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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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32 星喰いのおやつ

 漆黒の宇宙空間──〈ヴェスペル小惑星帯〉。


 全長五メートルほどの岩塊の上に人型の姿があった。

 ぽり、ぽり、と真っ黒な人型、クシュダーが岩を食べていた。


 足元に転がっているものを拾い、口へ運ぶ。ひとつ食べ終われば、また次のひとつ。少し大きなものは両手で持ち、端から齧っていく。


「おやつー」


 ご機嫌だった。


 食べ物がそこらじゅうに落ちている。なくなる前に次が見つかる。クシュダーにとっては、実に過ごしやすい場所である。


 少し離れた場所でその様子を黙って眺めている女がいた。

 紫黒のシルクサテンドレスに黒いヴェールの婦人、マーツァリヤだ。


「ふむ……」


 周囲では、部下たちが落ち着かない様子で控えている。大きく割れ空洞化した身体を寄せ合い、ときおり互いを見やっては、またふたりへ視線を戻す。


 クシュダーがおとなしく岩を齧っている間は、ひとまず何も起こらない。


 しかし、マーツァリヤの沈黙が長い。

 ヴェールから覗く赤い唇が不満げに歪むのが見えた。


 部下のひとりが窺うように身を乗り出したとき、マーツァリヤが口を開いた。


「クシュダー」


「ん?」


 岩を口にくわえたまま、クシュダーが顔を上げる。

 漆黒ののっぺらぼうに赤い輝きが二つ。


 次の瞬間、その身体がひょいと持ち上がった。

 マーツァリヤの翡翠色の長い髪が広がる。


「んん?」


 足が地面を離れる。


 クシュダーは足元を見て、それから自分を掴んでいる手を見た。


 何をされているのか、まだよくわかっていない。


 わからないまま、残りの岩をぽりりと齧った。


 マーツァリヤが飛翔した。


 足場にしていた岩塊が、瞬く間に遠ざかる。


「あっ、マーツァリヤさま!」


 部下たちも慌ててあとを追った。


 クシュダーは持ち上げられた格好のまま、流れていく景色を眺めていた。


 大きな岩がある。


 もっと大きな岩もある。


 先ほどまで自分が拾っていたものなど、比べものにならない岩塊が、暗い宙にいくつも浮かんでいる。


 クシュダーがそちらへ手を伸ばしかけるたび、マーツァリヤは構わず先へ進んだ。


 やがて小惑星帯を抜けると、行く手にひとつの惑星が現れた。


 黒と赤の、まだら模様。


 黒く固まった表面のあちこちを、赤い光が押し広げている。亀裂の奥ではマグマがうねり、暗い地殻の縁を呑み込みながら、どろりと流れていた。


 近づくにつれて、赤い部分にも濃淡があることがわかる。


 鈍く光るところもあれば、眩しく煮え立つところもある。


 マーツァリヤは、その煮えたぎる鉱石惑星を見下ろした。


 クシュダーも見下ろした。


 マーツァリヤの手に力がこもった。


「ん?」


 クシュダーが顔を向ける。


 その身体が、大きく振り上げられた。


「わー」


 次の瞬間、惑星へ向かって叩き落とされた。


 足元にあった赤黒い球体が、急速に近づいてくる。


 丸かったはずの星が視界いっぱいに広がり、その向こうにあった闇が、上へ上へと遠ざかっていった。


「その星全部食い切るまで帰ってくるんじゃないよ!」


 頭上から、マーツァリヤの声が追ってきた。


 クシュダーは両手をばたつかせた。


 全部。


 目の前にある、これを。


 さっき両手で持っていた岩とは、どうも大きさが違う。


 確かめる暇もなく、落下する身体の周囲が赤く輝いた。


 熱が全身を包む。


 落下の摩擦で燃え上がった炎が、後ろへ長く尾を引いた。


「あちいいい! ああああ!」


 ご機嫌なおやつの時間は、突然終わった。



 ─────



