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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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16 ふかふかですわ!

 足元が消えた瞬間、エレオノーラは別の場所を思い出した。


 磨き上げられた学院の床。

 階段の縁。

 宙に浮いた足。

 あのときも、そうだった。


 頭上の青い光が遠ざかり、代わりに、下から淡い明かりが近づいてくる。

 大きく広がったキノコの傘が身体を受け止めた。


 ふかふかしたものに、体も意識も沈み込む。


 ─────


 幼いエレオノーラは、特別わがままな子供ではなかった。


 ヴァルテンベルク公爵家には、たいていのものが揃ってあった。広い屋敷も、美しい服も、煌びやかな宝石も。


 ただし、何でも好き勝手にしてよいわけではない。


 家風は質実剛健。

 学ぶべきことがあり、守るべき礼儀があり、公爵家の娘としてのふるまいを求められた。

 躾、マナー、常に人に見られていること。

 背筋を伸ばし胸を晴れと言われ続けた。

 そんな家でも両親は一人娘のエレオノーラを愛してくれた。


 やがて、婚約が決まった。


 相手は皇太子エアハルト。


 皇室とヴァルテンベルク公爵家を結びつけ、公爵家を帝国から独立させないための婚約だった。


 その意味を、最初からすべて理解していたわけではない。


 ただ、これから長く一緒にいる相手なのだと聞かされ、幼いエレオノーラは少し緊張しながら挨拶をした。


 エアハルトは、目を合わせなかった。


 差し出した言葉が、相手の横顔へ届かずに落ちる。


 夢の中で、その不貞腐れた横顔だけが妙にはっきり見えた。


 場面が変わる。


 少し背が伸びたエアハルトが、不機嫌そうに何かを言っていた。


 自分を敬え。

 もっと称えろ。

 皇太子なのだから。


 (子供の要求としてはずいぶん態度が大きいですわね)


