↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/82

4 ブーストモード

「ブースト機能?」


 ノイエルデ地上、仮設基地。


 滑走路脇の整備区画で、ディートリヒは操縦席で首を傾げた。


 傾げた先に、オットーの肘があった。


「狭いんですが」

「わしも狭い」

「降りて調整できませんか」

「ここでないとできん」


 戦闘機形態の改良型騎士機(キャヴァリエ)試作機。その一人乗りのコックピットへ、小柄な老人が工具と端末を持ち込み、みっちり詰まっていた。


 ディートリヒの膝の上を、何本ものケーブルが横切っている。


 まだ外部映像の灯っていない全天モニターは、巨大な水晶球の内側に似ていた。開いた搭乗口から日差しが入り、オットーの白髪を照らしている。


「この間の救難でも、普段の訓練でも使わんかったじゃろ」


 オットーが小型端末を叩く。OSを表示するメインモニターに、調整用の数値が流れた。


「ええ。訓練は通常の機体性能でやっていますので」

「ワイバーンと戦って、倒せなかったんじゃろ! なぜ使わなかった!」

「そんなの説明受けてませんよ!」


 ディートリヒは身を起こした。


 ケーブルが引っ張られた。


「動くな!」

「では驚くようなことを言わないでください!」


 オットーは接続を確かめ、コンソールの脇を指差した。


「この赤いボタンじゃ」


 あった。


 いかにも、気軽に押してはいけなさそうな赤いボタンが。


「これを押すと、ブーストモードになる!」

「……あの、爆発は?」


 前回の試乗で聞いた単語を、ディートリヒは忘れていなかった。


 オットーは力強く頷いた。


「その検証をしてもらいたいんじゃ! 爆発するかどうか!」

「絶対嫌です!」


 即答した。


 操縦席から逃げようにも、出口にはオットーが詰まっていた。


「やじゃ! やじゃ! 絶対使ってほしいんじゃ!」

「俺の機体を魔改造しないでくださいよ!」

「改良じゃ!」

「爆発するかどうか分からないんでしょう!?」

「だから確かめるんじゃろうが!」


 話が一周して戻ってきた。


 しかも、老人は言い争いながら作業を進めていた。


 ピ。

 端末が鳴る。

 モニターの表示が切り替わる。


「よし! 調整完了じゃ!」


 オットー・シュタインが顔を上げた。


「名付けてシュタインスペシャルじゃ!」

「元に戻してください……」


 開発者の名前がついた特別な試作機になってしまった。


 搭乗員の了承は、まだ取れていない。


「正式採用されれば、大幅な性能強化じゃぞ。ヴァルテンベルク軍も大喜びじゃ!」

「まず搭乗員が喜べる仕様にしていただけませんか」

「姫さんだって、専属騎士が強うなったら喜ぶぞい!」


 ディートリヒの口が止まった。

 実際のところは専属騎士ではない。秘書補佐というポジションである。

 専属騎士。

 胸にグッとくる響きだった。


 オットーも止まった。


 狭いコックピットで、二人が見つめ合う。


「…………」


 ディートリヒは赤いボタンを見た。


 次に、オットーを見た。


 オットーは待っていた。

 先ほどまであれほど騒いでいた老人が、今だけは静かに待っていた。


「……やりますよ! やればいいんでしょう!」


「おお! そうかそうか!」


 オットーは満面の笑みでケーブルを抜き始めた。


 手際がよかった。


「ただし、異常が出たらすぐ中止しますからね!」

「うむうむ!」

「聞いてます?」

「姫さんにも、よい報告ができるのう!」

「試験が終わってからにしてください!」


 ─────


 工具が片づき、端末が外され、最後にオットーが搭乗口から這い出した。


 外の整備員へ荷物を渡し、タラップを降りていく。


 ディートリヒは、ようやく足を動かした。


「頼むぜ、専属騎士さま」


 代わりに顔を覗かせた整備員へ、ため息で返した。


「はぁ……」


 整備員が笑って離れる。

 タラップが撤去された。


 キャノピー閉鎖。

 ロックを確認し、ディートリヒはベルトを締め直した。


「機体、起動」


 指先がスイッチを順に送る。


 水晶のようだった内壁へ、光が走った。


 正面。

 左右。

 頭上から足元まで。


 外部映像が繋がり、視界が開ける。


 仮設の格納庫。

 整備車両。

 舗装の外に広がる剥き出しの土。


 その向こうへ、滑走路が真っすぐ延びていた。


 青いOS表示が並ぶ。


「主系統、正常。操縦系、接続」


