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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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11 不法占拠ですわよ!?

 突き抜ける青空に、もくもくと育つ入道雲。


 白い砂浜へ、透き通った波が寄せては返す。


 椰子の木が鬱蒼と茂る南の島。

 その向こうには、透明度の高いエメラルドグリーンの海が広がっていた。


「ふふ。気に入った、気に入ったぞ!」


 その絶景を前に、金髪の青年が胸を張った。


 カッパのように切り揃えた髪。誇らしげに突き出た前歯。


 クレーメンス・フォン・ノイマン子爵令息である。


「ここを僕の島とする!」


 到着して、まだ五分だった。


「ぼっちゃま。初期審査だけでもお受けになりませんと……」


 高級中型船から追いかけてきた老執事が、端末を差し出した。


「ふん、後から連絡でも問題ないとあるではないか!」


「こちらには『先行して着陸した方は、お近くの公務員にご連絡ください』と」

「ならば、そのとおりにすればよい!」


 老執事は辺りを見回した。


 海。

 砂浜。

 鬱蒼とした森。


 お近くの公務員に連絡がつきそうにない。


 救難信号であれば、届くかもしれないが。


「ウオォー! 僕の島ダァー!」


 クレーメンスが両腕を突き上げた。


 エレオノーラの星である。


「ここに水上コテージだ! 日除けのカーテンを吊って、耐水クッションとソファを置く!」


「ぼっちゃま」

「あそこには僕の本拠コテージ。この辺りはビーチバーだな」

「ぼっちゃま」

「ホテルもいいなぁ。ここに誘致しよう!」


 指を差すたび、彼の目には夢の建物が見えていた。


「ぼっちゃま」

「なんだ」

「まずは伐採の必要がございます。せめて、その前に周囲の安全を確かめませんと」

「チッ、めんどくさいなぁ」


 彼らから、はるか後方。


 ガサガサ。


 茂みが動いた。


 ─────


 執務室隣の控えの間。


「詩吟ですか」

「はい」


 ディートリヒは、目の前に置かれた教本を見た。


 食事作法やら立ち方やら、覚えることは山ほどあった。


 今日は詩である。


「俺には……」

「上流階級では、比喩や詩に愛の言葉や求婚の意思を託すことがございます」


 セバスティアンがページを開く。


「そして時には、暗号として用いられることも」

「暗号ですか」

「お嬢様のおそばに立つなら、知っておくべきでしょう」

「はい」


 それならば仕方がない。


 ディートリヒが背筋を伸ばすと、横から声がした。


「詩吟ねぇ」


 隣の席で、アクセルが茶を飲んでいた。


「なんでヴォルフ氏までいるんですか」

「姫さん、いま本船と会議中でさ。俺も暇で」

「俺の勉強を見ていても、暇でしょう」

「いや?」


 アクセルは楽しそうだった。


「なお、女性側からは返歌を贈る文化があり、その内容によって相手への態度を図ることができます」


 セバスティアンが続ける。


 ディートリヒは慌ててノートへ向き直った。


「はい」

「大変だねぇ」


「では、例題です」


 セバスティアンが教本の一節を示した。


「もしお嬢様から、『月が綺麗ですね』に類する詩を贈られた場合、どう返しますか」


 ディートリヒは眉を寄せた。


 お嬢様から。

 月についての詩。


「……警戒します」

「なぜです」

「暗号の可能性が」

「恋文です」


 横で、茶器がかちゃりと鳴った。


 アクセルが口元を押さえている。


「軍人すぎんだろ」

「先ほど、暗号にも使われると仰ったではありませんか」

「その可能性だけを覚えないでください」


「では、どう覚えれば」

「詩全体と、相手との関係をお考えください」

「……はい」


 教本を見直す。


 月の下には、花についての詩があった。


 こちらも何か暗号を警戒すべきなのだろうか。


「では、実際に作っていただきましょう」

「作る?」

「想いを寄せる女性へ、一首」

「い、今ここでですか!?」

「姫さん宛て?」


 ディートリヒはアクセルへ振り向いた。


「違います!」


「私は何も申し上げておりませんが」


 今度はセバスティアンへ振り向いた。


 二人とも、こちらを見ている。


 ディートリヒは、ゆっくり正面へ戻った。


「……例題ですよね」

「はい。どなたを思い浮かべていただいても」

「分かりやすいな」

「少し静かにしていただけますか!」


 白紙にペン先を置く。


 点ができた。


 点から先へ、まるで進まない。


 そのとき、ディートリヒの通信端末が鳴った。


「通信です!」


 ディートリヒが顔を上げた。


 反応が早かった。


 連絡はオットーからだった。


『改良型の試作機を届けにきたぞ! 乗りに来んか!』


「すぐ参ります!」


 今度は返事が早かった。


 ペンに蓋をして、ノートを閉じる。


 アクセルがにやにやと見送った。


