24 大型竜接近!?
20261021改題しました。
午後のノイエルデに、警報が響いた。
出現したのは、大型竜。
市街地付近への飛来を受け、ディートリヒたちの小隊が緊急出動した。
大型竜への対応は、初めてではない。
南の島では、赤いワイバーンとも戦っている。
もっとも、あのときは倒すのではなく、浜辺から遠ざけた。今回もまずは状況を確認し、市街地への接近を防ぐ必要がある。
そう考えていたディートリヒは、前方の映像を見た。
「……あれですか?」
『あれだな』
「大型竜?」
『そう聞いていたが』
大きかった。
(いや、大型竜っていうサイズじゃないだろ)
翼が動くたび、その下の木々が大きく揺れる。長い首の先で頭が持ち上がり、開いた顎の奥に牙が並んでいた。
十九メートルはある騎士機に乗っているのに、見上げている。
「超大型じゃないですか!」
『分類を訂正してる場合か! 街へ向かってるぞ!』
隊長機からツッコミが入る。
竜の目指す先、その向こうには、市街地があった。
工事中の建物。道路。人の住む家。
領主と住民たちが、何か月もかけて造ってきた街だ。
あの巨体を、近づけるわけにはいかない。
だが、ここで無闇に撃てば、竜が暴れた余波まで街へ届きかねなかった。
「市街地から引き離します。こちらへ注意を!」
『了解!』
僚機が左右へ展開した。
─────
同じ頃、領府では、エレオノーラが出撃の報告を受けていた。
「ディートリヒたちが?」
手元の書類から顔を上げる。
大型竜が市街地へ接近しているため、騎士機の小隊が対応中。街から遠ざけながら交戦するとの説明に、エレオノーラは眉を寄せた。
ようやく建った家もある。まだ建築中のものもある。踏まれれば、また資材の発注からやり直しだ。
何より、あそこには人が住んでいる。
「市街地への被害を防ぐことを優先してくださいまし。それで、討伐はできそうですの?」
「現地で対応を進めております。シュタイン氏からは、ブーストモードの実戦投入を強く勧める連絡が」
「ブーストモード」
毎日オットーが鍛えていた、あの機能である。
ディートリヒが椅子から立てなくなるほど訓練し、継続時間のグラフが少しずつ伸びていた、あの。
ついに、実戦。
「……そうですの」
静かな声だった。
エレオノーラは書類を机へ置き、引き出しを開けた。
奥へ手を伸ばす。
周囲の視線が、その手元へ集まった。
「……ついに、これを使う日が来ましたわ……!」
取り出したものを抱え、エレオノーラは立ち上がった。
「屋上へ参ります!」
「お嬢様?」
職員の呼びかけに、振り返る余裕もない。
その後ろをセバスティアンと護衛騎士が追い、メイドたちも続いた。アクセルとシャオは顔を見合わせ、揃って廊下へ出る。
「……何始めんだ、姫さん」
「さあ。えらい張り切ってはるけど」
少なくとも、避難に向かう足取りではなかった。
─────
プレハブの屋上は、風が強かった。
階段を上がったエレオノーラの金髪が揺れ、マリーがすぐにそばへ寄る。その頭上を、女性護衛騎士たちの視線が隙なく走った。
遠方では、巨大な翼が動いていた。
その周囲を騎士機が飛び、射撃の光が走る。少し遅れて届く砲声に、屋上へ出てきた職員が身を強張らせた。
「ここなら見えますわ!」
エレオノーラが、抱えてきたものを持ち上げた。
棒だった。
アクセルは、その手元を見た。
光った。
「あ?」
もう一本、光った。
領主が両手に握った発光棒を見て、ようやく察した。
「……は? っぷっ……ほんっとおもしれー!」
肩を震わせるアクセルへ、エレオノーラは一本差し出した。
「あなたもどうぞ!」
「俺もやんのかよ!」
「当然ですわ! せっかくいらっしゃるんですもの!」
笑いながら受け取ったアクセルの手元で、リヒトシュタープが点灯した。
エレオノーラは満足そうに頷き、隣へ向き直る。
「殿下も」
「……え? ぼくも?」