 操縦桿を握り、魔力を通す。


 翼端まで感覚が広がった。

 推進器の状態も、機体を支える車輪も、意識を向ければ伝わってくる。


 この感覚は、いい。


 赤いボタンさえ見なければ。


『地上管制より。滑走路への進入を許可します』


「了解。移動します」


 魔導炉が魔石燃料から魔力を汲み上げる。

 メインエンジンが低く唸り、機体がゆっくり動き始めた。


 誘導する整備員の合図に従い、機首を滑走路へ向ける。


 左右のスラスターを確認。

 操縦面の応答、正常。


 滑走路の端で、一度停止した。


 正面には、遮るもののない青空がある。


『風向良好。滑走路クリア』


 ディートリヒは操縦桿を握り直した。


『離陸を許可します』


「ディートリヒ・バウアー、出ます!」


 推力を上げる。


 エンジンの唸りが太くなった。

 エーテルの青白い噴射光が伸び、戦闘機形態の騎士機が滑走を始める。


 舗装の継ぎ目を拾う振動。

 後方へ流れる誘導灯。

 速度表示が、次々と数字を変えていく。


 背中がシートへ押しつけられた。


 ディートリヒは機首を引き起こした。


 前輪が浮く。


 続いて、主脚が地面を離れた。


 振動が消えた。


「離陸。脚、格納」


 機体下部へ車輪が収まり、表示が切り替わる。


 仮設基地がみるみる小さくなった。

 滑走路も格納庫も、整備員たちも、剥き出しの大地の上へ遠ざかっていく。


 青白いスラスター光を引きながら、騎士機はノイエルデの空へ駆け上がった。



 ─────



「通常推力、異常なし。姿勢制御も良好です」


『そうじゃろ、そうじゃろ!』


 通信にオットーの声が割り込んだ。


 ディートリヒは指定された進路へ機首を合わせた。


 出力は安定。

 魔力伝達にも乱れはない。


 このままで十分、よい機体なのだが。


『よーし! ブーストモード、オンじゃああああ!!』


「聞こえていますので、叫ばないでください」


 ディートリヒは小さく息を吐いた。


 コンソール脇の赤いボタンを見る。


『姫さんだって、専属騎士が強うなったら喜ぶぞい』


 余計な言葉まで思い出した。


「……ブーストモード、オン!」


 押した。


 瞬間、青いOS画面が赤く染まった。


 出力表示が跳ね上がる。


 上がる。


 まだ上がる。


「え?」


 各部のスラスターが唸りを変えた。


 青白かった燐光が、赤へ変わる。


 ディートリヒが操縦桿を握り直した、そのときだった。


「ちょっ……!」


 身体がシートへ叩きつけられた。


 視界のすべてが、後ろへ飛んだ。


 赤い尾を引き、騎士機が前方へ消し飛んだ。



 ─────



 青白い光が、赤へ変わった。


 次の瞬間、ディートリヒ機が観測映像の中央からすっ飛んだ。


「……まじかよ」


 地上管制の整備士が呟いた。


 隣で見ていた空騎士も、口を開けたまま空を指差している。


「今、エーテル光が赤くならなかったか……?」

「なった」

「なるのか?」

「知らねえよ」


 魔石から魔力を引き出す際に生じるエーテル光は、青白い。

 スラスターの光も青みを帯びた光のはずである。


 それが常識だった。


 ところが今、その常識が赤い尾を引いて遠ざかっていく。


 オットーだけが計器へ食いついていた。


 速度。出力。魔導炉の状態。

 次々に跳ね上がる数値を追い、目を輝かせる。


「成功じゃ!!」


 両手が上がった。


「ついに! 爆発せなんだ!!」


「そこが成功条件だったのかよ!?」


 整備士の叫びにも、オットーは上機嫌だった。



 ─────



 成功したらしい機体の中で、ディートリヒは歯を食いしばっていた。


「くっ……!」


 座席が震える。

 操縦桿が震える。

 足元からも、細かな振動が突き上げてくる。


 耐G姿勢を取る暇もなかった。


 加速に押し潰され、視界の端が暗くなる。かろうじて意識を繋ぎ、操縦桿を握り直した。


 機首を、少し戻す。


 そのつもりだった。


「うわっ!」


 地平線が跳ねた。


 逆へ修正する。

 今度は反対側へ振られた。


 入力が大きすぎる。


 いや、いつもなら、これで合っていた。


 今日まで何度も飛んだ機体だ。操縦桿をどれだけ動かせば、どこまで傾くか。どの程度の魔力で、どんな動きをするか。


 考える前に身体が覚えていた。


 その全部が、今は当てにならない。


「おい……!」


 ほんのわずかに触れただけで、機体が過敏に応える。


 推力に機首が持っていかれる。

