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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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7 アンナside 霧冠の幽█_ 前編

 今日も、星乙女アンナとその仲間たちは、愛と平和を銀河に届けるために旅をしていた。


 原作ゲーム『銀河聖国(ホーリー)の星乙女(スターメイデン)〜Holy Star Maiden』、通称『ホリスタ』には、メインストーリーが存在する。


 その幕開けとなるのが、エーデルシュテルン銀河帝国学院編。世界観や操作を学ぶ導入兼チュートリアルであり、悪役令嬢エレオノーラの断罪と追放、そして星乙女アンナたちの旅立ちが描かれる。


 悪役令嬢が退場したところで、物語が終わるわけではない。むしろ、ここからが本番だった。


 銀河を巡るメインストーリーに加え、季節イベントや限定イベントも随時追加される。行く先々で事件や騒動に巻き込まれながら、アンナたちは新たな仲間と出会い、旅を続けていくのだ。


 もちろん、新しい物語とともに実装されるのは、ガチャと、顔のいい男たちである。


 銀河の平和は守らなければならない。新しい男も迎えなければならない。プレイヤーには、なかなか忙しいゲームだった。


 アルビオン・ロンディニウムを舞台とする〈霧冠〉事件も、そうしたイベントストーリーの一つ。


 アンナは、その筋書きを知っていた。



 ─────


 アルビオン星間王国。

 その主都惑星、ロンディニウム。


 古い石造りの街並みから高層建築が伸び、頭上を小型飛行艇が行き交っている。ガス灯に似せた魔導街灯が薄霧を照らし、魔導鉄道は、わざわざ蒸気機関車のような音を立てて走っていた。


「素敵……!」


 探偵風のケープをまとったアンナが、帽子を押さえて振り返る。


 隣のアルブレヒトも、霧の街によく似合う紳士姿だった。

 到着と同時に配布された。

 ゲームと同じく配布衣装である。


 マクシミリアンも探偵服である。


 ただし、肩がきつそうだ。


「これ、本当に俺の寸法か?」


 ボタンが頑張っていた。


 そんな一行の前を、黒猫が横切った。


「あら」


 猫が止まる。

 振り返る。

 ついてこい、とでも言うように尻尾を振る。


 アンナはしゃがんだ。


「どうしたの?」


「にゃ」


 ついていった先は、川沿いの古い時計塔だった。


 人だかり。立入規制。


 『ホリスタ』の通りだった。



 ─────



 流れは覚えている。


 今回も迷わず進めるはずだった。


「鑑定士の証言は取れた。取引に使われる書類も、押さえられそうだよ」


 現地に到着早々、金髪の少年、SSRエドワードが警察にそう話していた。


 アンナは笑顔のまま固まった。


「アンナ?」


 隣のアルブレヒトに声をかけられ、慌てて瞬きをする。


「ううん。なんでもない」


「にゃ。」

 黒猫がエドワード少年に向かって鳴く。


「やあホームズ、来てくれたのかい」


 エドワード少年が振り向くとホームズと呼ばれた猫の後ろについてきた人間たちに目をやる。


「君が呼んだ助っ人かい?」


 黒猫はエドワードの足元に擦り寄った。

 それから、ついてきたアンナたちを見上げる。


「あと少しなんだ。君たちも手を貸してもらえると助かる」


 エドワードの言葉に頷きながら、アンナは周囲を見回した。

 彼の家臣、SRキースが警察とやりとりをしている。


 けれど、一人、足りない。


(ユリウスは?)


 原作なら、この事件に参加しているはずだった。


 ここは期間限定イベントの開催地だった。

 イベント名、霧冠の幽影。

 伯爵家が代々管理してきた危険なアーティファクト〈霧冠〉。それを狙うエドガー・モートンは、伯爵令息を騙し、鑑定士まで使って合法的な取引を装う。


 その裏を別々に探っていたのが、ユリウスと、グレイ男爵家令息キースだった。

 アルビオン王家、第三王子エドワードに仕える若手家臣のキースは、エドガー側へ接触した末に仮死状態に陥る。


 そこで星乙女の出番である。


 キースを救い、企みを暴き、〈霧冠〉を守る。


 最後にエドガーが紫黒い血を吐いて死ぬのは、少々後味が悪かった。黒幕から力を借り、失敗して口封じされたのだろう。原作では、そんな不穏さを残して終わっていた。


 ユリウスだけがいない。


 その頃、当の諜報員はノイエルデで密航に失敗し、捕まっていた。


 こちらの事件に参加するには、まずあちらの惑星から出る必要があった。


 なお、ユリウスがいないことで──

 事件はすでに解決目前であった。


 ─────


 そして旧市街の一角。


 石造りの建物の一階で、エドガー・モートンは身柄を拘束された。


 事件の終わりとしては、あまりにもあっさりとした幕引きだった。


「誤解だ。私は、正式な手続きを……」


 エドガーはなおも言い募っていたが、机に書類を置かれると口を閉ざした。


 アンナはそっと息を吐いた。


(順番は違うけれど……結末は同じ)


 その時エドガーの顔から、急に血の気が引いた。


「ぐ……ぁ……!」


 身体が折れる。


 アンナの肩が強張った。


(来る)


「その人から離れて!」


 叫ぶのと、エドガーの口元から紫黒い液体がこぼれるのは同時だった。


 床に黒ずんだ染みが広がる。


 エドガーは倒れなかった。


 背中が、内側から押し上げられた。


 上着の縫い目が弾ける。肩が横へ広がり、拘束された腕が異様な太さに膨れ上がった。


「……え?」



 骨格の軋む、乾いた音がした。


 エドガーが顔を上げる。見開かれた目から紫黒い涙が流れ、開いた口から同じ色の液体が糸を引いた。


「ありえない……」


 アンナは一歩退いた。


 こんな場面はなかった。


 倒れて、動かなくなるはずだった。


「外へ!」


 アルブレヒトがアンナの腕を引いた。


 通りへ出たアンナが振り返ったとき、外壁が内側から膨らみ、石壁が崩れ落ちた。


 砂埃とともに庇が吹き飛び、巨大な肩が建物の一階を押し潰して現れる。


 通行人の悲鳴が上がった。


 巨体が動くたびに目と口の位置がずれていった。


「こんなの、知らない……!」


 本日は1話の更新です。 

 最後まで読んでくださりありがとうございます。 


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