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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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9 配布SSRですわ〜!

 仮設役所、領主執務室の玄関が開いた。


 キラキラキラーン。


 エレオノーラの目には、黄金の輝きが見えた。


 金枠。


 SSR。


「配布SSRですわ〜!」


 玄関先で、端正な顔立ちの青年が足を止めた。


 淡い藤色の髪。レンガ色の瞳。

 切れ長の目を持つ冷たい印象の美形。魔法使いらしいロングコート。

 土とコンテナだらけの仮設役所では少々浮いている。


「……監査役として参りました、アドリアン・ネーベルでございます」


 ネーベルは領主の発言を聞かなかったことにして、優雅に一礼した。


 その後ろには、帝都から同行してきた部下が数人。


 エレオノーラは目を輝かせた。


「まあ! 皆様、監査がお得意なんですのね!」

「そのために参りました」

「ちょうど人手が足りませんの!」

「いえ、我々は監査の会計補佐に」


「会計補佐だって!?」


 奥から、イルゼが飛んできた。


「今すぐ仕事があるよ! あんたとあんたは会計部! そっちの人は支払い記録の照合!」

「お待ちください。我々は監査役の随行員で」

「帳簿を見られるんだろ?」

「はい」

「じゃあ見ておくれ!」

「そういう意味では」


 反論が終わる前に、部下たちは一瞬でイルゼに連れていかれた。


 帝都から来た監査団は、到着から一分で会計部へ配属された。


 ネーベルの目が、その背中を追う。


「……返していただけますか」

「監査が終わりましたらね!」



 ─────



 監査は、書類の確認から始まった。


 ネーベルは机に積まれた資料へ目を通し、一枚抜き取る。


「不備が多すぎます」


 エレオノーラの肩が跳ねた。


「やはり、そうですの?」

「申請の様式が部署ごとに違います。予算の付け替えも多い。それから……」

「まあ!」


 エレオノーラは身を乗り出した。


「お詳しいんですのね!」

「当然です。私はこれまで会計顧問として……」

「では、こちらもご覧になって!」


 別の書類の山が、どん、と置かれた。


 ネーベルの口が止まった。


「こちらは新宇宙港の予算案ですわ! あと、移民用住宅の追加建設と、魔導炉の運転費用と、水道復旧後の維持費についても!」

「いや、私は監査に……」


「あんた、さっきの連中のボスだって!?」


 扉が勢いよく開き、イルゼが新たな書類の束を抱えて現れた。


 どんっ。


 今度は、先ほどより高かった。


「私は監査役ですが」

「だから、この星の金の流れを監査しておくれ!」

「今ここでですか?」

「今困ってるんだから、今だよ!」


 正論のようで、何かがおかしい。



 ─────



 現地を見れば、問題はいくらでも見つかった。


 無計画に広がった仮設住宅。


 慢性的な人員不足。


 建物の多くはいまだコンテナ式で、仮設役所に至っては場所までよく変わる。


「これは……」


 ネーベルは配布区画を見渡した。


 粗を探すまでもない。

 粗だらけである。


 住宅用地と商業用地は分けられ、道路も順次整備されている。水道の復旧工事が進み、停止していた魔導炉も運転を再開していた。


 住民が増えている。増えすぎている。


 住宅を建てる。

 完成する前に、次の移民船が来る。


 雇用が増える。

 人手不足が少し解消する。

 その人々が新しい仕事を始め、さらに人手が必要になる。


 仮設港湾の処理能力も改善していた。


 税収の見込みも増えている。


 犯罪や事故への対応制度は、まだ完成していない。それでも警備隊と役所が連携し、必要な規則を作り始めている。


 ネーベルは端末へ記録を打ち込んだ。


 問題だらけ。


