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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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28 親睦会ですわ! 前編

 領地経営に必要なものは何か。


 資金。人材。産業。軍事力。そして、行政組織。


 エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルクは、これまでの開拓事業を通じて、その重要性を嫌というほど思い知らされていた。


 特に資金。


 資金である。


 お金はいくらあっても足りない。


 それでも、父から教わった領地経営の心得には、もう一つ大切なものがあった。


 人とのつながりである。


 領主一人で領地を発展させることはできない。企業も商人も住民も、それぞれの立場で領地を支えている。彼らの声に耳を傾け、信頼関係を築くこともまた、領主の務めなのだと。


「親睦会ですわ!」


 こうして、エレオノーラ主催の親睦会が開催されることになった。


 ─────


 会場となったのは、エレンシュタット(仮)の集会施設だった。


 普段は会議や住民向けの催しに使われる建物も、今夜ばかりは華やかな装いに変わっている。


 壁には装飾が施され、テーブルには料理が並び、暖房の効いた室内には談笑する人々の声が満ちていた。


 もっとも、帝都の貴族が開く夜会とは比べるべくもない。


 床に敷かれた絨毯も、並べられた食器も、どこか実用本位だ。窓の向こうには、建設途中の街並みが広がっている。


 だが、エレオノーラにとっては、それが何より誇らしかった。


「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます!」


 エレオノーラが挨拶すると、会場から拍手が起こった。


 企業オーナー、商店主、街区代表、地元住民の代表者。そして宗教関係者。


 出身も身分も異なる人々が、一つの会場に集まっている。


 その光景を見ただけで、エレオノーラは胸がいっぱいになった。


(まあ……なんだか、本当に領主らしいことをしておりますわ!)


 もちろん、本人は大真面目である。


 問題は、その後だった。


「エレオノーラ様! このたびは素晴らしい機会をありがとうございます!」


「公女殿下のおかげで、我々も安心して商売ができます!」


「この短期間で、これほどの都市を築かれるとは!」


「まさに類まれなる統治の才覚ですな!」


「まあ!」


 エレオノーラは扇を口元に当てた。


「お、おほほほ……皆様、大げさですわ!」


「とんでもない! 我々は公女殿下の手腕に感服しているのです!」


「移民を呼び込み、企業を誘致し、これほどの商業機会を生み出された!」


「開拓地に進出した我々にとって、これほどありがたいことはありません!」


「まあまあまあ!」


 褒められる。


 とにかく褒められる。


 おだてすぎである。


 エレオノーラは満面の笑みを浮かべながら、内心では冷や汗を流していた。


(いや、あの……)


(わたくし、ほとんどお父様のお金を投入しているだけですわよ!?)


 もちろん、実際にはそれだけではない。


 移民の募集も、企業の誘致も、人材の確保も、彼女自身が判断してきたことだ。


 だが、本人としては、資金さえあれば何とかなると思って始めた事業が、予想以上に大きくなってしまったという感覚が強い。


(そもそも、まだまだ赤字ですし!)


