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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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33 冬が迫ってますわよ!

「なぁにぃ!? 〈ヴァルテンベルク〉を下ろしたいだぁ!?」


 惑星ノイエルデ軌道上。


 巨大艦〈ヴァルテンベルク〉の艦橋に、ヴァルター艦長の声が響き渡った。


 周囲の乗員が一瞬だけ顔を向け、すぐにそれぞれの仕事へ戻る。


 報告を持ってきたブロームは、声量にも表情にも変化をつけずに続けた。


「どうやら越冬のために、新任の執政官が提案されたようで」


「はぁー、マジかよ……」


 〈ヴァルテンベルク〉艦長ヴァルターは額を押さえた。


 地上側で冬支度が難航していることは知っている。


「これをか。これを、下へ?」


「はい」


 ブロームの返事は短い。


 はい、で済ませてよい大きさの艦ではない。


「しかし、そうなったら……」


 副艦長のシュミットが、窓の外へ目を向けた。


 眼下には、ノイエルデの大地と雲が広がっている。


 半年前、エレオノーラはこの船を降ろさないと決断した。


 あの地表で、これから大勢の人間が冬を迎える。


 一方で、この軌道上にも、ここを離れては果たせなくなる役割があった。


「この星の防衛や通信は……」


「そうだよ。それをどうするんだって話だ」


 ヴァルターは額から手を離した。


 〈ヴァルテンベルク〉は、人を大勢泊められる便利な宿ではない。


「ヴォルフ宇宙基地は民間製の、一、二世代前のインフラ設備しか備わってません。通信機材も古いですし、基地や港としては大きさは十分すぎるほどではありますが……」


「〈ヴァルテンベルク〉に使われている技術や指揮能力には足元にも及びません。大幅な防衛力低下を招きます」


 軍事顧問ブロームと副艦長シュミットが補足する。


 艦がここにいるからこそ担える仕事がある。


 下へ降ろして住民を収容しました、冬を越せました、めでたしめでたし、と終われる話ではなかった。


「まぁー、お嬢様がサインしたら俺らは従うだけだが……お前らちゃんと説得しろよぉ」


「でしたら艦長も同席を」


 ブロームが艦長に顔を向ける。


「はぁー!? 俺は忙しいんだよ!」


 顔を上げたヴァルターへ、シュミットが頷く。


「賛成します」


「お前はどっちの味方だ!!」


「領主の決裁ですが」


 味方を尋ねたのに、決裁権の所在を返された。


「ああ、くそ!!」


 ヴァルターは卓上の資料を引き寄せた。


「わかったよ! 出りゃいいんだろ、出りゃ!」



 ─────



 その数時間前。


「というわけで、目下の差し迫った問題は冬支度ですの」


 卓を囲む面々へ、エレオノーラは顔を上げた。


「まずは皆様に、無事に冬を越していただかなければなりませんわ」


「なるほどです」


 新たに行政を担当することになったベネディクトが、手元の資料から視線を上げる。


「お嬢様、この〈ヴァルテンベルク〉、ほかにはどのような機能が?」


「〈ヴァルテンベルク〉ですの?」


「ええ」


 冬支度の話から、艦の機能へ。


 少々意外な問いではあったが、冬を越すために頼りにしているもののひとつが、あの巨大艦なのだから無関係ではない。


「わたくしもすべて把握しているわけではなく、お父様がわたくしにつけてくださった支援艦ですわ」


「いや、支援艦って規模じゃないでしょう」


 返事が速かった。


「うちの奥さんや娘も、家が決まるまでまだ〈ヴァルテンベルク〉に滞在していますが……あれ、船の中に住んでるというより、街に住んでるでしょう」


「……まあ、街のようなものですわね」


「ですよねえ」


 ベネディクトは頷いた。


「セバスティアン。艦の資料はございます?」


「はい。こちらが本艦のデータと概要です」


「どーも」


 差し出された資料を受け取り、ベネディクトは内容を確認し始めた。


 頁を送り、ひとつ前へ戻り、別の項目と見比べる。


 その間に、エレオノーラは冬支度の話を続けた。


「やはりもっと艦内で食糧を作らせたり、家の備えがない者は上にあげたり……」


「地上で暮らせる方には、その備えを。難しい方には、上で過ごしていただく準備を。どちらにしても、早めに確認が必要ですわね」


 言いながら腕を組み目を伏せる。


「いや、お嬢様」


「はい?」


 顔を向けると、ベネディクトは艦の資料を卓上に置いた。


 そして、机の端にある荷物でも移すような調子で言った。


「下ろしちゃいましょう。〈ヴァルテンベルク〉を」


「えっ」



 ─────



「反対です」


 通信会議が始まって間もなく、ブロームが言った。


 領府の会議室に映る艦側の面々は、ブローム、ヴァルター艦長、副艦長シュミット、それに情報将校。


 対する地上側には、エレオノーラとベネディクト、ネーベル、イルゼ、セバスティアンが席を並べていた。


 挨拶を終え、ベネディクトが着陸案の趣旨を説明し、ブロームが反対した。


「本艦は現在、軌道上における防衛と通信の要を担っています。地表へ降ろせば、同じ運用はできなくなる」


 ブロームは艦の配置を示す資料を提示した。


「地上の居住設備として活用できることと、軌道上から失ってよいことは別です。代わりを用意せず降ろすわけにはいきません」


「ですが、地上の整備が冬に間に合わない場所もありますので」


 栗毛の美丈夫ベネディクトが応じる。


「この船には、すでに人が生活できる設備があります。使えるものを使わず、地上で一から揃えるのを待っていては、間に合わないでしょう」


「必要な住民を艦へ移せばよい」


「上へ移す間も、地上での生活は続きます。必要な人と物を、すべて行き来させることになりますが」


「そのために惑星全体の防衛を手放すと?」


「手放してよいとは申しておりません。今ある設備を、冬を越すために活用すべきだと申し上げております」


 どちらも声を荒らげてはいない。


 それなのに、会議室の空気は早くも硬くなっていた。


 冬を越す住まいが必要だ。


 星を守る備えも必要だ。


 どちらか片方だけでよいなどと、言えるはずもなかった。


 画面の中で、ヴァルターがわずかに椅子へ背を預ける。


(ブロームが言ったから、もう言うことねえな……)


