14 後始末ですわ
後始末回なので飛ばしても大丈夫です。
「無許可着陸、無断占有、到着直後の領有宣言、現地生物への干渉、危険生物の営巣地破壊。それに、救援中の猟銃発砲」
法務担当が読み上げた。
会議室の隅で、クレーメンスが縮こまる。
エレオノーラは扇を閉じた。
「多いですわね」
「はい。滞在時間は短かったはずですが」
「大変、精力的に活動されたようで」
法務担当は領法と報告書を並べた。
「ここまでは、既存の領法で処理できます」
「では、処分を」
「問題は、その『現地生物』です」
「はい?」
法務担当が顔を上げる。
エレオノーラは、閉じたばかりの扇を開いた。
少し暑くなってきた。
─────
生物学者と文化学者が呼ばれた。
[生物学者が参加しました]
[文化学者が参加しました]
クレーメンス一人の処分に、会議室が足りなくなっていく。
「現地で確認された爬虫類型の住民です」
生物学者が映像を表示した。
鱗に覆われた体。道具。集団行動。互いに顔を向け、何かを伝え合う姿。
「儀礼らしき行動と言語体系も確認されています」
文化学者が続けた。
「つまり?」
「文明です」
静まり返った。
エレオノーラは扇を動かした。
「……私は監査役なんですが」
ネーベルが呟く。
「存じておりますわ。でもご自身でついてきたでしょう」
「はい」
職員が、彼の前へ新しい資料を置いた。
「帝国から開拓領として払い下げられた土地に、既存の知的種族が居住していた場合の権利関係を確認する必要がございます」
法務担当が額を押さえる。
「土地の所有や利用という概念があるのか。帝国法上どう扱うのか。こちらの領法を適用できるのか」
文化学者が画面の中で手を挙げた。
「言語と社会構造の調査も必要です」
生物学者も続く。
「居住範囲も不明です。あの島だけとは限りません」
最後に、法務担当が小さく付け加えた。
「百年居住による私有化を、先住者の土地へ適用してよいのかも……」
議題が増えた。
エレオノーラは最初の報告書へ目を戻す。
そしてクレーメンスに目をやる。
「わたくしたち、この方の処分を決めていたのではなくて?」
「その予定でした」
法務担当の声には、疲労がにじんでいた。
そこへ担当者が端末を持って駆け込んでくる。
「お嬢様、現地から追加報告です」
「今度はなんですの」
「例の住民が、供物を持ってきています」
「供物?」
画面が切り替わった。
騎士機の足元に、黄色い果物が積まれている。尖った葉までついていて、見た目はパイナップルに近い。
住民たちは果物を積み上げ、そろって騎士機へ伏せた。
「……何をなさっておりますの?」
「騎士機を神聖な存在と認識している可能性が」
「ディートリヒが神になりましたの」
救援に行かせたはずが、帰るまでに出世していた。
「服従や謝意の可能性もあります」
文化学者が慎重に補足する。
「では、お礼の果物?」
「その可能性も」
「よかったですわ。神の勤務規定など、うちにはございませんもの」
担当者が言いにくそうに続けた。
「お嬢様にも捧げているようです」
「わたくしもですの!?」
別の映像が表示された。
島で、住民がエレオノーラへ果物を差し出している。
「こちらもご覧ください」
映像が少し巻き戻る。
画面の中のエレオノーラが、胸を張って叫んだ。
『成層圏の空気から惑星中心核に至るまで、わたくしのものですわーーー!!!』
翻訳機は忠実に仕事をした。
住民たちが伏せる。
会議室の視線が、本人へ集まった。
「……領主として認識された、とは限りません」
文化学者が言った。
「では?」
「宗教的存在として認識された可能性が」
「なんでですの!?」
「空から地の底まで、すべて自分のものだと宣言されましたので」
エレオノーラは画面を見た。
「監査対象が増えましたね。宗教まで」
ネーベルが資料をめくる。
「まだ疑惑ですわ!」
その隅で、クレーメンスがおずおずと手を上げた。
「ところで僕の島は?」
「「「「あなたは黙っていてください」」」」
全員の声がそろった。
─────
「それから、現地で確認された翼竜ですが」
生物学者が、さらに資料を提示した。
「我々の知る翼竜や竜種より、一・二五倍から二倍ほど大型です」
「二倍?」
エレオノーラは島で見た巨体を思い出した。
あれで標準より大きいのか。
「ノイエルデ全体の調査は、まだほとんど進んでおりません」
机の上に惑星のホログラムが浮かぶ。
青い海。広い大陸。白い雲。
「現在の居住域と開拓範囲はこちらです」
小さな印が一つ、ついた。
「……以上ですの?」
「はい」
エレオノーラは身を乗り出した。
小さい。ホログラムの汚れかと思うほど小さい。
「我々は、この惑星の一地点にしか居住しておりません」
生物学者が指で示す。
指先で隠れた。
「ああっ、お隠しにならないで! わたくしの開拓地!」
指が離れる。
やはり小さい。
船が並び、家が建ち、道路が延び、書類が増えた。あれほど忙しかったのに、全部ここだった。
「……つまり、まだ何かいると?」
「ありえます」
何が、とは誰も聞かなかった。
「未調査の南部森林部には、さらに大型の竜種がいる可能性もあります」
「さらに?」
「可能性です」
「二倍で終わりではございませんの?」
「二倍が上限だとは分かっていません」
エレオノーラは椅子へ沈んだ。
惑星が、くるくる回る。
「……わたくし、まだこんな小さな点しか開拓してませんの?」
「はい」
「点で、こんなに忙しいんですの……?」
─────
クレーメンスが、今度こそ慎重に手を上げた。
「じゃあ、正式に申請すれば……百年住んだら、あの島は僕のものになるんだよね?」
エレオノーラは彼を見た。
この男まだ諦めていなかった。
「認められた土地に百年居住すれば、領内で永久所有できる制度ですわ。好きな島へ勝手に住めばよいわけではございません」
「安全性が確認されるまで、立ち入り制限も検討すべきです」
専門家たちが一斉に続けた。
リゾートホテルどころか、島へ入ってよいかも怪しい。
「でも、百年住めば……」
「百年生き延びられれば、の話ですわね」
エレオノーラは翼竜の資料を見た。
巨大な翼竜。さらにいるかもしれない、もっと大きな竜。
ほぼ未調査の森林。
(これは高難易度コンテンツではなくて?)
(わたくし初心者でしてよ?)
(もしかしてこれ、マイクラより難しいのではなくて?)
クレーメンスも資料を見て、ようやく黙った。
その隙に、法務担当が処分書を差し出す。
確認できた違反行為に基づく処分。実家への送還。先住住民に関する問題は継続調査。
「再び入植を希望するのでしたら、正式な申請と審査を受けていただきますわ」
エレオノーラは、ぴしゃりと言った。
「次からは、島に旗を立てる前に書類をお出しなさいませ!」
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