20 こういう時こそガチャですわ〜!
「二十億クレジット……」
金髪の縦ロールが机に突っ伏した。
初期資金十億クレジット。
追加資金、十億クレジット。
足せば二十億。立派な大金である。
それが、もう底をつきそうだった。
「わたくしに領主の才能などございませんの……しくしく」
机の上には請求書。
泣いても金額は変わらない。
税収は焼け石に水であった。
「お嬢様。開拓が進んでいるからこその支出でございます」
セバスティアンがイケボで慰める。
エレオノーラの心が潤う。
だが、イケボで財政は潤わない。
「でしたら、残高も少しは増えてくださっても……」
そのとき。
ピコン♪
端末に通知が届いた。
『ノイエルデ開拓補助金について』
エレオノーラの顔が、机から上がった。
件名を読む。
もう一度読む。
「補助金ですわ〜!」
仮設役所の執務室に、明るい声が響いた。
エレオノーラは端末を両手で持ち、届いた通知を見つめていた。
ノイエルデ開拓への正式支援。
何度読んでも、いい言葉だった。
「助かりますわ! これで、あちらの工事も、こちらの支払いも!」
机の上には請求書が並んでいる。
右を見れば燃料費。
左を見れば資材費。
正面には、まだ開いていないものがある。
そこへ補助金である。
「監査役を送り込まれたときは、どうなることかと思いましたけれど!」
エレオノーラは正式通知を開いた。
読み始めた。
笑顔が、少しずつ薄くなった。
「……交付前に、改めて監査?」
「はい」
傍らのセバスティアンが頷く。
「この間、いたしましたわよね?」
「いたしました」
「その監査に基づいて、支援が決まりましたのよね?」
「はい」
エレオノーラは通知を見た。
支援を決めるために監査した。
支援を受けるために、また監査する。
「監査を通ると、次の監査へ進めますの?」
セバスティアンは答える代わりに、次の項目を示した。
監査結果をもとに、皇太子エアハルトの指揮のもと、適切な交付額を決定する。
『適切な』。
『エアハルトの指揮』。
エレオノーラは真顔になった。
「…………」
文字を見比べる。
何度見ても、同じ文章の中に入っていた。
「セバスティアン」
「はい」
「この『適切な』、どなたにとって適切なんですの?」
「通知には、そこまで記載されておりません」
嫌な予感しかしなかった。
エレオノーラは画面を下へ送った。
補助金交付予定。
半年後。
「…………」
もう一度、上へ戻した。
下へ送った。
半年後。
「今すぐではないのですの!?」
端末を持つ手が震えた。
「半年! 半年後!?」
「予定では」
「今、予定にまで不安を足さないでくださる!?」
エレオノーラは机の上を指差した。
「こちらは今月! こちらは来月! こちらに至っては、早急にと書いてありますわ!」
請求書は、こちらの事情を待ってくれない。
上水道は中心部こそほぼ完成したが、下水道はまだほとんど手つかず。
燃料も通信網も行政施設も道路も、金を入れなければ増えない。
エレオノーラは椅子の背へ倒れ込んだ。
補助金は来る。
来るらしい。
それまで、自力で生き延びろというお知らせだった。
─────
「……そうですわ」
エレオノーラが身を起こした。
セバスティアンを見る。
「わたくしのドレスを売れば、多少は足しになるのではなくって!」
ある。
高いドレスなら、ある。
一着百万クレジット級。
前世の感覚なら、一千万円ほどである。
「何着か手放せば、まとまったお金になりますわよね!」
「お嬢様」
静かな声だった。
エレオノーラは口を閉じた。
「…………」
「もう嫌な予感しかしませんわ」
セバスティアンが、工事予算の資料を開いた。
机へ置く。
指先で、金額を示す。
「丸が最低二つ足りません」
エレオノーラは、数字の端から順番に目を滑らせた。
途中で、もう一度最初に戻った。
「……二つ」
小さな丸が二つ増えるだけで、ドレスが急に頼りなくなった。
