11 ネガキャンですの!?
「竜種?」
エアハルトが顔を上げた。
帝都。皇城。皇太子執務室。
「はい。危険性が高く、通常より大型の個体が生息している可能性があると」
従僕のオスカーがタブレット端末を差し出す。
エアハルトは受け取り、最新記事を眺めた。
〈星乙女、またまた活躍!〉
「アンナか」
少しだけ口元が緩んだ。ホーエンフェルス、サマーセットに続きロンディニウムでも活躍したようだ。
次の記事へ送る。
〈開拓令嬢、人口五万人都市へ!?〉
口元が戻った。
過酷な元流刑地へ人を呼び込み、順調に拡大しているらしい。
まだ投げ出していない。
そんな根性のある女だと思っていなかったが。
〈大型ワイバーン発見!〉
〈ノイマン子爵令息、謝罪行脚?〉
「……何をしているんだ、あそこは」
「開拓を」
「それは知っている!」
人口が増え、街ができ、竜まで出た。
迷惑をかけた子爵令息は関係各所に謝っていた。
話題に困らない星である。
エアハルトはワイバーンの記事を開いた。
大型個体との遭遇。
救難部隊の出動。
領主自ら現地へ赴き、事態の収拾に当たったこと。
読み進めるほど、エレオノーラが目立っていた。
腹が立つ。
しかも記事の最後には、領民からの感謝の声まで載っていた。
〈電気と水道が復活! お嬢様のおかげで人間らしい生活ができるようになりました!〉
〈日々街の形が変わるほど開発が進んでいます〉
〈仕事の求人がありすぎて人が足りない〉
なぜだ。
竜が出たのだぞ。
普通はもっと、こう……領主の判断を疑問視したり、開拓計画の無謀さを指摘したりするものではないのか。
「なぜ称賛されている」
「開拓を進めておりますので」
エアハルトは画面を睨みつけた。
あの女が褒められている。
しかも、本人は領主として当然のことをした顔で、次の計画まで発表している。
当然ではない、竜が出たのだ。
元流刑地で、まだ未知の危険が多いのだ。
もっと怯えろ。
(怯えろ?)
エアハルトは画面から顔を上げた。
「……これだ」
オスカーは、その表情を見た。
前にも見た。
監査官を送ると言い出したときにも、こんな顔をしていた。
本人だけは、八つ当たりと国家のために素晴らしい案を思いついたつもりでいる。
「国民は、ノイエルデの実態を知らされていないのではないか」
「記事には、かなり詳しく」
「危険性の話だ!」
エアハルトは椅子へ深く座り直した。
「巨大な竜が出る。移民は押し寄せる。海賊崩れの商会まで入り込んでいる。貴族の子息が騒動を起こし、さらに軍備も増やしている!」
「それぞれ事情はございますが」
「ならば、知らせねばならん」
エアハルトは力強く頷いた。
いい考えだった。
何しろ、嘘をつく必要がない。
開拓の成果を大きく書くから、若き領主の奮闘になる。
危険なところを大きく書けば、危険な惑星になる。
大きくする場所を変えるだけだ。
同じ料理でも、盛り付けを変えれば印象は変わる。
いや、料理にたとえるなら、エレオノーラは皿ごと奪っていったようなものだが。
「殿下」
オスカーが慎重に口を開いた。
「それは、報道機関へ圧力をかけるということでしょうか」
「人聞きの悪いことを言うな。注意喚起だ」
「では、情報の提供という形で」
「そうだ。国民には、移住先を慎重に選ぶ権利がある」
立派なことを言った。
つい先ほどまで、エレオノーラが褒められていることに腹を立てていた口である。
しかも、エアハルト自身はノイエルデへ行く気など、毛頭ない。
危険だからではない。
王族がわざわざ辺境へ行く必要はないからだ。
そういうことにしておく。
「危険な大型竜が生息している可能性。治安への懸念。海賊との関係。そうした点も、十分に伝えるべきだ」
「確認できた範囲の情報に限りますが」
「もちろんだ」
エアハルトは、わずかに笑った。
その笑みは、国家を憂う王子というより、隣家の評判を落とすために回覧板を待つ者に近かった。
「わざわざ、あんなところへ行きたがる者がいるものか」
─────
ほどなく、ノイエルデに関する記事の見出しが、少し変わった。
〈巨大竜の潜む危険な開拓惑星〉
〈海賊の末裔が率いる商会、その実態〉
〈急増する移民、近隣トラブル、進む軍備増強〉
〈急速な開発で辺境ノイエルデ領府財政逼迫!?〉
「これで少しは落ち着くだろう、わざわざこんなところに来たがるやつはいない!」
オスカーは返事をする前に、もう一度見出しを見た。
危険を強調したつもりなのに、まるで宝の在りかを示す広告のようにも読める。
エアハルトは気づいていない。
自分が「見るな」と言いながら、指差していることに。
エアハルトは、危険性を強調した記事をもう一度読み、頷いた。
今度こそ、うまくいく。
エレオノーラの名前が、これ以上広まることはない。
ノイエルデへ向かう者も、きっと減る。
─────
帝都。
とある冒険者ギルドの休憩室。
「おい。これ見ろよ」
ハンターの一人が端末を掲げた。
「大型ワイバーンだってさ」
「どのくらい大型?」
「通常よりでかいらしい」
「へえ」
椅子が寄った。
もう一人、覗き込んだ。
「開拓地か。人は住んでるのか?」
「五万人都市になるんだと」
「三代で百年住んだら土地が永久所有!?」
「噂で聞いたけどそれガチ?」
「港は?」
「今は建設中、代わりに宇宙基地がある」
「行けるじゃん」
別の男が、自分の端末でノイエルデを検索する。
「募集も出てるぞ」
「何の?」
「いろいろ」
画面の中で、美形の空騎士の歯が光った。
軍人、警備隊、公務員、各種募集。
「景気よさそうだな」
「なにそれ。面白そう」
誰かが、船便を調べ始めた。
「竜がいるんだろ?」
「いるらしい」
「仕事は?」
「山ほど」
「飯は?」
「開拓地なら、食堂も増えるだろ」
「味は保証されてないけどな!」
危険性を強調した記事は、彼らの中でいつの間にか求人広告と狩場情報を兼ね始めていた。
─────
ノイエルデの名は、これまでとは少し違う人々の間で広まり始めていた。
巨大竜。
未開の土地。
仕事の多い開拓惑星。
危険と聞いて荷造りを始める者も、いた。
ギルドも冒険者を支援する支部を作るために動き出した。
そして、エアハルトが最も知られたくなかったことに、彼の「注意喚起」は、ノイエルデの宣伝としてはかなり優秀だった。
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