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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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16 それでも人材不足ですわ!

 惑星ノイエルデ、エレンシュタット(仮)。


 そこにある領府暫定役所──という名の、エレオノーラの執務室。


 もはやここが市役所なのか、領府役所なのか、それとも領主専用プレハブなのか、誰にもよくわからない。


「行政官が足りないよ」


 会計担当の老婆イルゼが言った。


「人手が足りませんね」


 皇太子エアハルトより遣わされた監査官ネーベルも続けた。


 最近はもっぱら監査というより、ありとあらゆる事務作業の補佐をしている。激務のあまり、視力の低下まで感じ始めていた。


 二人の視線の先にいるのは、弱冠十八歳の領主、エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルク。


 今日も今日とて、膨大な移民の入植申請、決裁、苦情対応、各所との調整に追われていた。


 エレオノーラは、机の上を見た。


 端末。書類。端末。書類。


 片づけると、次が来る。


 最近は、片づける前に来る。


「人口は増えておりますのに?」


「増えているからです」


 イルゼが端末を操作すると、ノイエルデの地図が表示された。


 集落を示す印が、あちこちに増えている。街区も増えている。道路も延びている。


 喜ばしい。


 喜ばしいのだが、その全部から問い合わせが来る。


「各街区や集落に、行政を取りまとめる責任者が必要です。市長に当たる人物ですね」


 ネーベルが続ける。


「現状では、現地で判断すべき案件まで、すべてこちらへ上がってきます」


「予算の確認も同じです。中央で一件ずつ見ていては、日が暮れます」


「暮れておりますわね」


「昨日も暮れたよ」


 イルゼの返事が重い。


 エレオノーラは、そっと執事セバスティアンを見上げた。


「代官や執政官が欲しいですわ」


「平民であれば、志望者はおります」


「でしたら、その方々を」


「ですが、行政経験がございません」


 開きかけた扇が止まった。


「……駄目ですの?」


「いきなり都市を一つお任せするには、難しいかと」


「小さめの都市でも?」


「規模の問題だけではございません」


 小さいところから試す案は、早々に却下された。


「まずは書記や役所の職員、補佐官として実務を学んでいただく必要がございます」


「その育成は進めるべきですね。ただ、教える側の人手も必要です」


 ネーベルが付け加える。


 人手が欲しい。


 人を育てれば増える。


 育てる人手が欲しい。


「ぐるぐるしておりますわ……」


 エレオノーラは扇を閉じた。


「今すぐ現地へ行って、よろしく頼みますわ、とお任せできる方はいらっしゃいませんの?」


「経験者となりますと、ほぼ貴族階級になります」


「…………」


 なるほど。


 土地を治める経験なら、土地を治めてきた人間に頼むのが早い。


「では、貴族を募集すればよろしいのでは?」


 名案だった。


 募集なら慣れている。


 面談も慣れている。


 セバスティアンは、穏やかに問い返した。


「お嬢様の下で働くことを希望する貴族が、現在どれほどおりますでしょうか」


「…………」


 エレオノーラは、これまでの面談を思い返した。


 移民。職人。商人。技術者。労働者。


 来た。


 いっぱい来た。


 船が渋滞するほど来た。


「……そういえば」


 エレオノーラは、ゆっくりと口を開いた。


「わたくし、平民ばかり面談しておりますわね?」


「はい」


 返事が早い。


 エレオノーラが招聘した専門家チームも全員平民である。


 名前の真ん中に「フォン」が入っていて、しかも都市を任せられる人材。


 その条件で面談の記憶を探すと、急に候補が見当たらなくなる。


 フォン持ちの金枠なら引いた。アルビオンからのスパイだったが。


 しかし金枠だからといって、市長経験がついてくるわけではない。


「貴族向けの募集が、届いておりませんの?」


「届いていないというより、応募に至っていないものと」


「つまり……わたくしの下で働きたい貴族、おりませんのね」


 口に出すと、思った以上に寂しかった。


 イルゼが書類へ目を落とす。


 ネーベルが書類へ目をむける。


 セバスティアンは、いつもの落ち着いた美声で続けた。


「商人であれば商機を、移民であれば土地や仕事を求めて参ります。しかし貴族が代官として仕えるとなれば、お嬢様へ臣従するという意思表示になります」


「お仕事の応募ですのに」


「家として、どなたにつくかという話でございます」


 派手に婚約破棄され、中央から追放された十八歳の令嬢。


 赴任先は、辺境の元流刑地。


 開拓は進んでいる。商売も回り始めた。


 ただし、まだ半年も経ってない。


 履歴書を送る側からすると、なかなか思い切りが必要だった。


「では、寄子貴族からは? お父様のところにはいらっしゃいますでしょう?」


「まだ連絡はございません」


「どうしてですのーーー!?」


 実家のつながりまで、待機中だった。


「やはり、様子見かと」


「企業はあんなに来ていますわよ!?」


「企業は利益が出なければ撤退できますので」


「…………」


 儲かりそうだから来ました。


 儲からないので帰ります。


 商売なら、それで済む。


 臣従しておきながら、思っていた職場と違いました、と帰るのは難しい。


「それに、地方領主ではなく、惑星ひとつを丸ごと領有する領主が十八歳というのは、前代未聞でございます」


「…………」


 エレオノーラは自分を指さした。


 セバスティアンがうなずいた。


 指を下ろした。


 それから、机に額をつけた。


「お嬢様。書類が」


「今だけ下敷きになっていてくださいまし……」


 足りないのは行政官。


 集まらない理由は領主。


 募集要項のいちばん上(自分)で、引っかかっていた。


「親御様に不幸があり、未成年で一地方を相続した例なら、過去にもございますが」


 机に伏せたまま、エレオノーラはくぐもった声を返した。


「慰めになっておりませんわ……」



 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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