6 推し活の循環型経済ですわ!
試作品が完成したのは、それからしばらく後だった。
エレオノーラは棒状の器具を握る。
点灯。
まずは誘導灯カラー。現場で即使える。
真紅。
「まあ!」
もう一度操作する。
青。
「おお!」
緑。
「いいですわ!」
ピンク。
金。
ディートリヒの灰青。淡いグレーブルーだ。
「推し色ですわーーー!!」
そして最後に。
虹色。
「おーっほほほほ! これですわ! これぞ最高レアですわーーー!」
ぶんぶんと振る。
光の軌跡が宙を走った。
腕も使う。
意外と運動になる。
「推しを応援できて、健康にもよろしい! 完璧ではなくて!?」
「…………」
セバスティアンは、楽しそうに試作品を振る主人を眺めていた。
真紅。青。緑。ピンク。金。
灰青。
そして、机の上の商品企画書へ視線を落とす。
製造費は、さほど高くない。
用途も分かりやすい。
色違いを展開できる。
応援目的ならば、複数を購入する者も出るだろう。
何より。
現在のヴァルテンベルク領内には――エレオノーラ本人を支持する者が多い。
「お嬢様」
「なにかしら?」
虹色に光るペンライトを振ったまま、エレオノーラが振り返った。
「一つ、ご提案がございます」
「まあ、聞きますわ」
セバスティアンは袋の商品説明を指差した。
「ここに一文を添えれば」
「?」
「爆発的に売れます」
「……?」
エレオノーラは、虹色の光を握ったまま首を傾げた。
─────
エレオノーラ・ブランド、応援用発光棒は〈ヴァルテンベルク〉内であっという間に生産された。
『推しを応援しよう!』
真紅/ケーニヒスブラウ/深緑/ピンク/その他各色。
色変更機能搭載。
観劇、競技、式典、祭典。
さらには簡易誘導灯としても使用可能。
「悪くありませんわね」
「ありがとうございます」
「ですが、前とほとんど変わっていないような――」
「こちらでございます」
セバスティアンが指差した。
パッケージの袋、その商品説明の一番下。
そこに、小さな一文が追加されていた。
※売上金の一部は、エレオノーラ様によるノイエルデ開拓事業の応援資金として活用されます。
「…………」
「いかがでしょう」
「…………」
エレオノーラは商品説明を見た。
セバスティアンを見た。
もう一度、商品説明を見た。
「それ、わたくしを推す商品になってません!?」
「左様でございます」
「堂々と言いましたわね!?」
何を当然のことを、という顔をしている。
「お嬢様を応援しながら、お嬢様が進めておられるノイエルデ開拓事業にも貢献できます」
「ええ」
「つまり、購入者は商品を購入することでお嬢様を応援し、その売上がお嬢様の事業へ還元される」
「…………」
「二重の応援となります」
「…………!」
エレオノーラの目が見開かれた。
「推し活の循環型経済……!」
「その表現が適切かは分かりかねますが」
「素晴らしいですわ!」
エレオノーラは再びペンライトを振った。
「採用ですわ! これで参ります!」
「かしこまりました」
セバスティアンは一礼した。
こうして。
エレオノーラは、自分が欲しかった推し活グッズを商品化した。
そして、発売された。
ヴァルテンベルク領内。
売れた。
傘下惑星。
売れた。
ノイエルデへの移民希望者。
買った。
領内企業。
箱で買った。
貴族家。
「ヴァルテンベルク公爵家への忠誠の証として」
「公女様への支援として」
「よそが買ってるのにうちが買わないわけにはいかない」
まとめて買った。
軍。
「我が隊は青で統一するぞ!」
「了解!」
なぜか隊ごとに色を揃え始めた。
子供。
「これ欲しい!」
普通に欲しがった。
祭典。
「せーの!」
全員で振った。
結果。
あほほど売れた。
「…………」
会計部。
イルゼは売上表を見つめていた。
無言だった。
端末を操作する。
もう一度数字を見る。
また操作する。
「…………」
三度見した。
「どうでしたの?」
エレオノーラが期待に満ちた顔で尋ねる。
イルゼは顔を上げた。
「追加生産です」
「そんなに!?」
「現在の在庫では足りません」
「まあ!」
エレオノーラは嬉しそうに手を合わせた。
「皆さま、そんなに推しがいらっしゃいますのね!」
「違います」
「?」
「お嬢様を応援しているのです」
「…………」
エレオノーラが止まった。
「…………わたくしを?」
「はい」
「皆さまが?」
「はい」
「…………」
エレオノーラは自分を指差した。
「わたくしが推されてますの!?」
「今さらでございますか」
セバスティアンが言った。
「だってこれは推しを応援するための商品ですわよ!?」
「ですから、皆さまお嬢様を応援しておられるのでしょう」
「まぁ! ですがわたくし悪役令嬢でしてよ」
「悪役?」
「綺麗な循環かと」
「これが推し活の循環型経済……!」
「お嬢様、その言葉がお気に召しただけでは?」
その後も、発光棒は売れ続けた。
中でも人気だったのが、ヴァルテンベルク公爵家の色。
真紅。
当初は単なるカラーバリエーションの一つにすぎなかった。
しかし、いつしか。
エレオノーラを応援する者たちは、自然と真紅を選ぶようになった。
うちの公爵令嬢はペンライトを売ることにしました。
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