ」
僚機から声が漏れる。
ディートリヒは前方の発進口を見つめた。
閉ざされたシャッターの向こうに、巨竜がいる。砲火の下で戦い続ける味方がいる。
艦体を伝う振動が、座席まで響いていた。
「第三小隊各機」
小隊長ハルトマンの声に、ディートリヒは操縦桿を握り直した。
「発進に備えろ」
衝撃。
格納庫に警報が鳴り響いた。
待機していた騎士たちが、一斉に計器へ向き直る。
ディートリヒは、短く目を閉じて整えていた呼吸を切り替えた。
目を開き、操縦桿に手を添える。魔力を通し始める。
『目標は本艦に接近中の大型竜種! 推定全長二百メートル以上!』
『二百メートル!?』
通信の向こうで、誰かが声を上げた。
ディートリヒも、一瞬だけ口を開きかけた。その瞬間。
ズン!
再度、艦が揺れる。
(近い! 前方部に──竜がぶつかったのか?)
二百メートル。駆逐艦より大きい。
たとえるなら、フェリーほどの全長はある。しかも、そのすぐそばには、巨大艦〈ヴァルテンベルク〉がある。考えただけで、飛べる空間の狭さがわかった。
格納庫の発進設備が作動する。
機体を送り出すための音が重なり、前方の騎士機が所定の位置へ進んだ。
発進許可。
一機が射出され、続いて次の一機が空へ出ていく。
ディートリヒは正面を見据えた。
もう祈っているだけではいられない。
「……行きます!」
機体が押し出された。
降下中の〈ヴァルテンベルク〉から離れ、曇天の空へ飛び出す。
空気の流れを受け止め、姿勢を整える。
視界が開いた。
遠くに、白銀の竜がいた。
翼が動く。
その大きさに、目が追いつくまで僅かな間が要った。
そして、その向こうには、なおも降下を続ける都市空母がある。
─────
「……おいおい、なんだよありゃ」
ヴォルフ艦隊の護衛駆逐艦。
ヴォルフの代表として乗艦していたアクセルは、艦橋のモニターを見上げていた。
白銀の竜が映っている。
その巨体が動くたび、背後にある〈ヴァルテンベルク〉の船体が見え隠れした。
近すぎる。
次の瞬間、体当たりした。
「っ! おい!」
無意味だとわかっていても、アクセルは駆逐艦の艦長に尋ねた。
「援護射撃! 撃て……んのか!?」
「無理です! 近すぎます! 射線に〈ヴァルテンベルク〉が入ります!」
「マジかよ!」
アクセルはモニターへ顔を寄せた。
竜が向きを変えた。
その先にも、巨艦の船体がある。
こちらから主砲を撃てば、竜だけを捉えられるとは限らない。狙いを外した砲撃が、艦へ届く。
降下する艦へ張りつくように飛ぶ竜を前に、アクセルは歯を剥いた。
交戦情報へ、発進した騎士機の位置が加わっていく。
アクセルは、モニターの中の白銀を睨みつけた。
「くそっ……! こういうときに限って、役に立てねぇじゃねぇか!」
─────
カメラの中で、白銀の巨竜が翼を広げた。
長大な尾を振り、降下する〈ヴァルテンベルク〉に沿って向きを変える。離れていくのかと思ったのも束の間、その頭部が再び船体へ向いた。
シュミットは竜の進路と本艦の降下経路を見比べ、冷静に口を開いた。
「この艦を敵と認識したのでしょうか」
「縁起でもねえこと言うなぁ!」
ヴァルターがキレた。
─────
地上のエレンシュタットでは、軍人たちが雪の舞う空を見上げていた。
街の建物の上。
工事用の足場の向こう。
雪のちらつく空に、途方もない大きさの構造物が姿を現していく。
地上から見上げる者たちの前で、その輪郭が次第にはっきりとしてくる。
船が降りてくるのだと、頭ではわかっていた。
それでも、目にしたものをすぐには理解できなかった。
巨大な灰色の大陸が空を覆っていくかのようだった。
都市そのものが、空から降りてきていた。
ひとりが手袋をはめた指を握り込み、別のひとりが隣の者へ視線を向ける。
目が合っても、冗談は出なかった。
また、空を見る。
白い雪片が、顔の前を横切っていった。
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