↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/83

10 アンナSide 救星の乙女

 ノイエルデで移民船が渋滞し、エレオノーラがまだ海賊と基地をガチャで引いていた頃。


 星乙女アンナは、ひとつの星を救おうとしていた。


 ホーエンフェルス公爵領。

 帝国三大公家の一角が治める、巨大な勢力圏である。


 支配下の惑星数こそヴァルテンベルク家にやや及ばないものの、多数の宇宙コロニー、人工居住区、資源拠点を所持している。


 その中核たる主惑星ホーエンフェルスは、十九年間、まともに恒星の光を浴びていなかった。


 ─────


 船の扉が開いた途端、頬を刺すような冷気が吹き込んだ。


 アンナは小さく肩をすくめ、マントの前を押さえた。


 白い。

 どこまでも、白い。


 降り積もった雪の上に、暗い空が重く垂れ込めている。昼のはずなのに、夕暮れよりも光が乏しい。


「足元に気をつけて」


 差し出された手を、アンナは見上げた。


 アルブレヒトが待っていた。

 その声は優しかったが、故郷へ戻った喜びは、表情のどこにも見当たらなかった。


「……ずっと、こんな空なの?」

「ああ。十九年になる」


 彼の手を取り、雪を踏む。


 きゅ、と靴底が鳴った。


 気温は下がり続け、氷雪域は年々広がっている。農地が雪に埋もれるたびに食料輸送が増え、暖房と魔力の供給は膨らみ続けた。


 コロニーへの避難。地下施設の整備。あらゆる気候対策。


 帝国屈指の大公爵家が、持てる力を注いでいた。

 それでも、冬を終わらせることだけができない。


 船内で目にした報道の見出しが、アンナの脳裏をよぎった。


 ──主惑星ホーエンフェルス、全球凍結の危機か。


 隣に立つアルブレヒトは、暗い空を見つめていた。


 アンナは、取った手に少しだけ力を込めた。


「行きましょう、アルブレヒト」


 彼がこちらを見る。


「まだできることがあるわ」


 雪の中、ストロベリーブロンドの髪が揺れた。


 白と金、水色をまとった星乙女。

 滅びかけた故郷へ、彼女を迎えた公爵家の青年。


『銀河聖国(ホーリー)の星乙女(スターメイデン) ―Holy Star Maiden―』、

 アルブレヒトストーリー。


 まさしく、物語の始まりであった。



 ─────



 異変の原因を追う旅は、古い教会の地下から始まった。


 長い年月、誰にも触れられることなく残されていた、禍々しい封印。


 それを解くことができたのは、星乙女であるアンナだけだった。


 封印が消えた、その先。


 地下へ続く道には、冷気が満ちていた。


 吐く息が白く染まり、岩肌には薄い霜が張りついている。


 進めば進むほど寒さは増した。


 そして、その闇の中から現れたのは死者だった。


 触れられるほど実体化した幽霊。


 冷気そのものが形を得たような、異形の怪物。


 それらを退けながら、アンナとアルブレヒト、そして同行する仲間たちは、凍てついた星の奥深くへと降りていった。


 洞窟は、どこまでも深かった。


 いつしか地上の風は届かなくなった。


 人の気配もない。


 聞こえるのは、自分たちの足音と呼吸だけ。


 その音だけが、凍りついた岩壁のあいだを、いつまでも反響していた。


「……いた」


 アンナが足を止めた。


 紫黒の槍。


 それに貫かれた精霊が、そこに封じられていた。

 小さな炎の形をしたマスコットのような姿。

 炎が消えかけては、また灯る。あまりにも細く、頼りない炎だった。


 星を巡るはずの力が、十九年間せき止められていた。


 その間にも地表から熱は失われ、雪は積もり、氷は広がっていった。


「これが……」


 アルブレヒトの声が低く落ちた。


 アンナは彼の横顔を見た。

 槍を見据える目。固く結ばれた唇。


 彼の手に、自分の手を重ねる。


「助けましょう」

「アンナ」

「この子も、あなたの星も」


 アルブレヒトが、重ねられた手を握った。


「ああ」


 今度は、迷いのない声だった。


 アンナが槍へ手を伸ばす。

 アンナの手に虹色の光がともるが紫黒のオーラに弾き返される。


「……っ!」


 その手にアルブレヒトの手が重なった。


「一人ではない」


