34 回しますわ! 出るまで!!
「知っておりますわーーーー!!」
エレオノーラの声が収まると、会議は再び動き始めた。
「ですから、地上の整備が間に合わない住民を、どこで冬越しさせるかという話でして」
ベネディクトが資料へ手を添える。
「居住環境が揃っている船を活用することは、十分に検討すべきでしょう」
「活用するなとは言っていません。軌道上から失うものを、どう補うのかと申し上げています」
通信画面の向こうで、ブロームが応じた。
誰かが口を開くたびに、またひとつ、決めなければならないことが増える。こちらを片づけようとすれば、今度はあちらに困る者が出る。
けれど。
エレオノーラは、閉じた扇を卓上へ置いた。
(ああ……皆様、わたくしに教えてくださっているんですのね)
ベネディクトは、冬を迎える地上の人々を見ている。
ブロームは、この星を守るために必要なものを知っている。
艦長が降ろしたがらないのも、自分の艦を手放したくないからではなかった。
シュミットが示した旧計画にも、それが必要になった場合に守るべき人々がいた。
イルゼの求める数字がなければ、必要な仕事に支払いができない。
ネーベルが整理しようとしている住民情報のひとつひとつにも、手間と時間がかかる。
皆、知っていることを持ち寄っている。
自分が判断するために。
エレオノーラは人口に関する資料を引き寄せた。
地上には、不法滞在者を含めて約七万人。
小さな村や集落も勝手に増えている。
正確な把握が追いつかないほど、人は増え続けている。
そして〈ヴァルテンベルク〉の艦内人口も、いまや三万人以上に膨れ上がっていた。
合わせて、十万人を超える。
数字だけなら、一行で済んでしまう。
けれど実際には、誰もが場所を取り、食事をし、夜になれば眠る。ひとりで来た者も、家族を連れて来た者もいる。働き口を求めた者、商売を始めた者、まだ住まいさえ決まっていない者。
その全員が、明日もここで暮らす。
(降ろしても、降ろさなくても……)
艦を降ろせば、地上の冬支度は大きく前へ進む。
その代わり、空いた軌道上をどうするのか。
降ろさなければ、防衛と通信は維持できる。
それでは、地上で厳しい冬を迎える人々をどうするのか。
食糧の供給、暖房、燃料……
何も決めずに待っていても、冬は来る。
(十万人の人生が、わたくしのサインひとつで決まってしまう)
自分の手へ目を落とす。
何枚もの書類に署名してきた手だった。
採用を決め、仕事を任せ、支出を認める。そのたびに誰かが動き、人や物が運ばれ、街の姿が変わっていった。
そこまで含めて、領主のサインなのだ。
エレオノーラは、指先をゆっくり握り込んだ。
この巨大艦には、自分が指揮を執れなくなった場合の計画まで用意されていた。
娘が動けなくても、人々が地上で暮らし、開拓を続けられるように。
そのための街を、父は船に載せて寄越した。
(お父様……)
途方もない支援だった。
金額や艦の大きさだけではない。
艦を動かす軍人がいる。暮らしを支える者がいる。その彼らには家族がいて、それぞれに仕事と生活がある。
(わたくしのためだけに、これだけの人を……)
そこへ、ノイエルデで暮らしていた人々が加わった。
新たにやって来た移住者も増えた。
気づけば、自分の判断を待つ人々は、十万人を超えている。
(そして、わたくしのせいで、これだけの人が……)
脳裏に、エアハルトの顔が浮かんだ。
その隣にはアンナがいた。
プロムの会場に響いた声。
『君との婚約を破棄する!』
婚約破棄。追放。
あの場所で下された処分の先に、いま、自分は座っている。
彼らの顔を思い出すのは簡単だった。腹を立てることも、いくらでもできる。
けれど、それで地上に家が建つわけではない。
軌道上の穴も埋まらない。
エレオノーラは顔を上げた。
(絶対に、この借りは返しますわ)
この星で成し遂げたものを、見せてやる。
追放された娘に、これほどの支援を用意してくれた父にも。
自分について来てくれた者たちにも。
(必ず成功させてみせます)
開拓を始めたときに、約束したのだ。
ここへ来たことを、誇りに思わせると。
(華麗なる帝都凱旋を! 約束したんですの!)