 領地経営の成果を褒められるたび、頭の片隅に財政資料が浮かんでくる。


 マイナス。

 地の底に向かって落ちていく棒グラフ。


 その隣では、セバスティアンが穏やかな笑みを浮かべていた。


「お嬢様。次は商業区の代表の方々がお待ちです」


「ええ! 参りましょう!」


 セバスティアンは完璧な所作でエレオノーラを案内する。


 華やかな親睦会。


 ただし、運営側は戦場である。


 ─────


「これはこれは、エレオノーラ様」


 次に声をかけてきたのは、鮮やかな長袍をまとった青年だった。


 ルオ・シャオ。


 ユージン街区の代表である。


 相変わらず、細められた目からは何を考えているのかさっぱりわからない。


「シャオ様! 本日はお越しいただき、ありがとうございます」


「こちらこそ、お招きいただいて光栄どす。ほんま、えらい賑わいどすなぁ」


「おかげさまで、たくさんの方にお集まりいただけましたの!」


「それは何より。うちの街区の者も、ようお世話になっております」


 シャオは優雅に微笑んだ。


「これからも末永う、よろしゅうお付き合いさせていただきたいもんです」


「もちろんですわ!」


 エレオノーラもにっこり笑い返す。


 シャオは曲者である。

 原作『ホリスタ』において、そう描かれていた。間違いない。絶対腹の中は真っ黒である。


 だが、ユージン街区の代表として住民たちをまとめているのも事実であり、今のところ良好な関係を築きたいという意思も感じられる。


 エレオノーラとしては、ぜひとも仲良くしたい相手だった。


 そこへ。


「よう、姫さん。盛況じゃねえか」


 聞き慣れた声がした。


 振り返ると、銀髪に眼帯の男が立っている。


「……アクセル!?」


 エレオノーラは目を丸くした。


「なんでいらっしゃいますの!?」


「なんでって、招待されたから来たんだろうが」


「いえ、そうではなくて! あなた、開拓軍のお仕事は!?」


「俺はヴォルフ商会の会頭でもあるんだが?」


 アクセルはギザ歯を見せて笑う。


「あっ」


 そうだった。


 アクセル・ヴォルフ。


 元海賊にして、ヴォルフ商会の会頭。


 現在は開拓軍にも関わっているという、なかなか複雑な肩書きの持ち主である。


「でも、軍務はよろしいんですの?」


「平時は駆逐艦と巡洋艦しか出さなくていいって決まったんだよ。俺が毎日、艦隊を率いて飛び回る必要はねえ」


「まあ……そうですわね。戦艦で街の警備をするわけにもいきませんし」


「そういうこった」


 アクセルは料理の載った皿を手に取った。


 まるで自分の家にいるかのような態度である。


 その様子を、シャオがじっと見ていた。


「……いや、もっとこう、上(宇宙)でなんかあるやろ」


「あ?」


「商会のお仕事と軍のお仕事。そんな簡単に両立できるもんなん?」


「さぁ?」


 アクセルは肩をすくめた。


「どっかの王子様が悪さしないよう、見張りもいるだろ」


「はぁー?」


「うん?」


 二人の間に、妙な沈黙が流れた。


 アクセルは口元を吊り上げている。


 シャオも微笑んでいる。


 どちらも笑っているのに、まったく和やかではない。


「……アクセル?」


「なんだ、姫さん」


「シャオ様?」


「なんどす?」


 エレオノーラは二人を交互に見た。


「本日は親睦会ですのよ?」


「知ってるぜ?」


「存じておりますえ」


「ですから、親睦を深めてくださいまし!」


「深めてるだろ?」


「ええ、たいへん興味深うお話しさせてもろてます」


 エレオノーラは扇を閉じた。


(……なんでしょう)


(この二人、仲良くなれそうで、まったくなれそうにありませんわ!)


 ちなみに、少し離れた場所では、アドリアン・ネーベルが端末を睨んでいた。


 親睦会の参加者が歓談している間も、提出された資料の数字を確認している。


 グラスに手を伸ばす暇もない。


「……また申請書の書き込みミスが」


 ネーベルは眉間を押さえた。


 華やかな会場の片隅で、彼だけが通常営業だった。


 ─────


「どうもどうも。よろしくお願いしますねぇ」


 エレオノーラの隣で、ベネディクト・フォン・ヴァイスは人のよさそうな笑みを浮かべ、来賓たちに頭を下げた。


 新任執政官のお披露目である。


 長年、行政の仕事に携わってきたベネディクトにとって、こうした席での挨拶は慣れたものだった。差し出される手を握り、相手の顔と名前を覚え、適度に世間話を交える。堅苦しくなりすぎず、かといって馴れ馴れしくもならない。