「マーツァリヤさま!」


 追いついた部下たちは、眼下へ伸びる火の筋を見た。


 次いで、投げた当人を見る。

 ヴェールが完全にめくれ、性格のキツそうな美女が顕になっている──ただし顔面の右側は割れていた。

 割れた内側には漆黒の闇が広がり、真珠粉の如き輝きが瞬いている。

 宇宙空間のようだ。


 マーツァリヤは涼しい顔で、クシュダーの落ちていく先を眺めていた。


「あの、クシュダーさまが……!」


「見えている」


「燃えておりますが!」


 言われるまでもなかった。


 小さな身体を包む炎は、ここからでもよく見える。


 部下のひとりが思わず前へ出かけたが、マーツァリヤは眼下から視線を動かさなかった。


「こんなちいさな岩じゃだめだ」


 手に残っていた岩の欠片を、指先で弾く。


 クシュダーが先ほどまで、嬉しそうに食べていたものだ。


 欠片はくるくると回りながら、闇へ流れていった。


「ひとつ拾って、ひとつ齧って。また拾って……いつまでやっているつもりだい」


「ですが、まだ幼生でいらっしゃいますし……」


「だから、まるごと食わせるんだ」


 部下は眼下を見た。


 食事を与えたことに、間違いはない。


 ただ、食事のほうへ投げ込まれるとは思わなかった。


 赤黒い惑星の手前で、重力に囚われたクシュダーが必死に手足を振り回している。


 マーツァリヤの口元が、わずかに歪んだ。


「幼生をちんたら世話してる間にも、他の奴らに差をつけられる。あたし自身も〈力(ウールジャー)〉

を集めなければ」


 部下たちは口をつぐんだ。


 マーツァリヤは、小惑星帯のほうへ一度だけ目を向ける。

 そして再び割れた顔を隠すようにヴェールで覆った。


 彼女らヴィランはマネキンのような虚ろな器の身体を持ち、真空でも死なないのだ。酸素を必要としないが〈力〉を必要とする。


 そして彼ら彼女らの目的のためにも〈力〉が要る。


「遅すぎる」

「早く大きくなれ」


 星喰いの世話。


 そうしている間にも、ほかの者たちは先へ進む。


 その事実が気に入らなかった。


 世話をしているから仕方がないなどという理由で、遅れを取るつもりはない。


 なお、ここまでの会話は意思に魔力を乗せた念話である。

 どうやって会話してるかについては心配しないでいただきたい。


 再び惑星へ目を戻す。


 あれならば、次の岩を探す必要もなかった。


 食べるものは、目の前にある。


 いくら齧っても、すぐにはなくならない。


 マーツァリヤは、それで十分だと言わんばかりに腕を組んだ。


「あちいい! かあちゃん!」


 下から悲鳴が上がった。


 炎の中で、クシュダーがこちらへ手を伸ばしている。


 つい先ほどまで岩を握っていた手が、いまは何もない宙を必死に掻いていた。


 部下たちの視線が、いっせいにマーツァリヤへ集まる。


 マーツァリヤは大きく顔を上げた。


「しっかりしろ! 〈星喰い〉だろ!」


「やだーー!」


 部下のひとりが、おずおずと声を挟む。


「あの、せめてもう少し、小さなものから……」


「それじゃ遅いと言っている!」


 取りつく島もなかった。


 クシュダーは落ちていく。


 拾う手間も、次を探す手間もいらない、途方もなく大きな食事へ。


 赤く煮える地表が、ますます近づいてくる。


「あちい! あちいいい!」


「食えばなくなる!」


 マーツァリヤの指が、惑星を示した。


「全部だよ!」


「かあちゃああああん!」


「あたしは! まだ未婚だ!」


 部下たちは、もう何も言えずに見守っていた。


 つい先ほどまで、岩の欠片をぽりぽりと齧っていたのに。


 今度のひとつは、まだ、端すら見えなかった。

 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!

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