15 視察ですわ!
魔石鉱脈を見つけたら、少しは楽になると思っていた。
グスタフ・ハーゼは、その考えを訂正した。
探査結果の確認。掘削地点の選定。採取した原石の品質調査。規模の推定。現場から上がってくる報告を読んでいる間にも、次の報告が来る。
会社の存続を賭けた大当たりである。
喜びたい。盛大に喜びたい。
しかし、喜んでいる暇がない。
「社長、領主様の視察隊が到着しました」
「わかった! 案内できるようにしとけ!」
大型掘削ゴーレムの稼働状況を確認しながら、グスタフは声を張った。
領主が来るのだ。発見した鉱脈を見たいというのは当然だろう。こちらとしても、現場を見てもらえるのはありがたい。
そう考えて迎えに出たグスタフは、到着した一行を見て、いったん足を止めた。
公女エレオノーラ。豪華な金髪に縦ロール。
噂には聞いていたが、本当にツナギである。高級そうだが。
執事。護衛騎士たち。メイドたち。
ここまではわかる。
その後ろから、眼帯をつけた銀髪の男が降りてきた。
ヴォルフ商会会頭、アクセル・ヴォルフである。
物流や輸出に関わる商会主が、鉱脈を見に来る。
それも、まあ、わかる。
さらに、玉京星朝第六王子が現れた。
グスタフの隣で、社員が小声を漏らす。
「なんで領主様のお供に海賊と外国の王子が!?」
「俺に聞くな」
鉱脈の品質なら答えられる。
視察団の品質については、領府に聞いてほしい。
「本日はご案内、よろしくお願いいたしますわ!」
エレオノーラは上機嫌だった。
グスタフは慌てて姿勢を正す。誰が何のつもりで同行していようと、とりあえず領主への挨拶が先である。
「ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ」
案内を始めると、掘削現場から低い振動が伝わってきた。
大型ゴーレムが岩盤に向き合い、専用の掘削装置を押し当てている。砕かれた岩が落ち、周囲の作業員たちが合図を交わす。探査で得られた立体画像と、実際に露出した地層を照合する技術者の手も忙しい。
「今は鉱脈の広がりを確認しているところです。反応は大きいんですが、実際の量と品質を調べなきゃなりませんので」
「まあ……!」
エレオノーラは、巨大な機械と、それを動かす人々を見比べた。
説明を続けるグスタフの周囲に、青い枠が見えた。
レア。
なるほど、とエレオノーラは頷く。
そして、すぐに掘削現場へ視線を戻した。
今日は鉱脈を見に来たのだ。
当たりは地面の中にある。
─────
「げぇ!」
その背後で、失礼な声が上がった。
シャオがアクセルを見つけたのである。
アクセルは気軽に片手を上げた。
「お、テロ予備軍」
「そんなことせえへんわ!!」
王子は即座に否定した。前方のエレオノーラに聞こえないよう、途中から声だけを抑える。
「……って、なんでや。宇宙で警備しとるんと違うんか」
「毎日戦艦で警備するわけないだろ。免許更新してただけだ」
「チッ」
できればずっと、宇宙にいてほしかった。
シャオが前へ進もうとすると、アクセルも同じ方向へ歩き出す。そもそも二人とも、同じ視察団にいる。
「魔石をうちの基地を経由して輸出するんだ。視察に同行するに決まってるだろ」
「それかー」
シャオは片手で目を覆った。
商売上、ここにいる理由がある。
追い払えない。
「そういえば、あの武装パーツ、いい値段がつきそうだったなあ」
覆った手の隙間から、シャオの橙色の目が覗いた。
「いや、あれは一時的におたくの倉庫をお借りしてるだけで」
「あーね」
「保管してもろてるだけやからな?」
「ふーん」
相槌が軽い。
武装パーツより、はるかに軽い。
シャオは口元に笑みを残したまま、手を下ろした。
(やっぱ腹立つわーーー!!!)
愛機は、今日も地上で建築作業に励んでいる。
武装だけは、ヴォルフ商会の倉庫に泊まり込んだままだった。
─────
エレオノーラの前に、青い光が広がった。
掘削された岩盤の奥。
照明に照らされた壁面に、無数の結晶が並んでいる。
細い柱のようなものから、抱えきれないほど大きなものまで。青い水晶柱を思わせる魔石の原石が幾重にも連なり、岩の隙間を埋め尽くしていた。
角度を変えるたび、結晶の面に光が走る。
壁一面が、きらきらと瞬いた。
「まああああ……!」
エレオノーラは両手を胸の前で合わせた。
美しい。
しかも、ただ飾って眺めるだけの石ではない。魔力を生み出す燃料だ。
「これが、全部、魔石ですの!?」
「確認できた部分はそうです。質も量も悪くありません」
グスタフの声にも、隠しきれない弾みがあった。
「まだ調査は続きますが、かなり期待できます。探査反応との照合も進んでましてね」
会社の未来が、青く輝いている。
エレオノーラにも、別の未来が見えていた。
採掘。輸送。輸出。
新しい仕事。新しい企業。
そして、税収。
書類の向こうに、ようやくお金が見える。
「ノイエルデの、新しい産業ですわーー!」
声が岩盤に響いた。
グスタフは満足そうに頷き、さらに奥の露出部分を指し示す。エレオノーラもそちらへ顔を向けた。
後ろでは、シャオがまだ小声で念を押している。
「売ったらあかんで」
「売るとは言ってないだろ」
「値段つけようとしてたやろ」
青い結晶は、少し奥まで連なっていた。
エレオノーラは、その輝きを追って視線を上げる。
「足元にお気をつけください」
グスタフが声をかけた。
その直後だった。
足元で、ぱき、と音がした。
「えっ」
地面がなくなった。
靴の下にあったはずの感触が消え、身体が傾く。目の前の青い結晶が、急に上へ流れた。
「お嬢様!」
ディートリヒが動いた。
呼ぶ声と、踏み込む足音がほとんど同時に響く。差し出された手へ、エレオノーラも反射的に手を伸ばした。
届かない。
崩れた土と小石が、彼女と一緒に落ちていく。
ディートリヒは一切迷わずそのまま飛び降りた。
ずっと下から、ぼんやりした明かりが見えた。
地下に空間がある。
─────
「お嬢様!?」
地上では、マリーが穴へ駆け寄ろうとしていた。
つい先ほどまで、目の前で魔石を眺めていたのだ。声も聞こえていた。なのに今は、そこに穴だけが開いている。
ためらう間もなく踏み出したマリーを、セバスティアンが制止した。
「お待ちなさい」
「ですが、お嬢様が!」
セバスティアンの手は、彼女を先へ行かせなかった。
周囲では騎士たちが動き、鉱山会社の作業員も異変に気づいて集まってくる。グスタフは青ざめ、穴と随行員を交互に見た。
鉱脈を案内していた。
領主が地下へ行く予定は、聞いていない。
アクセルもシャオも、口論を止めていた。
セバスティアンは穴の周囲へ視線を走らせ、ディートリヒと主人の落ちた穴を見下ろした。
(迷わず飛び込みましたか)
(やはり見込みがある)
セバスティアンはマリーを留めたまま、集まってくる人々にも手で制止を示した。
「皆様、穴から離れてください」
足を止めた一行へ、落ち着いた声が続く。
「二次災害防止のため、安全に下りましょう」
(仲を深めるのです! ディートリヒ!)
この執事、恋愛進行も担当している。
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