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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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3 スパイ逮捕

 ノイエルデ脱出RTA。


 走者、ユリウス・フォン・アイゼン。


 なお、まだ一度も惑星の外へ出ていない。


「こんな星、脱出してやる!」


 鞄へ着替えを押し込み、ユリウスは低く吐き捨てた。


 仮設宿舎の生活はプライバシーというものがない。


 毎夜、隣室から大きないびきが響く。


 壁を挟んだ反対側からは、あられもない嬌声。その向こうでは誰かが大笑いし、廊下を走る足音に、どこかの扉を乱暴に閉める音が重なる。


 薄い壁では全部伝わってくる。


「少しは遮れ……!」


 ノイエルデでは急速にインフラ整備が進んでいた。電気は通った。水道も来た。蛇口をひねれば水が出る。大いに結構。


 下水はまだだ。


 汲み取り式の便所へ向かうたび、ユリウスは故郷を思った。


 帰りたい。


 任務を果たして帰還したい。


 静かな部屋で眠りたい。


 最後の一つが、日に日に切実になっていた。


 集めた機密情報は記録媒体へ保存した。発見された場合に備え、ダミーも用意してある。


 本物を隠し、ダミーを忍ばせ、鞄を閉じる。


 船へ正面から乗り込むつもりはない。


 再び貨物に紛れる。


 人間として乗れないのなら、荷物として運ばれればいい。


 ユリウスは鞄を握りしめ、騒々しい宿舎を後にした。



 ─────



 潜り込んだコンテナの中は薄暗かった。


 扉を閉め、鞄を抱える。積まれた箱の隙間へ身体を収め、頭を低くした。


 このあたりの動作は、ずいぶん手慣れてきた。


 膝が当たらない位置もわかる。揺れた際、どこへ肩を預ければいいかも心得ている。


 ガコン。


 コンテナが持ち上がった。


 ユリウスは即座に踏ん張った。


 横揺れ。続いて、小さな縦揺れ。


 箱の角を避け、滑りかけた鞄を押さえる。前回はこれが顔へ飛んできた。今回は飛ばさない。


 前回の経験が生きていた。


 輸送中、誰にも発見されなかった。


 悲鳴も上げなかった。


 頭もぶつけていない。


 やがて振動が弱まり、コンテナが停止した。


 ユリウスはしばらく耳を澄ませた。


 人の声。機械の駆動音。


 慎重に立ち上がり、扉へ手をかける。


「……よし」


 ガラッ。


 ヘルメット。


 建築資材。


 建設機械。


 作業員。


 この流れ、既視感を覚える。


「お、新入りか!?」


「…………」


「ちょうど人手が足りなかったんだ」


「違う!」


 差し出されたヘルメットを、ユリウスは反射的に受け取った。


 作業員が満足そうにうなずく。


「よし、こっちだ!」


「違うと言っている!」



 ─────



 輸送先を間違えただけだ。


 ユリウスは、そう結論づけた。

 今回は無事に工事のボランティアからの逃走に成功した。


 潜入そのものは成功している。輸送中にも発見されなかった。以前より揺れにも対応できていた。


 問題は、扉を開けた先が二度目の工事現場だったこと。


 そこだけだ。


 ノイエルデの開拓が始まって、そろそろ五ヶ月。


 ヴァルテンベルク家公女エレオノーラの指揮のもと、あちこちで工事が進んでいる。道路も建物も日々増えていたが、何もかもが揃ったわけではない。


 宇宙船を浮遊状態のまま係留できる本格的な宇宙港は、いまだ建設中だった。


 惑星の外へ出るには、自力で離着陸できる船に乗る必要がある。


 領府の連絡船。企業の商船。貨物輸送船。


 狙うべきは、そうした船へ積み込まれる貨物だ。


 建築資材に紛れれば、工事現場へ行く。


「……当然だな」


 ユリウスは眉間を押さえた。


 当然だった。


 次は間違えない。



 ─────



 今度は慎重に選んだ。


 貨物の行き先を確かめ、運ばれる方向を見極める。目についた箱へ飛び込むような真似はしない。


 これだ。


 今度こそ、宇宙船へ運ばれる。


 ユリウスは周囲を確認し、コンテナへ滑り込んだ。


 バタン。


 扉を閉める。


 鞄を抱え、腰を落とす。


 もはや落ち着く姿勢だった。


 ガコン。


 輸送が始まった。


 ガタガタと床が揺れ、外で大きな機械が唸る。


 先ほどより音が重い。


 近くで何かが動くたび、コンテナの壁まで低く震えた。金属の軋む音。大型設備の稼働音。


 ユリウスの口元が緩んだ。


(今度こそ船だ)