 その絶妙な距離感に、エレオノーラは感心しきりだった。


「皆様、こちらが新しく執政官に就任なさったベネディクト・ヴァイス様ですわ! とっても頼りになる方ですのよ!」


「いやぁ、お嬢様。そんなに持ち上げられると、おじさん困っちゃいますよぉ」


「まあ! ご謙遜なさらなくても!」


 来賓たちからも歓迎の言葉が相次いだ。


「これは心強い。今後ともよろしくお願いいたします」


「こちらこそ。何かございましたら、遠慮なくお声がけくださいねぇ」


 ベネディクトはにこやかに応じた。


 ここまではよかった。


「あの、執政官様。少々お尋ねしてもよろしいでしょうか」


「はいはい、なんでしょう?」


 住民代表の一人が、控えめに手を挙げた。


「新しく移住してきた者の住民登録なのですが、家族の到着が遅れている場合は、先に世帯の申請をしてもよろしいのでしょうか?」


「ああ、それでしたら、先に到着されている方の登録を済ませてください。ご家族の分は到着後に追加できますので。窓口でその旨を伝えていただければ大丈夫ですよぉ」


「なるほど! ありがとうございます!」


「いえいえ」


 ベネディクトは笑顔で頷いた。


 すると、隣にいた商店主が身を乗り出した。


「執政官殿! 私からも一つよろしいですかな!」


「ええ、どうぞどうぞ」


「新しく店舗を増やす予定なのですが、営業許可の申請は現在の店舗とまとめて行えますか?」


「ああ、店舗ごとに申請していただく必要がありますねぇ。ただ、事業者の登録情報は共通で使えますから、手続き自体はそれほど難しくありませんよ」


「おお、そうでしたか!」


「詳しくは担当窓口で確認してくださいねぇ」


 ベネディクトは慣れた調子で答えた。


 エレオノーラは目を輝かせる。


「まあ! さすがベンおじですわ!」


「いやぁ、そんな大したことは……」


「執政官殿、少々よろしいでしょうか!」


 今度は企業関係者だった。


「弊社で新たに雇用する従業員の社会保険についてなのですが」


「はいはい。雇用開始日と申請の時期ですねぇ?」


「そうです! 実は……」


 ベネディクトは相手の話を聞き、必要な手続きを説明する。


 その後ろから、別の男性が声をかけてきた。


「冬季の物資配給についてもお尋ねしたいのですが」


「ああ、冬支度ですねぇ。そちらは担当部署と確認していただくことになりますが――」


「執政官様! 除雪作業の人員募集については!」


「はいはい、そちらはですねぇ……」


「すみません! 住宅区画の申請で!」


「ちょっと待ってくださいねぇ」


「執政官殿! こちらの書類なのですが!」


「……あれ?」


 ベネディクトは周囲を見回した。


 いつの間にか、人が増えていた。


 一人に答えると、二人が質問する。二人に答えると、さらに三人がやってくる。


 誰かが端末を取り出し、申請書類を表示し始めた。


 別の誰かは、わざわざ席まで戻って資料を持ってきた。


 気づけばベネディクトの前には、料理の皿ではなく行政書類が並んでいた。


「……ええと、皆さん?」


「はい!」


「本日は親睦会でしてねぇ……」


「もちろん存じております! こうして直接お話しできる機会は滅多にありませんから!」


「あ、そうですかぁ……」


 ベネディクトは笑った。


 笑うしかなかった。


 その横では、エレオノーラが満足そうに頷いている。


「素晴らしいですわ! 皆様、すっかり打ち解けていらっしゃいますのね!」


 住民と行政の距離が近い。


 相談したいことを気軽に相談できる。


 なんと素晴らしいことだろう。


 エレオノーラは、父から教わった領地経営の心得を思い出していた。こうした交流の積み重ねこそ、開拓地の発展につながるのである。


 一方、ベネディクトは端末に新しい相談事項を記録していた。


 住民登録、営業許可、社会保険、冬季配給、除雪人員、住宅区画。


 気づけば六件。


 いや、七件。


 八件目が来た。


「執政官様、少々お時間を……」


「はいはい、ちょっと待ってくださいねぇ!」


 ベネディクトは慌てて相手を制し、エレオノーラへ顔を向けた。


「お嬢様ぁ……」


「はい? なんですの?」


「これ、親睦会ですよねぇ?」


「もちろんですわ!」


 エレオノーラは満面の笑みで答えた。


「皆様との交流を深める、とっても大切な催しですもの!」


「ですよねぇ……」


「新しい執政官も大人気ですわね! わたくし、嬉しいですわ!」


「おじさんねぇ……」


 ベネディクトは手元の端末を見た。


 未処理の相談事項が、また一件増えていた。


「おじさん、ずっと仕事してるんだけどぉ!?」


 ──新任執政官、着任早々大人気である。


 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!

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