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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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87/90

40 特訓追加!

 夜。


 ディートリヒは、礼服を前に退路を探していた。


 寸法は合っている。仕立ても見事だ。これを着れば、どこへ出しても恥ずかしくない側近になるらしい。


「本日は、ダンスの練習をいたします」


 セバスティアンが告げた。


「舞踏会のご予定でも?」


「近いうちに必ずございます」


 なぜ断言できるのか。


 この執事の予定表は、時々未来まで埋まっているようだ。


「私は護衛として出席するのでは?」


「護衛も社交も、側近の務めでございます」


「……こういう会合中は騎士機に乗っているはずでは」


「違います」


 即座に撃墜された。


 舞踏会には、公爵家の寄子貴族や皇族まで集まることもあるという。その場へ、エレオノーラの側近として出席するならば。


 踊れなければ話にならない。


 ではなぜ、得意な分野、騎士機の中で働かせてもらえないのか。


「会場の外で警戒を──」


「中で踊っていただきます」


 配置転換の希望も通らなかった。



 ─────



 セバスティアンの手本は、見事だった。


 背筋が美しく伸び、足が滑るように動く。向きを変えても上体は揺れず、何気なく置かれた手の位置まで整っている。

 黒い切れ長の瞳、その視線まで完璧に計算されたものだった。


 ディートリヒは頷いた。


「なるほど。動きはわかりました」


「では、合わせましょう」


 セバスティアンが向かいに立った。


 手が差し出される。


 ディートリヒは、その顔を見た。


「……練習相手は?」


「私ですが」


「女性役も?」


「はい」


 万能にもほどがある。


 教えられた位置へ手を添えると、ほとんど同じ高さに執事の顔があった。


 表情は穏やかだ。


 しかし、間違えたら絶対に見逃さない目をしている。


「始めましょう」


 一歩目。


 大きく踏み出す。


「歩幅」


「はい」


 二歩目。


 少し抑える。


「視線」


「はい」


 三歩目。


 相手を見て、進路を変える。


 セバスティアンの身体が、こちらの動きへ滑らかについてきた。


 うまくいった。


 そう思ったところで、止められた。


「ディートリヒ、女性を戦場へ引きずっていくおつもりですか?」


「そんなつもりは!」


「今の踏み込みと方向転換では、私でなければ転んでおります」


「すみません!」


「では、もう一度」


 もう一度。


 今度は歩幅に気をつけた。


 背筋を伸ばし、手の位置も守る。


 その結果、向きを変える前に一瞬止まった。


「止まらない」


「はい!」


「急がない」


「はい!?」


 止まらず、急がず。


 足だけでなく、注文まで難しかった。


 その間も、セバスティアンは優雅だった。


 ディートリヒが何を間違えても、美しい姿勢で対処してくる。


 むしろ相手のほうが、踊っている。


「……私が導いている感じがしません」


「まだ導かれておりませんので」


 進捗は正確に報告された。



 ─────



「剣を振るうとき、相手の動きをご覧になるでしょう?」


「はい」


「ダンスでは、相手の動きを感じてください」


「……難しいですね」


「敵ではございませんので」


 そう言われても、向かい側から絶えず弱点を指摘されている。


 身体の使い方は覚えられる。足運びも、順序も、何度か繰り返せば頭に入った。


 だが、相手と一緒に動くとなると、話が違った。


 自分の足が進みたい場所に、相手の足がある。


 避ける。


「回避行動を取らない」


 取ってはいけなかった。


「マリー」


「はい」


 セバスティアンに呼ばれ、メイドのマリーが近づいてきた。


「練習相手をお願いいたします」


「承知いたしました」


 彼女はディートリヒの前に立った。


 姿勢を整える。


 鋭い眼差しがこちらを見る。


「バウアー、小手調べだ」


「何の試合なんだ」


 なぜ、そんな顔で自分を迎え撃つのか。


 ディートリヒは手を差し出した。


 マリーがその手を取る。


 足を踏まないよう、慎重に動いた。


「下を見るな」


「見ないと踏みそうなんだが」


「見ても踏みそうになってる」


 厳しい。


 向きを変える。


 マリーが小さくよろめいた。


「ちょっと。今、行き先を変えただろ」


「すまない」


「私は君の進路を予知できない」


 横でセバスティアンが頷く。


「事前にお相手へ伝わるよう、導いてください」


「口で言っても?」


「踊りながら逐一説明なさるおつもりですか?」


 右へ行きます。


 次は左です。


 ここで回ります。


 想像して、ディートリヒは黙った。


 ダンスというより、未来予知だった。


「もう一度」


 セバスティアンが言う。


 ステップ。


 止められる。


 ステップ。


 指摘される。



 ─────



 休憩になった。


 ディートリヒは椅子へ座り込み、茶を飲んだ。


 身体は、まだ動く。


 ただ、背筋と視線と手と足と相手のことを同時に考えていたので、頭のほうが休みを欲しがっていた。


 セバスティアンが向かいに腰を下ろす。


「ところで、本番はどなたと踊るおつもりか、おわかりですか」


「……えっ」


 ディートリヒはカップを持ったまま止まった。


 執事を見る。


 セバスティアンが頷いた。


「っ!?」


 まだ名前は出ていない。


 けれど、誰のことかはわかった。


 顔が熱い。


「お、お嬢様と?」


 セバスティアンは茶を飲んだ。


 否定しなかった。


「いや、考えたこともありません! 身分が違いますし、私からなど……」


「お誘いすることさえ、許されないとお思いですか?」


「……私は、ただの平民騎士ですから」


「ならば、お嬢様にふさわしい振る舞いを身につけなさい」


 ディートリヒは口を閉じた。


 セバスティアンも、それ以上は言わなかった。


 茶を飲み、カップを置く。


 しばし、沈黙が流れた。


 ディートリヒの脳裏に、エレオノーラの顔が浮かぶ。


 彼女へ手を差し出す自分。


 取ってもらえたら。


 もし、一緒に踊れたら。


「再開いたしましょう」


 想像の中でさえ、まだ踊り始めていなかった。


「……はい」


 ディートリヒは立ち上がった。


 まずは、現実のマリーを転ばせないところからだった。



 ─────



 ダンスの練習は毎日、訓練後。


 マリーが相手を務め、セバスティアンが指摘する。


 ディートリヒは動きを直し、また踊る。


 少しずつ、口を挟まれる回数が減っていった。


 無理に引かない。


 自分だけ先へ行かない。


 次の動きを、腕と身体で伝える。


 マリーの足が、自然についてきた。


 向きを変える。


 今度は逃げられなかった。


 音楽に合わせて進み、回り、最後の一歩を揃える。


 きれいに止まった。


 一曲、踊り切った。


「……できた」


 ディートリヒが息を吐く。


 マリーも頷いた。


「今のは、ちゃんと踊れた」


 評価が、ようやく人類の社交へ届いた。


 セバスティアンも静かに頷く。


 ディートリヒは肩の力を抜いた。


 長かった。


 しかし、これで終わりだ。


 帰れる。


「では、通しで」


 セバスティアンが思考を遮った。


 ディートリヒは顔を上げた。


「……今のは?」


「一曲です。お誘いの礼から始めてください」


 ディートリヒは時計を見た。


 見間違いではなかった。


「あの、もう九時で」


「承知しております」


 時刻を把握したうえでの、通しだった。


 ディートリヒはマリーを見た。


 マリーは、すでに開始位置へ戻っていた。若干殺気立ってみえる。彼女も帰りたいのだろう。


 退路は、最初からなかった。


 今日もディートリヒの睡眠時間は犠牲となった。

 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!

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