14 思ってたんとちゃう!
玉京星朝第六王子、洛宵。
ノイエルデへ視察と遊びがてらやってきた彼の愛機は、現在、地上で建築資材を運んでいた。
シャオの髪と同じ濃紺であしらえたボディ、繊細な飾りは泥に汚れている。
本来なら敵を蹴散らすための機体である。堂々たる機体が大きな腕を伸ばし、資材を受け取り、指定された場所へそっと置く。
なお、武器は一本も残っていない。
こうなった経緯について、シャオには大いに言い分があった。
─────
「いやあ、そちらさんも商売やから、事情はよう分かりますけどなぁ」
ヴォルフ宇宙基地、その一室。
シャオは通信画面に映る銀髪隻眼のアクセル・ヴォルフへ、にこやかに語りかけていた。
画面には、戦艦のブリッジでふんぞり返るアクセル。
その隣には、シャオの輸送揚陸艦とつながった別の通信画面が開いている。
「せやけど、うちがわざわざ来たんやで? もう少し勉強してもろてもええんと違います?」
「要求額は、提示した通りだぜ」
「またまた。そんな堅いこと言わんと」
シャオは笑みを深めた。
「これから長い付き合いになるんやし、お互い気持ちようやりましょうや。うちの顔も、少しは立ててもらわんと」
「おい」
アクセルが顎をしゃくった。
次の瞬間。
別画面に映っていた輸送揚陸艦の艦長が、ぎょっと目を剥いた。
『……えっ』
すでに揚陸艦をロックオンしていた戦艦。
その主砲に、青白い光が灯った。
ヴゥゥゥゥゥン!!
砲身内部の魔力回路が次々と発光し、巨大な砲口へ光が集まっていく。
『ぎゃああああああ!! 主砲が! 主砲が起動しましたああああ!!』
「ちょっとちょっとおおおおお!?」
シャオが椅子から飛び上がった。
『殿下あぁぁぁぁ!? 助けてくださいいいい!!』
「待ちなはれ! 何してはりますの!?」
アクセルは涼しい顔で答えた。
「こっちは真面目にテロや領主暗殺を未然に防ごうとしてるだけなんだがなぁ〜」
「主砲で!? 船ごと消し飛びますやろがい!」
「物騒なもん持ち込んでるのは、そっちだろ?」
「ぐっ……!」
シャオのこめかみで血管がぴくぴくと動いた。
だが、画面の向こうでは主砲が今も光り輝いている。
『殿下あああ! なんとかしてくださいいい!!』
「分かっとる! 分かっとるから静かにしぃ!」
シャオは引きつった笑顔をアクセルへ向けた。
「……いやぁ、こちらにも少々不手際があったようで。そこはお詫びしますわ」
「おう」
「せやから、その、まず主砲を止めていただけると……」
「じゃ、この額でこの話はまとまったことにしていいか?」
「まとまりました! ええ! もう、ようまとまりました!」
アクセルがにやりと笑う。
「武器はこっちで武装解除しておくから」
「……全部?」
「全部だ」
「返しては、もらえるんやろな?」
「今後の交渉次第だな」
「保証は?」
「ねえよ」
「…………」
シャオは笑顔のまま固まった。
アクセルは満足げに頷く。
「悪さしようなんて思うなよ。だ、い、ろ、く、王、子、様」
わざわざ一語ずつ区切って、丁寧に言い聞かせる。
今になって王子の肩書を尊重してくれるらしい。
通信が切れた。
別画面では、主砲の充填が解除されたことを確認した艦長が、操縦席に突っ伏していた。
シャオはしばらく無言だった。
「…………」
そして。
「腹立つわーーーーーー!!!」
─────
そして現在。
武装を取り外された第六王子専用人機が、また一つ資材を運んでいる。現在は作業員が乗り込んでいる。
シャオは建設途中の屋敷の前で、その姿を眺めていた。大きな手が資材を下ろすたび、地上の作業員が誘導のために腕を振る。愛機は素直に従い、次の荷物を取りに行った。
今、あの機体に許されているのは、地上での建築作業だけである。
「武装て、ただのお気に入りのカスタムやったのに……」
シャオの声には、珍しく哀愁があった。
別にあれで何かを攻撃しようとしたわけではない。気に入っているから連れてきた。それだけなのに、愛機はすっかり工事現場に馴染んでいる。
隣の部下は、作業予定を確認していた。
「武装解除しろと、外交部を通せと、あれほど申し上げましたやろ!」
シャオが肩をすくめる。
「いや、せやけど」
「出発前にも申し上げましたよ!」
「はい……」
王子は小さくなった。
部下は深く息を吐き、建設図面を広げる。ユージン街区に建てている、シャオの別邸である。ゆくゆくはシャオの同腹のきょうだいたちも遊びに来るだろう。
とはいえ、屋敷の完成まではやることが山積みだった。資材の配置、作業の順序、人機の運用。主に誰が確認するのかといえば、部下である。
「それで、こちらの工事ですが」
返事がない。
顔を上げると、シャオは少し離れた場所で、領府のある方角を眺めていた。先ほどまでの沈んだ肩が、いつの間にか元へ戻っている。
「……せや!」
嫌な予感がした。
「姫さんにちょっかい出しにいこー」
思いつくなり、シャオは歩き出した。
足取りは軽い。
そして見た目よりずっと速い。
図面を広げる部下の横を、実に自然に通り過ぎる。
「殿下! まだお屋敷の建設が終わってませんがーー!」
シャオは振り返らなかった。
王子は街の建築具合を眺めるふりをしながら、軽快に歩いていった。
「殿下ーーーー!!」
ゴーレムも人機もようはおなじゴーレムです。
ユージンは中華モチーフなので漢字当ててるだけです。
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