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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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12 南の島の大混乱

「お嬢様は?」


 イルゼが仮設役所の執務室へ踏み込んだ。


 書類を抱えた職員が、びくりと肩を跳ねさせる。


「緊急事態でして、出動なされました」

「じゃ、ネーベル監査官は!?」

「同行しております」


 イルゼの目が細くなった。


「ネーベル監査官……さぼったわね!」


 職員は抱えた書類を、少しだけ胸元へ引き寄せた。


「あとで承知しないよ!」

「い、いえ、本当に緊急事態でして」


「緊急事態と監査役は関係ないでしょう」


 職員は口を開き、閉じた。


「……そう言われてみたら?」

「でしょう!?」



 ─────



「……なぜ、私までいるんでしょう」


 救難へ向かう飛行船内で、アドリアン・ネーベルは膝の上の手を見つめていた。

 

 窓の外には海が広がっている。


「そう言われてみれば?」


 斜め向かいに座るエレオノーラが首を傾げた。


 セバスティアンも、静かに視線を向ける。


「まだ監査する書類が山積みでしたよね」


「……」


 ネーベルは咳払いをした。


 アクセルがくっくっと笑った。


「帰ったら大変そうだな」


「現地調査も監査の一環です」


「さっき、なんでいるんだって言ってなかったか?」


「現地調査も監査の一環です」


 二度目は、少しはっきり言った。



 ─────



 島は、上空から見ても散らかっていた。


 砂浜には中型船。

 その周りに、箱、家具、建材。


 建設途中らしき柱に、日除けの布だけが吊られている。


 その下で、金髪の青年が何かを怒鳴っていた。


 向かいには、二足歩行のトカゲに似た住民たち。

 こちらも負けずに怒鳴っている。


 戦闘機形態の騎士機(キャヴァリエ)を着陸させ、ディートリヒは操縦席から降りた。


「救難信号を確認した! 負傷者は!」


「おお! ようやく迎えが来たか!」


 クレーメンスが駆け寄ってきた。


「まず僕を帝都へ送ってもらおう!」

「負傷者は?」

「それと荷物だ。そこのソファは高かったんだぞ」


 住民の一人が、クレーメンスを指差した。


 ギャアギャアと、鋭い声が飛ぶ。

 言葉は分からない。


 ただし、ものすごく怒っているのは分かった。


「……何をしたんです?」

「見れば分かるだろう! 早くあいつらを焼き払え!」


 ディートリヒは、クレーメンスを見た。


 住民たちを見た。


 もう一度、クレーメンスを見た。


「まず、どうしてこうなったのか」

「私が説明いたします」


 老執事が、疲れきった顔で進み出た。



 ─────



 エレオノーラが砂浜へ降り立つと、クレーメンスはぱっと顔を明るくした。


「君が新しい領主か!」

「エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルクですわ」

「ちょうどいい。この島を僕に譲れ!」


 エレオノーラのブーツが、砂の上で止まった。


「救難希望された方が、なぜ土地交渉を始めてますの?」


 老執事が深々と頭を下げた。

 なかなか上がってこなかった。


 同行した職員たちが、魔導翻訳機を持ち出す。


「まず、お話を順番に」


 その声へ、大きな影がかぶさった。


 エレオノーラは顔を上げた。


 入道雲の向こうから、赤い翼が現れる。

 広い。巨大だ。


 それが羽ばたくたび、砂浜へ風が叩きつけられた。


 住民たちが、一斉に騒ぎ出す。


「あいつだ!」


 クレーメンスが空を指差した。


「あいつが僕の開拓を邪魔するんだ!」


 エレオノーラは、翼の持ち主とクレーメンスを交互に見た。


「あなた、何をしましたの?」

「巣が邪魔だったので撤去を」


 全員が黙った。


 風にあおられ、日除けの布がばたばたと鳴った。


「バカですの?」


 今度は、セバスティアンも止めなかった。


 翻訳機から、途切れ途切れの声が流れる。


『空と……炎……翼の神……怒らせた』

『出ていけ。この島から』

『こいつを、連れて帰れ』


 ディートリヒは老執事へ向き直った。


「説明は、あとで伺います!」


 騎士機へ駆け戻る。


 エレオノーラは空を見上げたまま、目を細めた。


「あれはリオレウ……」

「赤色のワイバーンです、お嬢様」

「……そうでしたわね!」


 セバスティアンが手袋を整えた。

 次の瞬間には、砂を蹴って空へ上がっている。


 護衛たちはエレオノーラの周りに展開した。


『住民を避難させてください!』


 ディートリヒから通信が入る。


