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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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9 限界まで育成ですわ!

「そういえば最近、ディートリヒをあまり見ませんわね?」


 執務室で書類をめくっていたエレオノーラが、ふと顔を上げた。


 ここ数日てんで見かけてない。


 目の保養をしようと顔を上げても、いないのである。


「オットー様が、毎日訓練をつけていらっしゃいます」


 黒髪のメイド、マリーが答えた。


「オットーが?」


 エレオノーラは瞬きをした。


 あの小柄な老技術者が、長身の騎士を鍛えている。


 想像がつかない。


「……何をなさっているのかしら」



 ─────



「こちらが新しくできた飛行場でございます」


 先導するのはメイドのマリーだった。セバスティアンが別件で不在である。


「お嬢様の領主専用機も、こちらにご用意しております」


 広く天井の高い格納庫に、騎士機(キャヴァリエ)がずらりと並んでいた。

 人型で立つ機体もあれば、戦闘機状態で翼を休める機体もある。待機状態で機体もばらばらだった。


 ちょうど、一機からパイロットが降りてくるところだった。


 ふらつきながらヘルメットを外す。


 灰金の髪の美形が現れた。


 ディートリヒ・バウアーである。


 近くの整備士が、慣れた手つきで椅子を持ってくる。


 別の整備士が水を渡す。


 ディートリヒが座る。


「ありがとうございます……」

「おう。飲んどけ」


 実に滑らかな連携だった。


「まあ、ディートリヒ!」


 呼びかけると、灰金の髪がゆっくり動いた。


「……お嬢様」


 声が低い。


 いつも低くてよい声なのだが、今日は元気まで低かった。


 髪は乱れ、額には汗。

 パイロットスーツの襟元を緩めた姿は初見の差分である。


 美形の弱った姿は目の保養だったが、本人はそれどころではなさそうだ。


「ずいぶんお疲れですのね?」

「少々……」

「今日はまだ歩けとるぞい!」


 横から、ひどく元気な声がした。


 オットーである。


 端末を抱え、訓練データを眺めている。こちらは汗ひとつかいていなかった。


「今日は、とは?」

「おお、姫さん! 今日もばっちり鍛えとるぞい!」


 質問は、明るい挨拶に吸収された。


 エレオノーラは騎士機を見上げ、オットーの端末を覗き、それから椅子に沈んだ推しを見た。


 なるほど。


「つまり、わたくしのディートリヒのレベリングを?」


 マリーが目を見開いた。


 隣のメイドのジュリアも、ディートリヒを見た。


 女護衛騎士たちも首を向けた。


 整備士たちも止まった。


 聞き捨てならない一言であった。


「ごほっ」


 ディートリヒは、むせた。


「……?」


 エレオノーラが首を傾げる。


 何かおかしなことを言っただろうか。


 自分の手持ち。

 大切な高レア。

 しかもUR。


 育成は重要である。


 一方、ディートリヒの頭には、別の部分だけが届いていた。


 わたくしのディートリヒ。


「…………」


 水を飲む。


 もう一口飲む。顔が熱い。


 疲れすぎて聞き間違えたのかと思ったが、メイドたちの顔を見る限り、そうでもなさそうだった。


(……訂正したほうがいいのか?)


 何を、どう訂正するのか。


 『専属騎士が強うなったら姫さんも喜ぶぞい!』


 もしかして、本当に自分の知らないうちに専属騎士になったのか。


(……悪い気はしない、かも……)


 黙って、水を飲んだ。


「れべりんぐとやらは知らんが、昨日よりは扱えるようになっとる!」


 オットーが端末を掲げた。


「ほれ! ここの数値じゃ! ブーストモードの継続時間が増えておる!」

「まあ! 上がっておりますわ!」


 折れ線グラフが緩やかに右肩上がりである。


「ではオットー。ディートリヒはもっと強くなれますの?」

「当然じゃ! まだまだ伸びしろだらけじゃぞ!」


 エレオノーラの目が輝いた。


 オットーの目も輝いた。


 ディートリヒは硬直した。


 知っている。


 この老人が目を輝かせたあと、自分が楽だったことは一度もない。


「お嬢様、あの」


「では、限界まで鍛えてくださいまし!」


「お嬢様ぁ!?」


 ディートリヒから悲鳴に近い声が上がった。


「任せるがよい!」

「ちょっとぉ!!」


 ディートリヒは椅子から腰を浮かせた。


 脚が震えた。


 座った。


 訴えの勢いが、少し減った。


「今日も、相当やってるんですよ……!」


「ええ。ならば、これからもビシバシ!」


 エレオノーラは優しく微笑んだ。


「レベル上限までお願いしますわ!」


 到達地点が優しくなかった。


「レベル上限が何かは知らんが、限界は確かめてやるぞい!」

「俺は毎日限界ですよ!」


「さらに限界までやってくださいまし!」


 血も涙もない発言である。


 オットーは端末に何やら高速で入力している。


 ぜったいロクでもないメニューである。

 ディートリヒは頭を抱えた。


「強うなりたいじゃろ?」

「それは、そうですが」

「姫さんも期待しとるぞい!」


 ディートリヒが詰まった。


 エレオノーラは、にこにこしていた。


「頼りにしておりますわ、ディートリヒ!」


「……はい」


 返事が出た。


 出てから、自分で額を押さえた。


 オットーは、さらに一つ入力した。


「今の『はい』は、追加訓練への返事ではありませんからね!?」



 ─────



 エレオノーラがオットーと楽しそうに話している。


 その後ろで、マリーとジュリアは控えていた。姿勢も表情も申し分なく、主人が何か求めれば、すぐに応じられる距離だった。


「……あの男、早めに処すべきでは」


 マリーの唇は、ほとんど動かなかった。


「お嬢様のディートリヒですよ」


 ジュリアも前を向いたまま答える。声は隣に立つマリーへ届く程度。二人とも、表情ひとつ変えていない。


「平民風情が、顔がいいからって気に入られて……」


 マリーの視線が、主人の隣にいる騎士へ向く。


 顔がよい。声が良い。

 お嬢様がお気に召している。


 それは承知している。だからこそ、警戒が必要だった。


「私は憧れます」


「何にです?」


「騎士と姫の恋愛……ドラマみたいではありませんか?」


 ジュリアの目が、ほんの少し輝いた。


 折よくエレオノーラが微笑んでいた。


 吊り目だが、豪華な金の縦ロール、エメラルドの瞳。申し分なく美しく端正な顔立ちである。ジュリアにはその笑顔は女神のように映っていた。


 ジュリアは満足そうに眺めた。マリーは二人の距離を確認した。


「……そうですか」


「美男と美女でお似合いだと思いませんか?」


「お嬢様がお気に召していることは存じております」



 ─────



 その間にも、ディートリヒは明日の訓練予定を見せられていた。


「……増えてる」

「姫さんのお墨付きじゃ!」

「そういう意味で仰ったんじゃないでしょう!」


 ディートリヒは深くうなだれた。


 脚は重い。

 腕も重い。

 明日の予定は、容赦ない。


 なのに。


(わたくしのディートリヒ……)


 そこだけ、妙にはっきり思い出せた。


 口元が緩みかける。


 明日の訓練表を見る。


 真顔に戻る。


「どうした。笑うか落ち込むか、どっちかにせい」

「少し黙っていただけますか……」


 その日から、訓練項目が増えた。


 メイドたちの間には、新しい呼び名が増えた。


「お嬢様のディートリヒ」。


 エレオノーラだけが、純粋に手持ちユニットのレベルアップを楽しみにしていた。

 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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