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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第一章 卒業式の翌日から開拓領主ですわ!

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3  乙女ゲームの背景、物騒すぎませんこと!?

 〈ヴァルテンベルク〉の中へ一歩足を踏み入れた瞬間、エレオノーラは足を止めた。


「……船の中、ですわよね?」


「左様でございます」


 念のため確認したが、セバスティアンの答えは変わらなかった。


 目の前には、広い通りが延びていた。


 通りである。


 通路ではない。


 両側には商店が並び、食料品から日用品、衣服まで売られている。頭上には案内表示が浮かび、乗員たちが忙しそうに行き交っていた。


 少し先には吹き抜けの広場まである。


「商店がありますわ」


「長期間の航行に備え、日用品は艦内で揃えられます」


「プールもありますわ」


「乗員の訓練および保養施設でございます」


「その隣の建物は?」


「総合運動施設でございます。大型訓練室、運動場、格闘訓練区画などがございます」


「酒場と書いてありますわよ?」


「非番の乗員向けでございます」


「その奥にクラブもありますわよ?」


「節度を保って利用するよう定められております」


 なんでもあった。


 商店。


 食堂。


 プール。


 大きなジム。


 運動場。


 酒場。


 クラブ。


 医療区画や礼拝施設まで存在するらしい。


 船というより、ひとつの街だった。


 しかも、通りを歩いている人間の数がおかしい。


 制服姿の船員。


 機関員。


 整備士。


 医療従事者。


 物資を運ぶ作業員。


 どこを見ても、人、人、人である。


「……ずいぶん大勢乗っておりますのね?」


「〈ヴァルテンベルク〉の運用に必要な船員でございます」


「全員ですの?」


「はい」


 エレオノーラは、自分についてきた使用人たちを振り返った。


 それから、視界の果てまで行き交う船員たちを見る。


 もう一度、自分の使用人を見る。


「わたくしのお世話係より、船員の方が遥かに多いですわー!?」


「船を動かす者より、お嬢様のお世話をする者の方が多ければ問題でございましょう」


「公爵令嬢一人を運ぶために、街ひとつ動かしておりませんこと!?」


「お嬢様を運ぶためだけの船ではございませんので」


 もっともな返答だった。


 だが、ゲームの中ではこんなものは見たことがない。


 ホリスタの星間移動は、銀河地図から目的地を選ぶだけだった。


 行き先を指で触れる。


 するとアンナを表す小さなアイコンが、星から星へぴょんぴょん跳んでいく。


 それで終わりである。


 船員もいなければ、補給もない。


 酒場もクラブもない。


 目的地までの航海など、読み込み画面の数秒で済んでいた。


(あの小さなアイコンの裏側で、こんな巨大な船と膨大な人数が動いていたんですの?)


 画面の中では省略されていたものが、いちいち大きすぎる。


 エレオノーラは艦内を見学しながら、何度目か分からない絶句を繰り返した。


 やがて一行は、分厚い隔壁の向こうにある巨大な区画へ出た。


 そこには、何十メートルもの高さがある人型兵器が整然と並んでいた。


 金属質の装甲。


 人間を模した頭部。


 機体ごとに異なる盾や長槍、剣、魔導砲。


 整備用の足場が何層にも組まれ、大勢の整備士が機体の周囲を動き回っている。


 エレオノーラは大きく口を開けた。


「……あれはガン○ム」


「はい?」


「著作権はどうなってるんですの!?」


 セバスティアンが沈黙した。


 そういえば、ホリスタは前世で遊んでいた中華ゲームである。


(では、著作権について深く考えるのはやめておいた方がよろしいですわね)


 エレオノーラは賢明な判断を下した。


「あちらが、空騎士の使用する騎士機でございます」


「空騎士……?」


 ゲームでも、空騎士という言葉は何度も聞いていた。


 空を飛ぶ騎士。


 つまり、空を飛ぶイケメンである。


 エレオノーラの理解は、その程度だった。


 カードに描かれているのも、基本的には顔と身体と衣装だ。戦闘画面でも、派手な光とともにスキルを放つだけ。


 その背後に、こんな巨大兵器が存在するとは思っていなかった。


「空騎士とは、あちらの機体を操縦する騎士のことでございます。通常は戦闘機形態で航行し、近接戦闘時には人型、または半人型へ変形いたします」


「変形までするんですの!?」


「いたします」


「ますますガン○ムではありませんこと!?」


 そのとき、人型兵器の一角で、巨大な機体がゆっくりと起動した。


 ほかの機体より装甲が立派で、頭部から鋭い角が一本伸びている。


 お台場で展示されていた──


「あれはユニコーンガン──」


「隊長機でございます、お嬢様」


 セバスティアンが即座に遮った。


 よく見れば、確かに騎士らしい意匠だった。


 頭部は兜。


 胸部装甲は胸当て。


 片手には長槍、もう一方の腕には大盾。


 頭の角も、兜飾りだと思えば見えなくはない。


 角を持つ機体が、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。


 格納区画を見下ろす窓の向こうに立つエレオノーラへ、操縦者が気づいたらしい。


 巨大な騎士機は片手を胸元へ当て、恭しく頭を下げた。


 騎士が貴人へ捧げる、正式な礼である。


「動きましたわ!」


「稼働中でございますので」


「こちらを見てますわ!」


「お嬢様へご挨拶申し上げております」


「巨大ロボットからファンサをいただきましたわー!」


「騎士の礼でございます」


 エレオノーラは満面の笑みで扇を振り返した。


 隊長機はもう一度だけ丁寧に頭を下げると、ゆっくりと正面へ向き直った。


(空騎士とは、空を飛ぶイケメンではなく、変形する巨大人型兵器へ乗った空を飛ぶイケメンでしたのね!)