 幼いエレオノーラは言葉を選び、相手の気分をうかがった。


 今度こそうまく話せるかもしれない。

 今日は機嫌がよいかもしれない。


 そう考えた日の記憶が、幾つも流れていく。


 エレオノーラの婚約が決まり、従兄弟のコンラートが後継候補として迎えられた。


 ある日、コンラートが俯いていた。


 エアハルトの嫌味に返す言葉を見つけられず、目に涙を浮かべている。


 エレオノーラは義弟を庇うように、その前へ出た。

 何を言ったのかは、よく聞こえない。

 けれど、自分の胸の奥がぎゅっとなった感覚だけは残っていた。


 エアハルトとは険悪になった。

 可愛くないと、吐き捨てられた。


 何年たっても、婚約者との距離は縮まらなかった。


 そして、学院へ進んだ。


 アンナが現れたのは、そこである。


「卒業までに全員攻略しなくちゃ」

「絶対、全員好感度上げる!」


 明るく、勢いのある声だった。


 エレオノーラは、その言い方を覚えていた。


 人に向ける言葉として、どこか引っかかったから。


 やがてエアハルトは、アンナを目で追うようになった。彼女の言葉に耳を傾け、笑い、そばにいることを望むようになった。


 エレオノーラには見せなかった顔で。


 けれど、彼はただの学院の男子生徒ではない。


 人口三千億を抱える、エーデルシュテルン銀河帝国の皇太子だった。


 その横顔を見ているうちに、


 学院の輪郭がちらつく。遠ざかる。

 聞こえていた声が途切れ、別の声が重なった。


「……待って、攻略?」


 前世であり半身、偉羅(エラ)の声だった。


「ええ、そう言ってましたわ」


 エレオノーラの声が答えた。


 攻略。

 好感度。


 偉羅は、その言葉を知っている。


 ソーシャル乙女ゲーム『銀河聖国(ホーリー)の星乙女(スターメイデン) ―Holy Star Maiden―』

 会話やホーム画面、戦闘でキャラクターを使い続ければ好感度が上がる。

 好感度が上がれば、キャラクターストーリーが解放される。


「…………アンナって」


「わたしとおなじ転生者じゃ……」


 さらに思考をめぐらせようとした瞬間、学院も、アンナも、婚約者の横顔も、すべてが淡い光に溶けていった。



 ─────



 目を開けると、キノコがあった。

 青い。


 右にもキノコ。

 左にもキノコ。

 少し向こうにも、一抱えはありそうなキノコ。


 しかも、光っている。


 青白い光を放つ巨大な傘が、薄暗い地下の空間に幾つも浮かんでいた。ぼんやりした頭で眺めていると、地面から明かりが生えているように見える。


 背中の下も柔らかかった。


 エレオノーラは指先を動かす。

 ふか、と沈む。


「……天国ですの?」


 随分とキノコの多い天国だった。


「お嬢様、生きてますか!?」


 聞き覚えのある声がした。


 顔を向けると、ディートリヒが駆けつけてきた。乱れた髪と、こちらを見つめる灰青色の瞳。青白い光の中でも、顔がいい。


 エレオノーラはほっとした。


「まあ! 天使までイケメンですわ!」

「生きてますから!!」


 力強い返事だった。


 天使は、ずいぶん必死である。


「お嬢様お怪我はありませんか!?」

「……あら」


 エレオノーラは瞬きをした。


 夢の名残がまだ頭の奥にある。何か大切なことを考えていた気がするのに、目の前のディートリヒがあまりにも真剣で、うまく思い出せなかった。


「ここは……」

「地下です。落ちたんです」

「あら、そうでしたわね……」


 魔石を見ていた。

 お金のことを考えていた。

 足元が崩れてなくなった。


 記憶が順番に戻ってくる。


 エレオノーラは、自分を受け止めた大きな傘へ目を落とした。


「キノコに助けられましたのね」

「はい。ですから、まだ動かないでください」


 ディートリヒはそばに留まり、上を見た。


 遠い頭上に、落ちてきた穴がある。


「まず、上へ知らせます」


 掲げた手から、閃光魔法が放たれた。


 地下の空間が一瞬明るくなり、キノコの傘が白く浮かび上がる。


 少し待つと、頭上で光が瞬いた。


 ちか、ちか。


「あれは返事ですの?」

「はい」


 ディートリヒの肩が、わずかに下がった。


 エレオノーラも穴を見上げる。


 あそこに皆がいる。



 ─────



 地上では、セバスティアンが救助作業を指揮していた。


 穴の底から、白い光があがった。ディートリヒの閃光魔法である。

 護衛騎士が光で信号を返す。


「生存を確認できました。準備を進めてください。穴の周囲には、必要な者以外近づかないように」


 騎士たちが動き、鉱山会社の作業員たちが救助に使う装備を運んでくる。


 マリーは、穴から離れるよう指示された場所で、唇を引き結んでいた。


「お嬢様は……」

「ディートリヒが到着しております」


 セバスティアンの返答に、何度も頷く。


 頷いているのに、目元は今にも泣きそうだった。地下からの光を見ようと身体が前へ傾くたび、隣のメイドがそっと袖を押さえる。


 その少し後ろで、グスタフは立ち尽くしていた。


 領主が視察に来た。

 鉱脈を褒めてくれた。

 新しい産業だと喜んでくれた。


「……社長」


 社員が呼びかける。


「落ちた地点、……魔石の反応が強すぎて空洞があったのを見落としてました……」


 グスタフはゆっくり顔を向けた。


「見落としてたのか?」

「はい……」


 巨大な魔石鉱脈に喜びすぎて、足元を見ていなかった。


「俺、もしかして死刑か?」


 社員は返事をしなかった。


 グスタフの目が、救助を指揮する執事へ向く。


 穏やかな声で、必要な指示を出している。

 こちらを責める言葉は、一つもない。


 グスタフは、すぐ正気に戻り、背筋を伸ばした。


 横でアクセルが声を張る。


「何が要る! うちで出せるものは全部出すぞ!」


 鉱山社員たちも慌てて動き出す。


 アクセルの部下たちがロープとウィンチを積んだ作業艇を手配する。


 巨大鉱脈を発見したときより、社長は必死だった。


 シャオもセバスティアンに声をかける。


「セバスティアンはん、うちの者もつこうてください」


「ありがとうございます。まずは脆い足場をさけて安全な場所から救助に向かいます」



 ─────



 地下では、エレオノーラが再びキノコの傘へ手を置いていた。


 押すと沈む。

 離すと、ゆっくり戻る。


「……ふかふかですわね」

「お嬢様」


 ディートリヒは、何か言いたそうに口を開き、それから閉じた。


 頭上では、救助の準備が進んでいる。

 足元には、青白く光る巨大キノコ。


 エレオノーラは大人しく座ったまま、周囲を見渡した。


「鉱脈の下に、こんな場所があったんですのね」


 ディートリヒも、その光景へ目を向ける。


「そうですね」

「ところで、ディートリヒ」

「はい」

「これ、椅子にしたら気持ちよさそうですわ」

「まず帰りましょう!」

 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご覧あそばせ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 ご感想もお待ちしておりますわー! おーっほほほ!

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