1 ガチャですわ!
満天の星が、画面いっぱいに広がった。
銀河を駆け抜けた光が、ヴァルテンベルク公爵家の紋章を描き出す。
華やかな音楽とともに映し出されたのは、青灰色の雲に覆われた惑星。
緑と褐色の大陸。 広大な海。白く輝く極冠。
その手前へ、豪華なドレスをまとったエレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルクが現れた。
『みなさまー!』
エレオノーラは満面の笑みで手を振った。
『この度、わたくしことエレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルク──開拓惑星ノイエルデの領主となりましたの!』
パッと扇を開く。
『こちらの惑星、なんと!』
期待を煽るように音楽が盛り上がる。
『宇宙基地はおろか──港すらございません!』
音楽が止まった。
宇宙港、なし。
宇宙基地、なし。
軌道エレベーター、なし。
そして小さく星間ネットワーク通信なし。
画面へ並んだ文字に、次々と大きな罰印が押されていく。
移民募集の宣伝としては、致命的だった。
『で・す・が!』
エレオノーラが扇を振る。
音楽が一気に華やかになり、何もなかった大陸へ色とりどりの区画線が走った。
『何もないからこそ、皆さまの土地になる余地がございますの!』
住宅。農地。牧場。工房。商店。事業用地。
『わたくしの領地へ正式に移住し、指定された区画へ定住してくださいませ!』
画面の中で家が建ち、畑が広がり、工房と商店が立ち並ぶ。
『その土地で百年間、本人または三親等以内のご親族が居住と開拓を続けてくださった場合──』
画面が虹色に輝いた。
中央へ、巨大な文字が躍り出る。
──永久所有権付与!
『その土地を、正式に皆さまのものといたしますわ!』
取得後の売買も自由。
ただし、配布区画と用途は領府が指定する。
必要な説明が、映像とともに次々と表示されていく。
『住宅を建てるもよし! 農地や牧場を開くもよし! 工房、商店、事業所を構えるもよし!』
エレオノーラは扇を広げ、華やかに微笑んだ。
『詳細をご確認のうえ──画面下のURLから、どしどし申請してくださいまし!』
申請用URLが大きく表示される。
『皆さまと開拓できますことを、心より楽しみにしておりますわー!』
最後にヴァルテンベルク公爵家の紋章が浮かび上がった。
──新天地で、あなたの土地を手に入れませんか?
完成した広報映像は宇宙五大言語へ翻訳され、各地の星間通信網へ一斉に配信された。
─────
配信直後。
《ヴァルテンベルク》の通信管理室は、静まり返っていた。
「完璧ですわ!」
本人は満足げだった。
対してセバスティアンは、しばらく何も言わなかった。
「……本当に、これで人が集まるのでしょうか」
「当然ですわ!」
エレオノーラは当然のように答えた。
「土地の永久所有権!欲しいに決まっておりますわ!」
「ですが、宇宙港すらない惑星でございます」
「宇宙港がないなら、宇宙港を必要とする方々に造らせればよろしいのですわ!」
「その理屈が通用するかどうかを懸念しております」
そのとき、通信士が声を上げた。
「お嬢様、申請が──」
言葉が止まった。
通信士は画面を二度見した。
「申請が殺到しています!」
「ほら!」
申請件数が、猛烈な勢いで跳ね上がっていく。
個人。家族。農家。商会。農業法人。鉱山会社。工房組合。輸送業者。
「受信処理が追いつきません!」
「申請用回線へ集中させろ!」
「無理です! ほかの回線からも問い合わせが──」
別の通信士が振り返った。
「つ、通信回線がパンクしました!」
セバスティアンは、目まぐるしく数字が跳ね上がる画面を見つめた。
「……これは」
「おーっほほほ! 当然ですわ!」
エレオノーラは勝ち誇ったように扇を開いた。
「貴族を含め、世の中は土地を持たない者ばかりですもの!」
貴族とて、帝国や皇帝から領地を預かっているにすぎない者は多い。
自分と子孫が永遠に所有できる土地となれば、欲しがる者が殺到するのは当然だった。
「さあ! 参りますわよ、セバスティアン!」
「何をでしょう」
「移民審査ですわ!」
「お嬢様みずからが!?」
エレオノーラは優雅に微笑んだ。
「他にどなたがするんですの?」
─────
「一家で農業をやっております」
一組目は、農家の一家だった。年寄り、息子夫婦、孫たち。
揃って頭を下げる彼らの周囲に、白い枠が浮かんでいる。
(相変わらず枠が見えますわね)
エレオノーラは申請書へ目を落とした。
「農地区画をご希望ですのね。ご家族そろって歓迎いたしますわ」
「ありがとうございます!」
二組目は若夫婦。
妻は青、夫は白。
「お二人とも採用ですわ!お二人でいらっしゃいな」
夫婦が顔を見合わせ、笑顔で頭を下げた。
三組目。白。
四組目。緑。
五組目。青。
申請書を読む。希望を聞く。採用する。
白。青。白。
扉が開くたび、違う色の枠が現れる。
エレオノーラは次の申請書へ手を伸ばし――ふと、止めた。
(……何かしら。この感じ)
見覚えがある。
大変、見覚えがある。
「次は、社員十人の食品会社です」
「…………十?」
「はい。全員での移住を希望されています」
扉が開いた。
一人、二人、三人。
ぞろぞろと入ってくる社員たちに、次々と枠が浮かび上がる。
白、緑、青、白、白。
青、緑、白、青──
黄。
「!」
最後の一人で、エレオノーラの視線が止まった。
十人。
色違いの枠。
最後に、黄色。
頭の中で、十枚のカードが一列に並んだ。
チャリン、チャリン、チャリン――チャリーン!
あれは──
ノーマル、ハイノーマル、レア、ノーマル、ノーマル、レア、ハイノーマル、ノーマル、レア。
──スーパーレア。
聞こえるはずのないカード排出音まで、ついた。
「……十連」
「はい?」
エレオノーラは机に両手をついた。
そうだ。
この、次こそはという期待。
白が続く焦れったさ。
SSRの金色が見えた瞬間の、心臓の跳ね方!
椅子を蹴る勢いで立ち上がる。
「これ、ガチャですわーーー‼」
「面接です」
「次の十連を!」
「面接を十人単位ですね。承知しました」
セバスティアンは十人分の申請書を揃え、係員へ指示を出した。
もう訂正すらしない。仕事が早い。
扉が開く。
エレオノーラは身を乗り出した。
白、緑、白、白、青。
白、白、白、緑──黄!
「黄!」
残る二人が入室するのも待ちきれず、黄色い枠の主を覗き込む。
工具箱。
小柄な身体。
白髪の老人。
「お爺様!」
「爺で悪かったな」
セバスティアンが、エレオノーラの前にすっと申請書を差し出した。
オットー・シュタイン。七十二歳。
魔導炉およびエネルギー工学。
SR。
出た。
また出た。
(このまま引き続ければ──)
エレオノーラは扉の向こうへ目を向けた。
まだまだ応募者が待っている。
(SRお爺様も出る。ですが、つまり、誰でも出る……!)
扇を握る手に力がこもった。
(金──すなわちSSRが……!)
まだ見ぬ美貌。
まだ聞かぬ美声。
それが今、あの廊下で順番を待っているかもしれない。
脳裏に浮かぶのは、アンナを取り囲む美形たち。
元婚約者もろとも、金枠のSSR──!
「今に見てなさいよ、アンナ!」
ばさりと扇を開く。
「わたくしが先に引き当ててみせますわー!」
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