21 許してクレーメンス
ノイエルデから実家へ強制送還されたクレーメンスは、帰宅早々、宙を飛んだ。
「この大馬鹿者が!」
絨毯の上へ転がる息子。ヴァルテンベルク家からの報告書を握りしめる父。
母が悲鳴を上げた。
「パパ! クレちゃま!」
「お前が甘やかすからこうなるんだ!」
「ママぁ!」
帰ってきて三言で、家族会議は大荒れだった。
「ヴァルテンベルク公爵令嬢に無礼を働き! 無断で島の領有権を主張し! 現地住民と騒ぎを起こしただと!」
「だ、だって、誰も住んでないと思って」
「住んでいただろうが! 報告書を読め! お前の事件だ!」
父が報告書を突きつける。
クレーメンスは床に座ったまま、じりじりと母のほうへ後退した。
「しかも、よりによって今だぞ! 寄親のファルケンラート公爵閣下は、まさにノイエルデへの進出を決められたところだ! そこへ寄子の息子が乗り込んで、島をよこせと騒いだだと!」
「よこせとは……僕の島だって」
「余計悪いわ!」
母の裾まで、あと少し。
「閣下のお顔に泥を塗ったんだぞ! 寄子を切られてもおかしくない!」
「……寄親をなくしたら、どうなるの?」
「学院で何を学んできたんだお前は!」
母の裾に届く前に、父が目の前へ来た。
「うちは地方都市二つ、百万人規模! ファルケンラート様は四百三十億! ヴァルテンベルク公爵家は五百五十億の頂点だ!」
クレーメンスは言葉を失った。
「ごっ……五百五十億」
「うちは……百万人」
「そうだ!」
「ヴァルテンベルクってファルケンラート様より大きいの?」
「そうだと言ってる!」
桁が違う。
一つ二つではない。
指で数えかけて、やめた。
「こっ、公爵家が大きいのは知ってるよ」
「知っていて島を取ったのか!」
「取れてないよ!」
「もういい!」
父の額に浮いた血管を見上げながら、クレーメンスの顔から、ようやく血の気が引いていく。
「もし寄子をクビになったら……?」
「後ろ盾を失った商会など、買収されて役員をすげ替えられる。従業員を全員切ることだって、向こうには簡単だ!」
「ぼ、僕んちは!?」
「…………」
父が黙った。
怒鳴られるより怖かった。
「パパ?」
襟首を掴まれ、ぐいっと引き起こされる。
「ヴァルテンベルク公爵家が直接動く必要すらない! 傘下の貴族と五百五十億を敵に回したら、身ぐるみを剥がされるくらいは覚悟しろ! 軍を向けられれば、争いにすらならん!」
クレーメンスは、父の手に掴まれた上着を見た。
これもなくなる。
家もなくなる。
商会も、お金も。
島を一つもらうつもりが、持っているものを全部なくす話になっていた。
「ぼ、僕、島はもう」
「当たり前だ!」
父は息子の襟首を掴んだまま、扉へ向き直った。
「来い! まずはファルケンラート様へ謝罪に行くぞ! そのあとヴァルテンベルク家にもだ!」
クレーメンスは必死に足を動かした。
父が止まる。
おかっぱ頭の金髪を見下ろす。
「その前に頭を丸めろ!」
「ママぁぁぁぁぁ!!」
後日。
議会でノイエルデの話題が出るたび、父はそっと肩を縮めるようになった。
息子は髪を失い、父は肩身を失った。
クレーメンスざまぁ回です。
名前の時点でこのタイトルがいつか来ることは決まっていました。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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