12 一山当てますわよ! 前編
「おーっほほほほ! 下々の民よ! 働いて! 働いて! 税を納め……」
「わたくしに楽をさせてくださいましーーー!!」
エレオノーラは次の書類に署名した。下々の民が働くほど、領主の机に書類が増えていた。水道や電気のインフラを要求する請願書。
だが、出ていく金に対して入る金が少ないのは相変わらずである。
特に忙しい今朝はディートリヒもセバスティアンの補佐に入っていた。
ふと端末の端に目をやると、ニュースの中にノイエルデの記事が並んでいた。
〈開拓令嬢、人口五万人都市へ!?〉
〈巨大竜の潜む危険な開拓惑星〉
〈海賊の末裔が率いる商会、その実態〉
〈急増する移民、進む軍備増強〉
〈急速な開発で辺境ノイエルデ領府財政逼迫!?〉
「……開拓令嬢? どなたですの?」
ディートリヒの視線が泳いだ。
「お嬢様のことです」
「な、な……」
反論しようと記事を読み返し、椅子へずぶずぶ沈む。
「…………全て事実ですわ……」
開拓令嬢。自分以外に、心当たりがない。
「その竜種報道を受け、冒険者ギルド帝国支部から、小型支部開設の打診が届いております」
セバスティアンが別のタブレット画面を差し出した。冒険者やハンター、賞金稼ぎからの問い合わせが急増しているという。
「ギルド……冒険者?」
「需要の増加を受け、当地へ小型支部を開設したいとの申し入れです」
「まあ!」
小型支部。
エレオノーラの知識でも危険な仕事を斡旋する組織。そこまでは知っている。
前世の偉羅の知識では、 酒場の一角に受付があり、壁に依頼書が貼ってある。仕事を探す冒険者たちが集まり、帰ってきた者が一杯やる。
なお原作『ホリスタ』には顔のいい冒険者もいた。
「ふむふむ」
資料をめくる。草むしり、スライム討伐、トラックなどによる資材輸送。
割と何でも屋である。
さらに、大型魔獣討伐。大型戦闘用ゴーレムの格納・整備施設。
「……戦闘用ゴーレム?」
ここは銀河帝国、冒険者の活動規模が違う。
─────
「草むしりから竜退治まで?」
「能力や装備によって、受けられる仕事が異なります」
「領府からも、お願いできますの?」
「依頼内容に応じて、人員を募集・派遣してもらえる可能性がございます」
エレオノーラの目が輝いた。
草をむしる人。荷物を運ぶ人。工事を手伝う人。
全部欲しい。
竜を退治できる人も、当然欲しい。
「大歓迎ですわ!」
先ほどまで、ギルドの仕組みをよく知らなかったが、今はもう、来てほしかった。
エレオノーラは次のページへ進む。
総合受付。依頼斡旋窓口。事務・管理部門。
ここまでは分かる。
訓練場。
大型戦闘ゴーレム・人機用ハンガー。
整備施設。部品倉庫。
医療・救護施設。宿屋。
装備・資材保管施設。
「でも、これを扱う組織なんですの?」
「はい。銀河各国にまたがる、巨大な独立組織でございます」
国家ごとに権力や影響力は異なるが、単なる職業斡旋所ではない。今回の申し入れは、その帝国支部系統からだった。
エレオノーラは、端末の施設一覧をもう一度見た。
依頼掲示板を貼る壁だけ用意すればよい、という話ではなさそうだった。
─────
セバスティアンは資料を確認しながら、各所への連絡を進めていた。
人手が増えるのは歓迎すべきことだ。しかし、武装した者が大量に流入するなら、治安面の備えも必要になる。
テロ対策。ゴーレム防衛機構の整備。
公爵家への連絡事項へ、それらを加える。主人が冒険者の仕事一覧へ夢を膨らませている間にも、端末の送信履歴は増えていった。
隣では、会計担当イルゼが書類の山から新しい資料を受け取っていた。
さらにその横では書類の山に隠されるようにネーベルもいた。
眼鏡を押し上げ、机の端を空ける。
空けた場所が、すぐディートリヒの持ってきた書類で埋まった。
「本日夕方より、ギルド代表から会談の申し出が入っております」
ディートリヒが予定を確認する。
「先方は、お嬢様のご都合に合わせて時間調整が可能とのことです。竜種素材を希望する者も激増しているそうで、早めにお話ししたいと」