 工事現場とは違う。


 こんな大掛かりな設備を使う場所なら、間違いない。


 鞄を抱える腕に力が入った。


 ようやく帰れる。


 機密情報を持ち帰り、任務を終え、風呂に入り、静かな部屋で眠るのだ。


 振動が止まった。


 ユリウスは顔を上げた。


 しばらく待つ。


 外から聞こえる足音が遠ざかったところで、そっと立ち上がった。


 扉へ手をかける。


 バタン。


 巨大な梁が見えた。


 高い天井を支える鉄骨。


 大型の整備設備。


 広い格納空間。


 そして、ずらりと並ぶ騎士機(キャヴァリエ)。


「…………」


 騎士機の足元にいたパイロットが顔を上げた。


 隣の整備兵も振り向いた。


 軍服姿の男が手を止めた。


 近くにいた騎士と、目が合った。


「何者だ!」


「密航者か!」


「間違えました!」


 バタン。


 ユリウスは扉を閉めた。


 しん……。


 鞄を胸へ抱き寄せる。


 ノイエルデでもかなりの機密エリアに入ったようだ。


 何も見なかった。


 見なかったので。


「出てこい!」


 扉が激しく叩かれた。


「開けろ!」


「…………」


 ユリウスは鞄を置き、両手で扉を押さえた。


 肩もつけた。


 足を踏ん張った。


 外で、声が低くなる。


「離れろ」


 ユリウスはさらに力を込めた。


 ここを開けられるわけにはいかない。


 今、開けられたら終わる。


 外側で騎士が腰のエーテルソードを抜いた。


 機構へ魔力を通すと刀身に青白い熱光が灯る。


 次の瞬間。


 ギャリギャリギャリッ!


「…………っ!」


 顔のすぐ横から、青白い刃が生えてきた。


 ユリウスは首を引っ込めた。


 鼻先を熱気がかすめる。


 刃はそのまま金属板を焼き切り、眩しい光の筋を引いて下へ走った。


「待っ……!」


 壁が裂ける。


 ユリウスは扉から飛び退き、鞄につまずいた。


 尻もちをついた目の前で、切り開かれた金属板が外へ引き剥がされる。


「動くな!」


 騎士たちが踏み込んできた。


 ユリウスは両手を上げた。


 逮捕。



 ─────



 身元の確認は取れた。


 学校教師、ユリウス・フォン・アイゼン。


 なぜ教師が貨物コンテナに潜んでいたのか。


 なぜ騎士機の並ぶ格納空間へ入り込んだのか。


 なぜ扉を閉めたのか。


 聞かれることは多かった。


 スパイの疑いについては別途確認するものとして、まず勤務先へ連絡が入った。


 その後、学校へ戻された頃には、ユリウスは歩くだけで精いっぱいになっていた。


 腕が重い。腰が痛い。


 目を閉じると、顔の横を走った青白い刃が見える。


 校長室の椅子に座らされ、ようやく息をついた。


 机の向こうでは、禿頭の校長が腕を組んでいた。


 深いため息。


「困りますよ、アイゼン先生」


「……はい」


「無断欠勤は」


「…………」


 ユリウスは顔を上げた。


 校長は厳しい顔をしていた。


「最近の若い人は、すぐ職務を放棄する」


「はい」


「ここは開拓地なんです。年齢や性別、人種や国籍にとらわれず、皆で力を合わせていかなければならない」


「はい……」


「一人が勝手なことをすれば、そのぶん誰かが困るんですよ。あなたが来なければ、授業はどうなるんですか」


「……申し訳ありません」


「謝ればいいという話ではなくてですね」


 ユリウスは膝の上で手を揃えた。


 校長は椅子へ深く座り直した。


「私の若い頃なんて、戦後で本当に大変だったんですよ」


 ユリウスの視線が、わずかに下がった。


「物資もありませんでしたしねえ……教師だって足りなくて……」


「はい……」


「教科書も人数分なくて……電気も昼から夕方は止まって……」


「はい……」


「それでも皆で工夫して、子供たちを教えたものです」


 校長は懐かしそうに目を細めた。


 ユリウスはうなずいた。


「そもそも開拓というのはですね」


 また話が戻ってきた。


 ユリウスは机の木目を見つめた。


 右端に、丸い節があった。


「私たち一人ひとりの努力が、この星の未来を作るんですよ」


「はい……」


「あなたも教師なら、子供たちの手本にならなくては」


「はい……」


「私の若い頃はね、お国のために……」


 また話がワープした。


 校長の若い頃へ。


 ユリウスは木目の節を見つめ続けた。


 もう、そこ以外を見る気力がなかった。


 校長の話には、まだ終わりがなかった。


「これだから最近の若い人はすぐ逃げ出す」


「…………」


「聞いてますか?」


「……はい」


「では、今言ったことをもう一度」


 校長が、深く息を吸った。


「いいですか。まず、ここは開拓地なんです」


 ユリウスの目から、最後の光が消えた。


 ノイエルデ脱出RTA。


 脱出記録、いまだ完走なし。



 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご照覧あれ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価(※星のエネルギー)と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 お嬢様への応援、皆さまからのご感想を感想欄にてお待ちしておりますわー!

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