「命拾いしたなぁ」

「何の話ですか」

「ディートリヒ様」


 立ち上がったところで、セバスティアンに呼び止められた。


「続きは、戻られてから」

「……はい」


 恋文は、宿題になった。


 ─────


 輸送機で搬入された愛機を前に、ディートリヒはようやく息をついた。


 こちらなら、何をすればいいか分かる。


 パイロットスーツに着替え、操縦席へ乗り込んだ。


 ノイエルデには、他の空騎士たちも順次配備される。


 哨戒。

 移民船や輸送船の監視。

 救難信号を拾い、事故や災害があれば駆けつける。


 人は足りない。

 星は広い。


 飛べる者には、飛んでもらうほかなかった。


「電源投入。表示、正常」


 見慣れた画面が立ち上がる。

 OSは変わっていない。


 ディートリヒは操縦桿を握り、魔力を通した。


「……お?」


 拡張感覚が、一気につながった。


 明らかに事故前より速い。


 機体の指先。

 足元の接地。

 翼の開き具合。


 確かめようと意識を向ける前に、もう分かる。


 ゆっくりと機体の手を開く。


 自分の手を開いたようだった。


「すごい……自分の体のようだ」

『そうじゃろ、そうじゃろ!』

『せっかく魔導炉を改良したんじゃから、それを伝える魔力網も構築し直したぞい!』


 通信越しのオットーは、声だけでも胸を張っていると分かった。


 機体を浮かせる。


 慎重に高度を上げ、進路を変えた。


 ついてくる。


 思ったとおりに、ぴたりと。


「これも順次配備で?」

『うむ! そのための試作品じゃ!』

「これは、かなり使いやすいです」

『よしよし。無事、爆発せぬよう……』

「ば、爆発!?」


 ディートリヒは操縦桿を握り直した。


「今、何と?」

『安全性の確認も兼ねとるということじゃ。試作機じゃからな』

「飛ばす前に言っていただけますか!?」


 計器を見る。


 正常。


 別の表示を見る。


 正常。


 全部正常なのに、気持ちだけが異常事態である。


 そこへ、電子音が鳴った。


「っ!」


 反射的に表示を確認する。


 機体の異常ではない。


 救難信号だった。


 はるか南方、島嶼(とうしょ)部方面から発信されている。


 ディートリヒは顔を引き締めた。


「救難信号を捕捉。管制、受信していますか」


 座標を確認し、戦闘機形態へ移行する。


 機首を南へ向けた。


「これより現地へ向かいます」


 ─────


 執務室。


「緊急通信です!」


 会談を終えたエレオノーラのもとへ、地上管制から連絡が入った。


「まあ!」


 セバスティアンが端末を確認する。


 アクセルも、壁に寄りかかっていた姿勢を正した。


「南方島嶼(とうしょ)部で救難信号を受信。バウアー機も捕捉し、現地へ向かっております」

「まあ、さすがディートリヒですわ」


「それで、何がありましたの?」


 貴族所有の中型船が、島から離陸できないという。


 燃料が足りず、物資も不足しているらしい。


 さらに、現地住民と揉めている。


 エレオノーラは眉間へ指を当てた。


「……ちなみに、どなたですの?」

「クレーメンス・フォン・ノイマン子爵令息を名乗っております」


 あまり聞き覚えはない。


 少なくとも、ヴァルテンベルクの寄子貴族ではない。

 下位貴族であれば、無所属派だろうか。


「何をしてますの、その方」

「島を自領だと主張しております」


 指が止まった。


「わたくしの領地で?」

「はい」


 セバスティアンが答えた。


 エレオノーラは少し考えた。


 考えても、感想は変わらなかった。


「バカですの?」


「お嬢様、お言葉が」

「では、どう申し上げれば?」

「……まずは状況の確認を」


 言い換えは出てこなかった。


 ネーベルが横から口を挟む。


「しかし、現地住民とは?」


 エレオノーラは顔を上げた。


「……そうですわね?」


 燃料不足。

 物資不足。

 人の島で領有宣言。


 手前の情報が邪魔すぎて、聞き流しかけていた。


「初耳でしてよ」

「初遭遇です」


 セバスティアンが端末の情報を確かめながら答えた。


 エレオノーラは頭を抱えた。


 自分の惑星に、知的種族がいた。


 第一報を持ってきたのは、調査隊ではない。


 勝手に降りて、勝手に占有した子爵令息が、現地住民とトラブルを起こした。


「現時点の情報では、原始的な文明を持つ、爬虫類型の二足歩行種とのことです」

「その方々と、揉めておりますのね?」

「そのようです」


 エレオノーラは、ゆっくりと顔を上げた。


 セバスティアンを見る。

 アクセルを見る。

 ネーベルを見る。


 誰も、ただの燃料配達で済むとは言ってくれなかった。


「つまり、わたくしが向かう事態、と」


 シルバーウィークなので2話投稿しました。


 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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