その約束を、冬の手前で投げ出すわけにはいかない。
では、自分には何ができるのか。
署名をする。
それは、決めたことを実行へ移すための仕事だ。
現地を見る。人々の話を聞く。必要な指示を出す。
どれもしてきた。これからも、しなければならない。
(……それだけ?)
エレオノーラの視線が、ベネディクトへ向いた。
行政を担う人間が足りなくなった。
だから、募集した。
面談を重ね、必要な人材を探し、この男を迎えた。
自分にできないことを、できる人間に任せる。
足りないものを、外から連れてくる。
ずっと、そうしてきたではないか。
画面の中では、ブロームが軌道上の役割を示していた。
〈ヴァルテンベルク〉を降ろすなら、その代わりが要る。
守りを失ってよいわけではない。
ならば。
エレオノーラの口元に、笑みが戻った。
(引くだけですわ!)
「セバスティアン!」
会議の声が止まった。
隣に控えていた執事が、すぐに姿勢を正す。
「はっ」
「ガチャの準備を!」
ベネディクトが顔を向けた。
ネーベルが顔を上げる。
通信画面の向こうでは、ヴァルター艦長が眉を寄せていた。
冬支度と惑星防衛の話をしていたはずである。
そこへ唐突に、聞き慣れた者には聞き慣れた、聞き慣れない者にはまるで意味のわからない命令が飛び込んできた。
セバスティアンだけが、静かに一礼した。
「承知いたしました」
エレオノーラは出席者たちへ向き直った。
「〈ヴァルテンベルク〉降下計画を了承します!」
「お嬢様!?」
「閣下!?」
ベネディクトとブローム、両方から声が上がった。
ブロームが身を乗り出す。
「お待ちください。先ほどから申し上げているとおり、防衛や通信の問題が──」
「ええ。伺いましたわ」
エレオノーラは、まっすぐにその視線を受けた。
「〈ヴァルテンベルク〉が軌道上で果たしている役割は、失えません。通信も、監視も、この星を守るための備えも。必要だからこそ、皆様は反対なさっているのでしょう?」
「……そのとおりです」
「でしたら、その備えを用意いたします」
ブロームの口が、わずかに開いた。
エレオノーラは卓上の扇を取り上げる。
「地上で冬を越す方々には、住まいと生活の備えが必要です。〈ヴァルテンベルク〉の設備を、そのために使います」
ベネディクトがこちらを見ていた。
エレオノーラは頷き、それから再び画面へ顔を向ける。
「ですが、防衛は諦めません。募集をかけますわ」
「な、何をなさるおつもりで……?」
ブロームの問いに、扇を開いた。
足りないから、片方を諦める。
だが、まだ自分にできることがあった。
来てくれる者がいるかどうかは、探さなければわからない。
条件を示し、話を聞き、必要な力を持つ者を迎える。
今度は、その規模が少々大きいだけだ。
「ないなら、引くまで」
扇の上から、エレオノーラは微笑んだ。
「艦隊ごと招聘しますわ!」
ヴァルターの口が開いたまま止まった。
シュミットが瞬き、情報将校は表示中の資料とエレオノーラを見比べる。
ベネディクトも、さすがにすぐには言葉が出なかった。
ネーベルの筆が止まり、イルゼがゆっくりと顔を上げた。
エレオノーラは、その全員を見渡した。
艦を降ろす。
この星も守る。
どちらも叶えるために、足りない戦力を連れてくる。
十万人の人生がかかっていると知った。
だからこそ、できることをすべてやるのだ。
エレオノーラは扇を高く掲げた。
「回しますわ! 出るまで!!」
本日は2話更新となります。
めっちゃかっこつけてるけどガチャまわす宣言です。
そう、これはそういう話です。
「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」
「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」
ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!