 握る手の力が、強くなる。


 アンナはうなずいた。


 アルブレヒトの、アンナを思う気持ちが星乙女の力を増幅させ、紫黒の力を飲み込んだ。

 二人で、槍を引く。


 槍は動かない。


 それでも手を離さなかった。

 背後には仲間がいる。隣には、同じものを救いたいと願う人がいる。


 アンナが歯を食いしばった、そのとき。


 紫黒色の槍が、わずかに浮いた。


「……っ!」


 アルブレヒトが踏みとどまる。

 アンナも、もう一度力を込める。


 二人の手の間から、光があふれた。


 紫黒の槍が、抜けた。

 幻のように消えてゆく。


 十九年。


 冷え続けた星の奥で。


 《星の種火》が、蘇った。


 その一行を高みから見下ろすものがいた。

 紫黒のオーラに身を包んだ怪しい人影。


 『ホリスタ』のヴィランである。



 ─────



 洞窟を出たとき、寒雲が裂けた。


 アンナはまぶしさに目を細めた。


 厚い雲の切れ間から、一条の光が降りていた。


 雪を照らし、岩を照らし、やがて一行の足元へと届く。


 枝先の氷から、雫が落ちた。


 もう一滴。


 岩に張りついていた氷の下を、細い水が流れ始める。


「……光だ」


 アルブレヒトがつぶやいた。


 その声に、アンナは振り向かなかった。

 まずは彼に、この景色を見ていてほしかった。


 雲の割れ目からは、青空と太陽が覗いている。


 どこかで、小鳥が鳴いた。


 アルブレヒトは顔を上げたまま、動かなかった。


 アンナは数歩先へ進み、光の中へ出た。

 マントを揺らし、ふと振り返る。


「アルブレヒト」


 彼が目を見開いた。


 恒星の光を受けた髪が、柔らかく輝いていた。

 オーロラピンクの瞳が、まっすぐに彼を見つめる。


「よかったね」


 アンナは笑った。


 アルブレヒトの唇が、何かを言いかけて止まる。


 故郷に光が戻った。


 その光の中に、彼女がいる。


 伸ばしかけた手を、今度はアンナのほうから取った。


 彼はそれを握り返し、しばらく離さなかった。


 アルブレヒト、攻略完了。


 好感度、最大。


 背景は雪解け。


 公爵家の青年は、完全に恋に落ちる。



 ─────



 かくして、惑星ホーエンフェルスの長い冬は終わり始めた。


 精霊は救われ、星の未来はつながれた。

 二人の絆も、揺るぎないものとなった。


 その感動の余韻がもう少し続いてもよかったのだが。


 NEW!


 アンナの視界に表示が現れた。


 【ホーエンフェルス家の家具職人、SRエルマーが仲間になった!】


「……まあ!」


 アンナの前で、家具職人が恭しく一礼した。


 顔がよかった。黒髪に黒目の爽やかな好青年。


 これから専用ルートが始まると言われても、何の疑問も抱かない顔である。


「お望みの家具がございましたら、どうぞお申しつけください」


 NEW!


 【マイルーム機能が開放されました】


 アンナの視線が表示へ、それから家具職人へと戻った。


 しかし、『ホリスタ』は止まらない。


 NEW!


 【ホーエンフェルス家の調理人Rデニスが仲間になった!】


 次に進み出たのは、落ち着いた物腰の男性だった。


 年を重ねた顔立ちに、柔らかな微笑。若い青年たちとは違う、余裕のあるたたずまい。


 また顔がいい。


「お食事のご希望も、遠慮なくお聞かせください」


 声までいい。


 NEW!


 【お料理機能が開放されました】


 【レシピ帳機能が開放されました】


 アンナは口元に手を添えた。


 十九年の冬を終わらせた先で、美形が家具を作り、イケオジがご飯を作ってくれることになった。


 アルブレヒトとの愛を確かめたばかりである。


 追加の美形が、もう二人来た。


 彼らとも交流を深めれば、彼らにまつわるストーリーを解放できる。


 ホリスタはそういうゲームである。



 最後まで読んでくださりありがとうございます。

 面白い、続きが気になると思われた方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】評価&ブックマークで応援をしていただけると嬉しいです。


 感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。