シャオの手にも、一本収まった。
外交上の贈答品にしては、ずいぶん受け渡しが雑だった。
「マリー! ジュリア!」
「はい、お嬢様」
ジュリアが進み出る。リヒトシュタープを受け取り、主人の手元を見ながら点灯させた。
その隣で、マリーにはうちわがいくつも渡された。
広げれば、大きな文字で『ディートリヒ』、『斬って』、『ファンサして』、『宇宙一』。
マリーは、それを見た。
主人を見た。
もう一度、うちわを見た。
「さあ、応援いたしますわよ!」
「……かしこまりました」
返事は完璧だった。
目からは、光が消えていた。
エレオノーラはリヒトシュタープの色を切り替える。真紅、青、緑と送って、灰青の光で止めた。
遠くで騎士機が旋回する。
あそこに、ディートリヒがいる。
その彼を応援するために、自分はこれを作ったのである。
「ついに! ついに推しを応援できますわーー!!」
両手の光が、勢いよく空へ上がった。
「ディートリヒーー! 頑張ってくださいましーー!」
ジュリアも笑顔で腕を上げた。
アクセルは笑いすぎて、振っているのか手が震えているのか分からない。
シャオは隣を見ながら、ひとまず同じ方向へ振ってみた。
「……これでええん?」
「もっと大きく!」
「注文までつくんやなぁ」
マリーは、死んだ目でうちわを振っていた。
─────
「あの……避難は……」
遅れて屋上へ出てきたネーベルが、階段の入口で立ち止まった。
領主の両手には、なぜか発光棒。
ネーベルは眼鏡を押し上げた。
見間違いではなかった。
「お嬢様。こちらは見晴らしがよすぎるのでは」
「ネーベル! ちょうどよかったですわ!」
エレオノーラが振り返った。
よくなかった。
名前を呼ばれた瞬間、ネーベルには分かった。
「あなたは応援弾幕を撃ってくださいまし!」
「…………」
幻影魔法の使い手は、黙った。
敵の認識を乱す。
領府役所の案内表示。
交通標識。
今回はそれらとは別の使い道を、また求められていた。
ネーベルは、マリーの手元のうちわを見た。
大きくてやや丸っこい書体で書かれている、ソレ。
指先を動かす。
ピンクと赤のグラデーションの文字が、空に浮かび上がった。
『ディートリヒ』
『斬って』
『宇宙一』
プレハブの上空に、竜より目立つ応援メッセージが並んだ。
「ですから、避難を……!」
職員の声が、横から重なる。
「公女殿下だけでも、屋内へお戻りください!」
「まあ、今いいところですのに!」
観劇中のような返事だった。
遠くで竜が首を振る。騎士機がその牙を避け、別の機体が射撃を加えた。
職員の顔色が変わった。
セバスティアンは、黙ってその戦況を見ていた。
女性護衛騎士たちも何も言わず魔力のシールドを展開した。
正面だけではない。左右からも頭上からも守れるよう、騎士たちが間隔を取っている。
その内側で、領主がリヒトシュタープを振った。
─────
「さあ、ミー・ディさんもご一緒に!」
屋上へ招かれた巡礼者に、エレオノーラはリヒトシュタープを握らせた。
『女神様! これは何の儀式ですか!?』
「推しを応援する神聖な儀式ですわ!」
『おおお! 戦神の鼓舞! わたしも参加いたします!』
ミー・ディはすぐさま理解し、感激し、見よう見まねで光る棒を振り始めた。背中の巨大な卵まで、一緒に揺れる。
「ぶっははははは!!」
「……あの卵、重ないんやろか」
アクセルが腹を抱え、シャオが首を傾げる隣で、マリーは死んだ目でうちわを振っていた。
外では竜が暴れている。
屋上では、その竜の卵を背負った巡礼者が、竜と戦う騎士を応援している。
ネーベルは眼鏡を押し上げた。
「……卵だけでも屋内へ運びませんか」
「今はディートリヒの見せ場ですわーー!!」
女神様は聞いていなかった。信者も夢中で振っていた。
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