「下水道工事の予算にすら……届きません」
「わかっておりましたわ」
扇を開いた。
顔を隠した。
上等なドレスを売っても、下水道にすらならない。
惑星経営は、服を何着か処分してどうにかなる規模ではなかった。
「……では、着ますわ」
「それがよろしいかと」
ドレスの用途が、無事に服へ戻った。
─────
エレオノーラは、扇の上から机を見た。
金が足りない。
人も足りない。
ふと、顔を上げる。
「そうですわ!」
セバスティアンが目を向けた。
「ガチャ!」
「お嬢様」
「こんな時にはガチャですわ!」
椅子から立ち上がった。
資金の問題は残っている。
しかし、人材不足も立派な問題だ。
即戦力が来れば仕事を任せられる。
仕事を任せられれば、こちらも別の仕事に手が回る。
何より、美形が来るかもしれない。
目に良い。健康に良い。
「有能な行政官! 頼れる財務の専門家! そして、お顔もよければなお結構!」
エレオノーラは扇を閉じた。
「面談を再開いたしましょう!」
セバスティアンが、別の通知を取り出した。
「その件ですが」
「……その前置き、今日はもう聞きたくありませんわ」
「皇太子殿下の指示によって、審査が厳格化されます」
「どうしてですのーーーー!!」
執務室の外で、誰かの足音が一瞬止まった。
また動き出した。
領主の叫びにも、職員たちは慣れつつあった。
「お金は半年後! 人材は審査! わたくしに何をしろと!?」
「開拓かと」
「存じておりますわ!」
エレオノーラは二通の通知を並べた。
婚約は破棄したのに、書類ではやたらと会う。
「あんの根性なしのへそ曲がり皇子! ハメましたわねーーー!」
「お嬢様、お言葉が」
「お言葉くらい自由にさせていただきたいですわ!」
扇で二通まとめて指す。
「どうして、この方のお名前があるだけで、こんなに仕事が進まなくなりますの!?」
「《ヴァルテンベルク》で一度、審査状況をご確認なさいますか」
エレオノーラが止まった。
「直接?」
「はい。現在の受け入れ状況も、併せてご覧いただけるかと」
数秒、考えた。
決めた。
「向かいますわ!」
通知を机へ置く。
「直接向かって審査しますわ!」
「では、手配いたします」
「こういう時こそガチャですわ!」
足取りが急に軽くなった。
─────
「基地に戻れだぁ?」
別の場所で、アクセル・ヴォルフが通信画面へ顔をしかめていた。
映っているのは、弟だった。
肩から上には影がかかり、顔は見えない。
「なんだよ。こっちだって遊んでるわけじゃねえぞ」
アクセルは手元の端末を指で弾いた。
「仕入れのネタとか、ずっと送ってるだろ。米とか小麦とかさぁ!」
人が増えれば、食い物が要る。
食い物が要れば、仕入れと輸送の仕事になる。
ノイエルデには、その仕事がいくらでもあった。
『その件じゃない』
アクセルは口を閉じた。
少し考える。
「……じゃ、何だよ」
『戦艦艦長資格の更新訓練。ずっとサボってるだろ』
「…………」
アクセルが止まった。
『戻って受けろ』
「いや、今ちょうど、こっちが忙しくてな」
『そう言って前も来なかった』
「実際、忙しいんだって」
『これは俺には代われないからな』
逃げ道を先に塞がれた。
アクセルは椅子へ深く座り直した。
仕事は部下へ振れる。
運営は弟と分担できる。
だが、本人が受ける訓練には、本人が行かなければならない。
融通の利かない仕組みだった。
『聞いてるか』
「聞いてるよ」
『なら戻れ』
アクセルは、心底嫌そうに顔をしかめた。
「…………チッ」
1クレジット10円です。
他にも魔法の原理とかそのうち出したいです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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