13 一山当てますわよ! 後編
募集を始めると、応募者は来た。
来たので、エレオノーラは期待した。
一人目は、老婆だった。枠は緑、HN。
貫禄があった。
「あたしゃここが長くてねぇ」
老婆が、経歴書の一か所を指で叩く。
「まあ。長年のご経験をお持ちですのね」
「そりゃもう。何度も世話になってるからね」
エレオノーラは身を乗り出した。
「どちらに?」
示されていたのは、犯罪歴の欄だった。長かった。
「違いますわ!」
─────
二人目は、おっさんだった。
枠は白。ノーマル。
堂々と入ってきて、堂々と座り、堂々と胸を叩いた。
「俺に任せろ!」
「まあ!」
自信がある。
何かを任せてよさそうな声だった。
「小学校しか出てねぇが!」
「…………」
エレオノーラは一拍置いて、尋ねる。
「領地運営のご経験は?」
「ねえ!」
「行政のお仕事は?」
「ねえ!」
「では、何をお任せできますの?」
「何でも言ってくれ!」
「任せられませんわ!」
やる気はあった。
やる気だけなら、よく伝わった。
─────
その後も、応募者は時折来た。
白。
さらに次も、白だった。
「…………」
エレオノーラの笑顔が、少しずつ固まっていく。
求めているのは貴族の執政官だ。
領地を任せられる人材だ。
できれば、山になった書類を見ても笑顔のままでいられる人がよい。
しかし、いない。
応募者はいる。
任せられる人がいない。
「きませんわーーーー!!」
エレオノーラは机へ突っ伏した。
貴族募集ガチャ。
単発のみ。
イベント開催中なら毎日一回無料ガチャのはずだ。運が良ければ限定キャラが引けるはずだ。
現実には、自分で確認する経歴書と、面談の時間が増えた。
仕事を減らそうとして、仕事を増やしてしまった。
「こんなはずでは……こんなはずではございませんわ……」
机に額をつけたまま、呻く。
そのときだった。
プルルル……。
通信端末が鳴った。
エレオノーラの顔が、がばっと上がる。
セバスティアンが電話を取り次ぎ、息を呑む。
「お嬢様!」
「どちらの貴族ですの!?」
「鉱山です」
「こうざん?」
─────
ノイエルデの山肌に、細長い棒が何本も突き刺さっていた。
地面にも、岩の隙間にも、斜面の途中にも。遠目には、誰かが山へ大量の杭を打ち込んでいるように見える。
だが、棒状のスキャナーから流れ出しているのは魔力だった。地中へ広がる走査波が周囲の地層を探り、その反応を上空の船へ送り返している。
魔石鉱脈の探査である。
船の持ち主は、以前、騎士機と事故を起こした鉱山会社だった。
─────
「ポイントA、1から15。反応なし」
ブリッジに、技術者の報告が響いた。
モニターには地中の魔力反応が立体的に映し出されている。何層にも重なる地層。その間を走る、まばらな反応。
肝心の、まとまった魔力反応がない。
社長のグスタフ・ハーゼは、腕を組んで画面を睨んでいた。
「ポイントAは全て回収! 次はポイントBへ送れ!」
「了解」
指示を受けた技術者が端末を操作する。別の画面では、地上の作業員たちがスキャナーの回収に取りかかっていた。
これで何か所目だったか。
グスタフは数えたくなかった。
「そろそろ予備の燃料もヤバいっすね」
操舵士が、燃料計を見ながら言う。
「もう土地もらって農家やるしかねえな」
レーダー担当が椅子の背へ身を預けた。
「俺、三ヶ月前から給料もらってねえ」
「うちも」
副長が即座に続いた。
「うるせぇ! このまま帰れるかよ!」
グスタフが怒鳴る。
帰ったところで、仕事はない。
彼らの出身星では、主要な魔石鉱脈がすでに枯渇していた。
掘るものがなければ、仕事はない。
仕事がなければ、金も入らない。