「わかりましたわ!」


 エレオノーラは職員たちへ振り向いた。


「皆様を船の陰へ! 荷物は後ですわ!」

「僕のソファは!?」

「後ですわ!」


 ─────


 赤色ワイバーンが口を開いた。


 炎が噴き出す。


 ディートリヒ機が急上昇し、セバスティアンたちが左右へ散った。直後、炎が空を横切った。


 熱風が砂浜まで届く。

 護衛騎士たちが魔力で防御盾を構築する。


 エレオノーラは思わず顔を扇でかばった。


「大きいだけではありませんのね!?」


 ワイバーンが翼を振る。

 騎士機がその一撃をかわし、懐へ飛び込んだ。


「いいねぇ!」


 アクセルの目が輝いた。


「俺も混ぜてくれよ!」


『ヴォルフ様は飛べないのでは』


 通信越しにセバスティアンの声がした。


「船なら飛べる。呼んでいいか?」

「ダメですわ!」

「まだ何もしてねぇよ」

「絶対に主砲撃つって顔してましたわ!」


「バレてやんの」


 アクセルは口元を指でなぞった。

 笑みは引っ込まなかった。


 エレオノーラは、隣へ向き直る。


「ネーベル!」

「嫌な予感がしますね」

「飛んで援護してくださいませ!」


「魔法使いだから全員飛べるわけではありません!」


 エレオノーラが目を丸くする。


「あら……でも、ディートリヒは生身でも飛んだり戦えると伺ってますわ」

「あれは魔力も身体能力もエリートクラスの、魔人とか超人です!」

「そんなに!?」

「はい」


 二人で空を見た。

 黒い燕尾服の執事も空中で戦っている。


「執事にもできますわよ?」


 エレオノーラは首を傾げた。


「一般魔法使いと執事を比較しないでください!!」



 ─────



 コックピットの中で、ディートリヒは歯を食いしばっていた。


 全身が汗ばんでいる。


 拡張感覚が繋がっているせいで、ワイバーンの爪が掠めるたび、まるで自分の肌をなぞられたような悪寒が走った。


 息が浅い。


 操縦桿を握る手に、力がこもりすぎている。


 それでも、止められなかった。


 視界の端に、砂浜のエレオノーラが映る。


(ここで退くわけには……!)


 ワイバーンの尾が振られる。


 紙一重で躱す。


 機体の外側で起きていることのはずなのに、心臓は自分の胸の中で、ばくばくと痛いくらいに鳴っていた。



 ─────



「ディートリヒ!頑張ってー!」


 閉じた扇をブンブンと振った。


 騎士機がワイバーンの爪を受け流し、剣を叩き込んでいた。


 ワイバーンも負けじと噛みついた。


「巨大すぎます」


 ネーベルが青ざめる。


 ワイバーンは翼を広げただけでも数十メートルはある。


「……そう言われると、確かに普通の大きさではありませんわね」


 アクセルがネーベルの肩へ手を置いた。


「なあ、俺を飛ばしてくれよ」


「嫌です」

「即答かよ」


 ネーベルはこめかみを押さえた。

 すでに現地に来たことを後悔していた。


「飛べませんが、できることはあります」


 彼が片手を上げた。


 空に、もう一機のディートリヒの騎士機が現れた。


 続いて、セバスティアンが二人。

 追加で四人。

 さらにその後ろへ、騎士機が広がっていく。


「まあ!」


 ワイバーンの首が右へ向いた。


 左からも騎士機が迫る。


 噛みついた。

 歯は空を切った。


 本物のディートリヒ機は、その脇を抜けていた。


「さすが配布SSR!」

「何の話です?」


 アドリアンが指先を動かす。


 偽の部隊が一斉に降下した。

 ワイバーンが翼を持ち上げ、そちらを迎え撃つ。


 がら空きになった側面へ、本物の攻撃が入った。


「やっぱり攻撃も上がりますわ!」

「ですから、何の話なんです?」


 ワイバーンが身をよじる。

 その視線を、次の幻影がさらっていった。


 エレオノーラは扇を握り締めた。


 やはりネーベルは配布として、あまりにもお得だった。


「僕の島を荒らすなぁ!」


 銃声がした。


 全員の顔が、音のした方へ向いた。


 クレーメンスが猟銃を構えていた。


 赤色ワイバーンの目が、地上を捉える。

 大きく息を吸い込んだ。


「「「お前は黙ってろ!」」」


 地上と通信から、声が重なった。


「な、なぜ僕が怒られる!?」


 ディートリヒ機が急旋回する。

 セバスティアンたちが魔法を放ち、ワイバーンの顔をそらした。


 炎が海面をなめ、白い蒸気が噴き上がった。


 クレーメンスの銃を、老執事が無言で取り上げた。



 騎士機ことキャヴァリエは概念的にはゴーレムとか鎧なので痛覚はありません。


 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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