 防衛。通信。軌道上から艦がいなくなる影響。


 自分が説明しようと思っていたことは、今のところ、この黒髪ちょび髭の軍事顧問がすべて説明していた。


 同席しろと言われたから来た。


 来たが、もう言われた。やることはない。


 ヴァルターが黙っている間にも、議論は進む。


「ですが、この船はそもそも移民船、または避難船として作られたんですよね?」


 ベネディクトが、艦の資料を開いた。


「……え?」


 エレオノーラは顔を向けた。


 巨大な空母であり、街でもあり、大勢が暮らせる艦であることは知っている。


 しかし、移民船または避難船とは初耳である。


「いつか来る超長期航海に備え、何年も暮らせる生態系ごと抱えた、移動都市型空母」


 ベネディクトは資料の記述を読み上げる。


「そうありますが、今こそその役割を果たすべきでは?」


 エレオノーラも、同じ項目へ目を落とした。


 住居だけを詰め込んだ船ではなく、その生活を支える環境まで抱えて移動する都市。なんのために公爵家がそれを建造したのか、深く考えたことなどなかった。


「地上では、住まいも生活設備も足りていません。〈ヴァルテンベルク〉には、それがある」


 ベネディクトが続ける。


「ならば、住民の暮らす場所へ持ってくる。そういう使い方も、検討すべきでしょう」


「一度着陸させた本艦を、どうやって軌道へ戻すつもりです」


 ブロームの問いに、エレオノーラは顔を上げた。


「着陸できれば、それで済む話ではありません」


 ブロームの声が、会議室へ届く。


「承知しております。ですが、艦内の設備を使えば──」


「それで二度と上がれなくなると話している」


 言葉が、ぴたりと止まった。


「しかし、何万人もの住民が冬を迎えるわけでして」


「その住民を誰が守る?」


「その住民を凍死させるわけにもいかないでしょう」


 ベネディクトの口調から、先ほどまでの軽さが消えていた。


 ブロームも引かない。


 ふたりの間に置かれているのは、同じ星に暮らす人々だった。


 その人々をどう守るかで、結論が正反対になっている。


 エレオノーラが口を開きかけた、そのとき。


「ひとつよろしいですか」


 イルゼが手を上げた。


「イルゼ?」


「着陸にかかる費用は、どこの予算から出すんです?」


 静かになった。


 それまで隙間なく行き交っていた言葉が、見事に途切れた。


 イルゼは白髪の頭をわずかに傾け、目の前の資料を一枚めくる。


「そもそも着陸後の維持費もございますでしょう。まず見積もりを出していただかないとね」


 ベネディクトが自分の資料を見た。


 ブロームも黙っている。


「いや、だから下ろしたくねえって言ってんだろ!」


 ここで初めて、ヴァルターが会議へ勢いよく参加した。


 イルゼは画面へ顔を向ける。


「では、地上の住民を艦に上げる費用の見積もりもお願いします」


「俺に言うなよ!!」


「輸送には艦側のご協力が必要になりますよ!」


「そりゃそうだが!」


 発言しなければよかった。


 ヴァルターの顔に、そう書いてあった。


 エレオノーラは、そっと自分の資料を見下ろした。


 上げてもお金。


 下ろしてもお金。


 エレオノーラは、先ほどまで確認していた行政資料へ視線を移した。


「失礼します」


 艦側の情報将校が発言を求めた。


「着陸に伴う通信網への影響についても、検証が必要です」


 新たな資料が表示される。


「現在、本艦が軌道上から担っている通信と監視の役割は、着陸後、同じ形では維持できません。代替手段を確認しないまま着陸することはできないと考えます」


「そのとおりだ」


 ブロームが頷いた。


「住居としての利点だけで決められる話ではない」


「では、代替手段を検討する必要がございますね」

 セバスティアンが確認を取る。


