13 おもしれー女いただきましたわ!
「落ち着いてください! 我々は敵ではありません!」
職員が魔導翻訳機へ叫ぶ。
翻訳機が何かを喋る。
住民たちが喋り返す。
「シュルシュル」「ギャアギャア」「シャア」
『戦の神』
『大いなる翼』
『空を歩く』
「ええと、避難を……こちらへ!」
上空で爆音が響いた。
巨大な騎士機が翼を広げ、人間がその隣を飛んでいる。
その周囲へ、さらに何十もの姿が現れては消えた。
魔法の光が、赤い巨体を照らす。
住民たちは空を見つめた。
「皆様、そちらは危ないですから」
職員が声をかける。
一人が膝をついた。
隣もついた。
次々と、砂浜へ平伏していく。
「……あれ?」
職員が翻訳機を見た。
ネーベルは魔法を維持したまま、ちらりと横を見る。
「何か誤解されてませんか?」
「立っていただかないと、避難できませんわ!」
エレオノーラが手を差し伸べる。
目の前の住民は、さらに頭を低くした。
「低くなる方ではなく!」
「なあ、まだ俺の出番ない?」
「ヴォルフ様は、その方々を船の陰へ!」
「はいはい」
アクセルが動き出したところで、クレーメンスが口を開いた。
「僕の」
「あなたもですわ!」
─────
ワイバーンの翼が、大きく空を打った。
だが、先ほどまでの勢いはない。
追っても追っても相手が消え、そのたび違う方向から攻撃される。
首を振り、苛立たしげに吠えた。
ネーベルが、その動きを見上げる。
「進路を空けます。島の奥へ誘導できますか」
『了解』
『承知しました』
ディートリヒとセバスティアンが左右へ分かれた。
空中の幻影が、ひとつの大きな群れとなって動く。
ワイバーンがそちらを追いかけた。
地上には、別の景色がかぶさっていく。
船も、人も、建設途中の柱も。
ひと続きの岩場と木々に隠れた。
クレーメンスが声を上げかけ、老執事に袖を引かれた。
今度は黙った。
上空の二人がワイバーンの向きを調整する。
やがて巨体は浜辺を離れ、荒らされた巣のある方へと飛び去っていった。
羽ばたきが遠ざかる。
ネーベルが腕を下ろした。
「……私は監査役なんですが」
その隣で、職員が翻訳機を持ち直す。
住民の一人が、遠ざかる赤い翼を指差した。
『あれは、昔から島にいる』
指が動く。
『手を出したのは、あいつ』
全員が、クレーメンスを見た。
「……」
クレーメンスは老執事を見た。
老執事は目を閉じた。
─────
ディートリヒが戻り、セバスティアンがエレオノーラの傍らへ降り立った。
エレオノーラは扇を閉じる。
「それで。あなた、無断でわたくしの領地に入り、勝手に島を占有し、現地住民と揉め、ワイバーンの巣まで荒らした、と?」
クレーメンスは視線を泳がせた。
「……簡潔に言えば」
「簡潔に言わなくても同じですわ!」
扇の先で、砂浜に散らかった建材を指す。
「これの、どこが救難だけで済む話なんですの!」
「……だが! ここを開拓したのは僕だ!」
クレーメンスは胸を張り直した。
「そして、連絡は後からでもいい! つまり、ここは僕の島だー!」
エレオノーラの扇が、ぴたりと止まる。
「さっきから聞いていれば。あなた、本来であれば、わたくしに話しかけることすら許されない身分なんですのよ!」
クレーメンスが口をつぐんだ。
エレオノーラはひとつ息を吐く。
「とにかく、あなたには出頭していただきますわ」
「待て! この島の所有権は!?」
エレオノーラは周囲を見た。
こちらをうかがうトカゲ型現地住民。
ワイバーンが去った空。
散乱する荷物。
そして、目の前の子爵令息。
すう、と息を吸う。
「この惑星はー!」
クレーメンスが肩をすくめた。
「成層圏の空気からー!!」
エレオノーラは、扇で足元を指した。
「惑星中心核に至るまで、わたくしのものですわーーー!!!」
「中心核まで!?」
「領主権の説明としては、豪快すぎませんか」
ネーベルの隣で、アクセルが腹を抱えた。酸欠に至りそうである。
そして、魔導翻訳機が働いた。
律儀に。
最後まで。
「あっ」
職員が停止ボタンへ手を伸ばす。
遅かった。
「オオーー」
住民たちが、一斉に地面へ伏せた。
先ほどよりも、深く。
エレオノーラに恭順の意を示した。
「ほら! 絶対何か誤解されましたよ!」
「わたくし、何もしてませんわよ!?」
アクセルは、もうまともに立っていられなかった。
「ははっ……おもしれー女!」
エレオノーラが振り向いた。
「……!」
目が輝く。
「初めてリアルで、おもしれー女いただきましたわ!」
「お嬢様、喜ぶところではございません」
セバスティアンの声に、アクセルがさらに笑い崩れた。
シルバーウィークなので2話投稿しました。
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