38 アンナSide 砂礫の██_ 前編
帝国、皇帝直轄領──砂の惑星。
片田舎の砂の惑星を前に、船員は困った顔で振り返った。
「現在、現地は非常時厳戒体制に入っております。降下は推奨できません」
「えっ……」
ストロベリーブロンドの髪を揺らしていた、アンナの笑顔が止まった。
一同が彼女を見る。
アルブレヒトも。
マクシミリアンも。
コンラートも、ルーカスも、ロジャーも。
その他の美形たちも。
行き先を希望したのは、アンナだった。
「でも、行きたいんです!」
胸の前で手を握る。
ここには街がある。困っている人々がいる。
そして、座礁した海賊船が。
大人気俺様キャラクター、アクセル・ヴォルフがいるのだ。
原作『銀河聖国の星乙女』のイベント。
二・五周年。ハーフアニバーサリーイベントシナリオ『砂礫の幻灯』。
アンナは、その物語を知っていた。
─────
街がなかった。
正確には、街だったものがあった。
崩れた壁。折れた柱。砂に埋もれた屋根。 通りだった場所を、救助の人々が行き交っている。
仮設の天幕には、わずかに残った生存者が集められていた。救援物資はすでに運び込まれ、瓦礫の撤去も始まっている。
アンナは、船を降りたところで立ち止まった。
「どうして……何が、一体どうなって!?」
「落ち着け、アンナ」
アルブレヒトが肩へ手を添える。
「まず、話を聞こう」
「こんなはずじゃないんです! 街は……!」
アンナの言葉にアルブレヒトは赤い瞳を少しだけ見開いた。
もっと、人がいたはずだった。
建物も。
店も。
イベントの会話が始まる広場も。
目の前では、救助の作業員が崩れた石を運んでいる。アンナは天幕のそばにいた住民へ駆け寄った。
「あの、海賊は?」
「……海賊?」
「座礁してませんか? 船が、動けなくなっていて……」
住民は眉を寄せた。
「そんな奴らはいないよ」
「でも」
「座礁した船なんて見てない。軍の救援の船なら来てるが……」
アンナの口が、わずかに開いたまま止まった。
アルブレヒトは、その横顔を見た。
(アンナの先見が……外れたのか?)
彼女は、ここへ来れば何かがあると確信していた。
確かに、何かは起きている。
ただ、本人がいちばん驚いていた。
─────
アンナが顔を上げた。
青空に、鮮やかなピンク色の線が走っていた。
定規で引いたような、まっすぐな一本。
その周囲で、黒いものがちらついた。
途切れて、つながる、四角く欠けて、元に戻る。
映像が乱れているようだった。
茶金の髪の青年、コンラートが首を傾げながら感想を述べる。
「グリッチを起こしてない?」
だが、見上げているのは画面ではない。
「……何だ、あれは」
ルーカスが目を細めた。
皆も空を見つめている。
アンナだけに見えているわけではなかった。
「こんなはずでは……」
アンナが呟いた、そのとき。
風が吹き荒れた。
強風が砂礫を叩きつけてくる。
「出たぞーー!」
街の南から声が上がった。
「あいつだ!」
悲鳴が続く。
全員が振り向いた。
砂が盛り上がっていた。
小さな砂丘かと思ったそれに、棘があった。
何本も。
何十本も。
巨大な鯨を無理やり上へ向かせ、その身体じゅうに棘を生やしたような巨大生物が、砂を押し分けて現れた。
四階建ての建物ほどもある。
まだ街からは離れていた。こちらへ向かっている。
「話を聞く時間はなさそうだな!」
マクシミリアンが通信機を掴む。
アンナは知っていた。
あれは、イベントのボスだ。
海賊との出会いも。
街での交流も。
そこへ至るはずの話もない。
ボスだけ来た。
─────
アンナ、コンラート、ルーカスが魔導ユニットを取り出した。
アルブレヒトはマクシミリアンを見る。
「呼ぶぞ」
「おう!」
二人が通信機へ魔力を込める。
「「召喚!」」
飛空艇で待機していた騎士機が起動する。
召喚者の足元に召喚術式の円陣が青白い光とともに現れた。
呼び出しに応じた二機が、召喚陣から現れる。
アルブレヒトが乗り込み、マクシミリアンも操縦席へ飛び込んだ。
「前は俺が受ける!」
マクシミリアンの大盾持ちの騎士機が進み出る。
怪物が棘だらけの身体を振った。
棘と砂礫が飛ぶ。棘と言っても、数メートルはある。
盾へ激突し、凄まじい音が鳴った。
「……重いな、おい!」
「押し返せ!」
「簡単に言うな!」
アルブレヒト機が、その脇を抜けた。
剣が伸びる。
刃の節がほどけ、蛇腹剣が怪物の横腹へ叩きつけられた。
砂が爆ぜる。
怪物が身をよじる。
重低音の怪物の雄叫びがビリビリと大気を震わせる。
街へ向いていた巨体が、二機へ向き直った。
「今です!」
アンナのユニットから光が広がった。
きらめきが騎士機を包み、その動きを後押しする。
コンラートも後方で回復魔法を送り、前衛を支えた。
そこへ演奏が重なる。
亜麻色の髪を束ねた若者、ルーカス。
棘を振り上げた巨体が、わずかに鈍った。
騎士機乗りではない、今回は観戦してるだけのロジャーが声を上げた。
「効いてる!」
「このまま押せ!」
マクシミリアン機が盾を押し込みながら、剣を腹に突き立てた。
ルーカスもデバフ効果のある旋律を重ねる。
瓦礫の街を背に、演奏つきの大怪獣戦が始まっていた。
アンナは怪物を見据えた。
街が壊れている理由も、海賊がいない理由も、空の黒い乱れも分からない。
考えようとするたびに、目の前で棘が飛ぶ。
今は、倒すしかなかった。
「アルブレヒト!」
「ああ!」
騎士機が踏み込む。
蛇腹剣が怪物の棘を絡め取り、横へ引いた。
巨体が傾く。
「マクシミリアン!」
「任せろ!」
盾が突っ込んだ。
正面からの衝撃に、鯨の怪物が大きくのけぞる。
アンナの光が、さらに強まる。光がいくつもの光弾となり怪物にぶつかってゆく。
アルブレヒト機の剣が怪物の腹に突き刺さったた。
衝撃波が轟音となってあたりに響く。
怪物が、崩れた。
─────
大量の砂が舞い上がった。
轟音が遠ざかり、地面の揺れが収まっていく。
演奏が止まった。
アンナは息を吐いた。
コンラートも、張り詰めていた肩をわずかに落とす。
砂煙の向こうで、巨体は動かなかった。
「やったか?」
マクシミリアンの声が響いた。
アンナが顔を上げる。
その言い方は。
ずずずずずん。
倒れたはずの巨体が跳ね起きる。
「危ない!」
巨大な影が立ち上がった。
「お前が星乙女か」
後編もこの後投稿します。
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