「まあ! こちらも早くお願いしたいですわ!」
─────
夕方の会談で、ギルド代表は丁寧に挨拶した後、支部開設の趣旨を説明した。
エレオノーラは大きく頷く。
「当地は、とにかく人手が足りませんの。運搬や建設補助も依頼できるのでしたら、大変助かりますわ」
「ご依頼に応じ、対応できる冒険者を募ることが可能です」
「探索や調査も?」
「はい」
「大型魔獣への対応も?」
「必要な力量と装備を備えた者を手配することになります」
草むしりを頼んだ人が、そのまま竜へ向かうわけではない。エレオノーラは理解した。
「では、施設のお話を伺いましょう」
代表が計画資料を表示する。
機材を保管し、整備する場所。大型ゴーレムを収容するハンガー。その周辺を含む配置案が、画面へ広がった。
「……小型支部ですわよね?」
「はい」
返事に迷いがない。
エレオノーラは図面の縮尺を確認した。
小型だった。
ギルドにとっては。
「設備構成は、今後の協議で調整いたします。ただ、大型機材を扱う場合、用地と搬入経路の確保が必要になります」
「搬入経路」
「重量機材が通行できる道路です」
ネーベルが確認事項へ書き込む。
仕事をお願いするための仕事が、順調に増えていた。
「建設費と、周辺インフラの整備費については?」
イルゼが質問する。
「負担範囲を含め、協議させていただければと」
「ええ。そこは、よく協議いたしましょう」
エレオノーラは背筋を伸ばした。
しっかり、よく。
念入りに。
できれば安く。
進出は歓迎したい。人も仕事も集まり、領府の作業を外注できる窓口ができる。
だからこそ、勢いだけで頷くわけにはいかなかった。
─────
会談後、エレオノーラは財政資料を開いた。
施設の正式な規模も、費用分担も、まだ決まっていない。しかし、インフラ接続や道路の調整に備え、予算を確認しておく必要がある。
「ペンライトの収入は?」
「こちらです」
示された数字を見て、少し元気になった。
よく売れている。
ありがたい。
「では、残金は?」
別の欄を示される。
元気がなくなった。
収入はある。支出もある。収入ははるかに少ない。
しかも支出のほうには、まだ待機中の案件まで並んでいた。
そこへ、ギルド進出に伴うこちらの整備負担が加わる。
「お金が……」
エレオノーラは、進出計画の資料へ目を戻した。
そのための用地と道路と電力と水道。
顔を上げると、イルゼもネーベルもセバスティアンも資料を見ていた。誰も、都合のよい数字へ書き換えてはくれない。
エレオノーラは端末を両手で握った。
「お金がございませんわーーーー!!!」
金欠は、何重にも重なっていた。
─────
エレオノーラの机には、今日も書類が積まれていた。昨日片づけたはずの場所へ、昨日より高い山ができている。
「……おかしくありませんこと?」
なぜ、自分の仕事がここまで増えるのか。
人が増えれば仕事も増える。
そういう説明は、もう聞いた。
「人を増やすために人を募集して、その人を受け入れるための仕事が増えておりますわ!」
募集しても忙しい。
募集しなくても忙しい。
どういう難易度設定なのか。
エレオノーラは書類を置き、腕を組んだ。
一般の行政官を集めるだけでは追いつかない。日々の実務をこなす人も必要だが、その上で判断し、運営を任せられる人間が要る。
街区や領地を、まとめて預けられるような。
「……貴族」
エレオノーラの顔が上がった。
「執政官、つまり貴族募集ガチャですわ!」
そうだ。
領地を運営できる人間が欲しいなら、領地を運営できる貴族を直接募集すればよい。
なぜ今まで気づかなかったのか。
「はじめからこうすればよろしいんですの!」
机の上の書類を見渡し、満足げに頷く。
この山を任せられる人を引く。
そう思うだけで、少し景色が明るくなった。
本日は2話更新します。
長くなってしまったので前後編にしました。
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