船も機材も、眺めているだけで維持費がかかる。
今回のノイエルデ調査は、余裕のある企業が新たな事業へ手を広げたものではない。社運と社員の生活と、会社そのものの存続をまとめて積み込んだ、最後の賭けだった。
百年居住の制度で土地を得る道はある。
ただし、全員で畑を耕すために来たわけではない。
「もっと気合い入れて探せ!」
「気合いで反応出るなら、とっくに出てますよ」
操舵士はそう言って、もう一度燃料計を見てため息をついた。
希望があるとすれば、発見報奨金だ。
魔石鉱脈は、その規模によって帝国政府から数百万、場合によっては十億クレジット級の報奨金が支給される。採掘権は土地の領主持ちだが、運営は領主の抱える企業、無ければ民間に任される場合が多い。
十億。
未払いの給与を払い、燃料を入れ、機材を整え、家族を呼び、採掘の仕事へ進める額だった。
もちろん、見つければ何でも十億ではない。
そんなことは、全員分かっている。
分かってはいるが、燃料計と残高ばかり見ていると、陰鬱になる。
「ポイントB、設置進んでます」
「よし。順次走査だ」
グスタフはモニターへ向き直った。
まだだ。
まだ、ここでは終われない。
─────
「ポイントB1……」
女技師が、手元の画面へ顔を近づけた。
指が止まる。
「反応あり!」
椅子に沈んでいたレーダー担当が、がばっと起きた。
グスタフが身を乗り出す。
「メインへ出せ!」
正面の大型モニターが切り替わった。
山岳部の立体画像。その地下に、赤い光が浮かび上がる。
一点だけではなかった。
「B5、反応!」
「B6も出てます!」
「7、8……待って。これ、大きい……!」
女技師が表示範囲を広げる。
赤い反応が地層の奥へ伸びていた。隣の画面にも、その隣にも、次々と同じ色が灯っていく。
B9。
B10。
「B15まで反応あり!」
ブリッジの空気が変わった。
副長が席を立ち、レーダー担当が画面へ寄る。操舵士も身を乗り出しかけて、操縦席から首だけを伸ばした。
モニターの地下が、赤々と燃え上がっている。
強い。
広い。
しかも、深い。
点在する小さな反応ではない。山の下へ、連続した大きな反応が広がっていた。
「……これ、どこまである?」
グスタフの声が低くなる。
「まだ範囲を取り切れてません」
「深さは?」
「追加走査が必要です。ですが、この強度なら……」
女技師が言い終わる前に、別の反応が灯った。
全員が黙って、それを見つめる。
先ほどまで燃料計ばかり見ていた操舵士も、今は正面から目を離せなかった。
グスタフが、ゆっくり息を吸った。
「来たか!?」
誰も、すぐには答えなかった。
画面の赤い領域が、また広がる。
「十億!?」
「「十億! 十億!」」
副長が叫んだ。
レーダー担当も続いた。
気づけばブリッジに、十億コールが飛び交っている。
「十億! 十億!」
「いや、まだ認定されてねぇっすよ!」
操舵士が言う。
鉱脈の規模も確定していない。帝国政府の認定も受けていない。報奨金の額など、当然まだ決まっていない。
ただし、そう言う操舵士も笑っていた。
「分かってる! 追加走査だ! 全部調べろ!」
「社長、燃料が」
「ガンガン使え!」
「さっきまで渋ってたのに」
「今使わねえで、いつ使うんだ! 掘れば魔石が燃料になる!」
女技師が笑いながら端末へ向き直る。副長は地上班へ連絡し、レーダー担当も自分の席へ駆け戻った。
操舵士は、赤々と広がる反応をもう一度見る。
「でもまあ……」
その顔に、先ほどまでの疲れた諦めはない。
「未払い分に上乗せはいけるっしょ」
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