「……はい」


 情報将校が頷く。


「防衛についても同様です。現在、本艦が担っている役割を整理し、地上へ降ろした場合に何が不足するのか、確認する必要があるかと存じます」


 セバスティアンの手元で、議事録が増えていく。


 ヴァルターは、その様子を見ていた。


 降ろせない理由を説明したはずだった。


 それがいつの間にか、降ろせるかどうか調べるための仕事に変わっている。


(嫌な流れだな、おい)



 ─────



 ヴァルターが口元をへの字に曲げたところへ、シュミットの声が続いた。


「しかし、本艦を地上へ降ろす計画自体は、以前から存在していました」


「えっ?」


 エレオノーラが画面を見る。


「おい」


 ヴァルターも隣を見る。


 シュミットは、両方の視線を受けながら説明を続けた。


「お嬢様が指揮を執れなくなった場合の、旧準備計画です。本艦を地上へ降ろし、開拓都市として使用することが想定されていました」


 エレオノーラは、扇を動かす指を止めた。


 自分が動けなくなった場合。


 その言葉には、一瞬、胸の奥をつつかれるものがあった。


 自分が開拓を投げ出す、または逃げ出した場合も考えられていた。


 自分がどうするかとは別に、この星へ来た人々の暮らしは続く。続けられるよう、用意されていた計画なのだろう。


「やはり、想定されていたのですね」


 ベネディクトが頷く。


「それは非常時の計画だ」


 ブロームが、すぐに釘を刺した。


「現在の運用を捨ててでも降ろさなければならない状況と、今とでは条件が違う」


「はい。ですので、今回その計画を使用できるかは別問題です」


 シュミットは平然と答える。


 ヴァルターが身を乗り出した。


「そうだ! 別問題だ!」


 ようやく話に口を挟めた。


 計画があったから下ろしましょう、ではないのだ。


 非常時の備えと、いま艦長として預かっている艦の運用を、一緒にされては困る。


 ようやく隣に味方がいたと、ヴァルターが頷いた、その直後。


 シュミットが付け加える。


「ただし、検討する価値はあるかと」


「お前はどっちの味方だーーー!!」


 地上の会議室まで、艦長の声がよく届いた。


 通信状態は良好である。


 これを失うのも問題なのだと、エレオノーラは妙なところで実感してしまった。


 シュミットは涼しい顔で、資料へ目を戻している。


 ベネディクトも、ブロームも、旧計画の存在を受けて、それぞれの手元を確認していた。


 エレオノーラは、卓上に並んだ資料を見渡した。


 ベネディクトの提案が軽かったわけではない。


 あのひと言で動かそうとしたものが、あまりに大きかったのだ。


「いずれにしても、冬を迎えるまでに生活の備えが必要です」


 ベネディクトが言う。


「そのために、防衛上の空白を作るわけにはいきません」


 ブロームが応じる。


 そして艦長は、画面の向こうで実に不本意そうな顔をしていた。


 エレオノーラは、気づく。


 全員が、こちらを見ている。


 いつの間にか、話す者がいなくなっていた。


 地上からも、軌道上からも、視線だけが一か所に集まっている。


 エレオノーラは開きかけた扇を止めた。


「…………」


 皆、それぞれの仕事をしている。


 住民を守るために必要なことを述べている。


 それを聞いて、最後にどうするか決める者は。


「皆様、わたくしを見ないでくださいまし」


「最終的にはお嬢様のご決裁となります」


 すぐ隣から、セバスティアンが穏やかに告げた。


「知っておりますわーーーー!!」

 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!

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