 回頭しようにも、狙った角度で止まらない。


 自分の分身のようだった相棒が、赤いボタン一つで知らない機体になった。


 しかも、とんでもないじゃじゃ馬だった。


 フレームが軋む。


 ディートリヒは操縦桿を握り込み、魔力を流した。


「言うことを……きけ!」


 応答が返る。


 まだ浅い。


 機体の動きへ、さらに意識を伸ばす。翼へ。推進器へ。暴れ続ける姿勢制御系へ。


 噛み合った。


 ディートリヒの灰青の瞳に淡い輝きが宿る。


 全天モニターに、細い虹色の筋が走った。


 一筋、二筋。

 幾重にも重なり、魔力の伝達と機体の同調を描き出す。


 外へ噴き出すスラスター光は、赤いままだ。


 機体が大きく傾く。


 地上が横へ回った。

 空が足元へ来た。


 そのまま、ぐるりと一回転。


「っ、ここだ!」


 ディートリヒは姿勢を押さえ込んだ。


 水平。


 機首が、ようやく狙った方向を向く。


 すぐに推力を絞った。まだ速い。さらに落とす。


 身体を押しつけていた圧力が、少しずつ緩み始めた。


「……はっ」


 息が漏れた。


 もう一度、深く吸う。


 今度はちゃんと吸えた。



 ─────



 慎重に機体を反転させ、仮設基地への進路を取る。


 操縦桿は、ほんのわずかずつ。

 魔力も、様子を見ながら。


 さっきまで普通に乗っていた機体へ、初対面のような気遣いをしている。


 ようやく周囲を見る余裕が戻った。


 OS画面は赤かった。警告表示も赤。出力計も赤。


 さらに、あちこちで警告灯が点滅している。


「……なんなんだこれは……」


 どれから確認すればいいのか。


 少なくとも、喜ばしい状態ではない。


 ディートリヒは息を吐き、表示を順に追った。


「……とんでもない機能、つけてくれたな……」


 速い。


 それは分かった。


 ただし、曲がるにも戻るにも、今までの感覚が通じない。操縦特性を一から覚え直さなければ、まともに使えそうになかった。


 使うのか。


 これを。


『……よ……し……』


 通信のノイズが薄れた。


 聞こえてきたのは、聞き覚えのありすぎる上機嫌な声だった。


『よーし! 今日からブーストモード訓練じゃ!』


「何ですって!?」


 声が出た。


 息は、すっかり戻っていた。


『安全性を確認せねば、ほかの機体にも実装できんじゃろう!』

「その前に、今の機体がどうなっていたか見てました!?」

『見とったぞ! よく立て直した!』

「待ってください。今のを、もう一回やれと?」


『一回で何が分かる!』


『毎回使って、安全性を立証するんじゃ!』


 ディートリヒは口を閉じた。


 毎回。


 今、とても嫌な言葉が聞こえた。


 その安全性確認には、毎回、操縦席にいる自分も含まれている。


「俺が乗った状態で?」

『乗らずにどう操縦するんじゃ』

「そういう意味ではなく!」


 しかし、オットーはもう次の話をしていた。


『それより、人型状態は試したか!?』

「まだですよ。今、ようやく機体を落ち着かせたところで」

『なら次じゃ! 人型状態での機動試験!』


 ディートリヒの視線が、帰投先を示す表示へ向いた。


 今すぐ基地に帰りたい。


『それから戦闘機形態から人型状態への可変所要時間も計る! 人型状態でブレードも展開せい! あれも赤くなるはずじゃ! それから……』


 オットーの興奮は収まりそうにない。

 ディートリヒは、改めてコックピットを見回した。


 赤いOS。

 赤い出力計。

 点滅する赤い警告灯。


 後方の映像では、スラスターが赤い光を引いている。


 ここへ、剣まで加わるらしい。


「……真っ赤じゃないですか」


『ヴァルテンベルク軍にお似合いじゃ!』


 オットーは、満足げだった。


 ディートリヒは額を押さえた。


「機内表示まで赤で揃えなくていいんですよ」


 今日は2話更新します。

 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご照覧あれ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価(※星のエネルギー)と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 お嬢様への応援、皆さまからのご感想を感想欄にてお待ちしておりますわー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。