 情報量が増えた。


 だが、イケメンであることだけは変わらない。


 ならば問題なし。


 艦内見学を終える頃には、〈ヴァルテンベルク〉は軌道上宇宙港から完全に離れていた。


 艦内の観景窓から外を見れば、周囲にも複数の艦影がある。


 〈ヴァルテンベルク〉と比べれば小さい。


 あくまで、比較すればの話である。


「あの船も一緒に来ますの?」


「護衛艦でございます」


「護衛艦」


「駆逐艦を中心に編成されております」


「駆逐艦」


「はい」


 エレオノーラは窓の外を見た。


 巨大な艦。


 人型可変戦闘機。


 駆逐艦を含む護衛部隊。


 膨大な船員。


 艦内に存在する街。


 それから、自分の記憶にあるホリスタのカード画面を思い浮かべた。


「カード……乙女ゲーム……?」


 知っているものと、目の前にあるものが、まるで結びつかない。


 ゲームの中で、星乙女アンナは美形たちと出会い、絆を結び、星から星へ愛と平和を届けていた。


 その背景では、これほど巨大な船が動き、無数の船員が働き、騎士たちは人型可変戦闘機へ乗り、軍艦が艦隊を組んでいたのだ。


 銀河を巡る乙女の冒険譚。


 その背景として一枚絵で済まされていたものが、現実では巨大な軍事世界として存在している。


(わたくし、こんな物騒な世界でイケメンのカードをつついて遊んでいましたの?)


 ゲーム画面とは、ずいぶん都合よく世界を縮めてくれていたらしい。


 艦内放送が響く。


『当艦はこれより、ワープ航行へ移行します』


 エレオノーラは慌てて窓の外へ顔を向けた。


 護衛艦が所定の位置へつき、〈ヴァルテンベルク〉を中心とした隊列が整っていく。


 星々の光が歪んだ。


「わ、ワープですの!?」


「星系間を移動いたしますので」


「ゲームでは、ぴょんと跳ねるだけでしたわ!」


「左様でございますか」


 視界が白い光に包まれる。


 次の瞬間、首都星エーデルクローネも、周囲の星々も消えた。


 〈ヴァルテンベルク〉は、護衛艦とともに銀河の彼方へ跳んだ。



 ─────



 ワープ航行を終えた〈ヴァルテンベルク〉のブリッジ。


 正面のメインモニターへ、一つの惑星が映し出されていた。


 帝国辺境に、忘れられたように浮かぶ星。


 ジルバーヴァルト星系、惑星ノイエルデ。


 青灰色の雲。


 緑と褐色の大陸。


 海。


 極冠。


 一見すると、人の住める穏やかな惑星に見える。


「こんなところに、開拓惑星があったなんて」


「はい。ですが」


 隣に立つセバスティアンの声には、わずかな含みがあった。


 エレオノーラが横目で見る。


「問題がある、と」


「はっ」


 メインモニターへ、惑星の観測情報が次々と表示された。


 所属星系。


 公転周期。


 自転周期。


 気象。


 平均気温。


 降水量。


 季節変動。


 地表重力、一・一G。


 空気密度はやや高め。


 大気組成は、人間の居住に問題なし。


 数値だけを見れば、開拓不可能な惑星ではない。


 むしろ、かなり条件はよい。


 エレオノーラは表示を上から下まで追い、もう一度読み返した。


 何かが足りない。


「……宇宙港は?」


「ご慧眼でございます」


 褒められた。


 だが、まったく嬉しくない。


 セバスティアンが操作すると、メインモニターの表示が切り替わった。


「この惑星は以前、帝国の流刑地として使用されておりました」


「流刑地」


「その後、開拓植民地として入植が進められましたが、流行病によって入植地の大半が壊滅しております」


 さらりと、とんでもない来歴が出てきた。


「以後、本格的な再開発は行われておりません」


「少々、お待ちになって」


 エレオノーラは扇を持ち上げ、情報を整理した。


 旧流刑地。


 流行病。


 入植地壊滅。


 再開発なし。


 皇帝はそこへ、十八歳の公爵令嬢を放り込み、発展させてこいと言ったのだ。


(追放にしても、難易度設定がおかしくありませんこと?)


 セバスティアンは淡々と続けた。


「宇宙港」


 モニターに、赤い文字が一つ表示される。


「衛星軌道上基地」


 二つ目。


「宇宙基地」


 三つ目。


「軌道エレベーター」


 四つ目。


 セバスティアンは一拍置いた。


「すべて──ございません」


「ござい……ませんの!?」


「ありません」




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