 だが、失敗してはいない。


 むしろ問題の大半は、予想を超えて人が集まった結果だった。


「どうですの?」


 隣から、エレオノーラが覗き込む。


「不備は多数あります」

「やはりそうですのね」


「しかし、区画整備は機能しています。人口増加に対して、設備の拡張が追いついていないだけです」

「では、もっと急いで建てれば解決ですわね!」

「その結論に至るには、予算と人員の検討が」


「イルゼ! 予算の検討ですって!」

「聞こえてるよ! ネーベルさん、あとで会計部へ来ておくれ!」

「私は問題点を指摘しただけなのですが……」


 指摘するたびに、担当者として扱われる。


 監査という仕事は、こんなに逃げ道が少なかっただろうか。


 ネーベルは咳払いをした。


「んんっ。誤解があるようですが、私は本職の監査官ではありません。本来は魔法使いです。監査役は片手間でして、予算の仕事に関しては……」


「魔法もお得意なんですの!?」


 エレオノーラの目が、さらに輝いた。


「手が回らないので助かりますわ!!」

「なぜそうなるのですか」


 監査を断ろうとしたら、魔法の仕事まで増えた。


 ネーベルはようやく気づいた。


(もしや、何を言っても仕事が増えるだけでは?)


「幻影魔法がお得意なんですのね」


 エレオノーラはネーベルの経歴を眺めていた。


「あまりにも役に立たないので、普段は会計士をしております」

「いいえ、とっても役に立ちますわ!!」


「まだ魔法を使うか申し上げておりませんが」



 ─────



 ほよん。


 淡い光が宙へ広がった。


 《ノイエルデ領府暫定役所》


 《住民課》


 《土地区画整備課》


 《工事中/立ち入り禁止区域》


 空中へ色分けされた表示が浮かび、それぞれの方向を矢印が示す。


 役所を訪れた住民が足を止めた。


「おお、分かりやすい」

「住民課はあっちか」

「昨日と場所が変わってるから助かるな」


 人々が迷わず歩き始める。


 ネーベルは黙った。


 幻影魔法、役に立った。


 表示灯として。


 なんだか釈然としない。


「素晴らしいですわ! 仮設役所が移動しても、これなら皆様迷いませんわ!」

「役所が頻繁に移動する状況を先に改善するべきでは?」

「それには人と予算が必要ですわ!」

「ネーベルさん!」


 遠くからイルゼの声が飛んできた。


「こっちも頼むよ!」

「今度は何ですか」

「移民の職業別名簿と、各部署の人員表を照合しておくれ!」

「私の仕事に関係ない仕事が増えているようですが」


 そこへ、ディートリヒが顔を出した。


「お疲れ様です」

「……どうも」


 まともな挨拶をする人間が現れた。


 ネーベルは、わずかに安堵した。


「工事現場から、夜間作業用の誘導灯を増やしてほしいと依頼が来ています。そちらの幻影魔法で対応できるでしょうか」


「あの、私は誘導灯担当ではなく……」


「あとできれば、街の中の案内標識も……」


 幻影魔法使いだと言ったのは、つい先ほどの自分だった。すでに後悔し始めている。 


 部下たちは会計部で帳簿をめくっている。


 外には、彼が出した案内表示。


 執務室のエレオノーラのそばに設置された机には、確認待ちの予算案。


 工事現場からは、誘導灯の依頼。


「さすが配布SSRですわ! もう大活躍ですわね!」


 エレオノーラが満面の笑みで言った。


 ネーベルは、虚空を見上げた。


 仕事はまだ、終わる気配がなかった。




 アドリアン・ネーベル。


 生真面目な研究者肌の魔法使い。星乙女と恋愛をしても奥手であり、受け身がち。それでも、常に彼女のために自分のできることを最大限努力する男、だった。ゲーム内では。


 原作ホリスタではイベント報酬の配布SSRとして実装されたキャラクターで、役割はデバッファー。中でも幻影付与による弱体・補助効果が非常に強力だった。


 エアハルトは嫌がらせのつもりで美形SSRを配布してしまったのである。



 どんどん美形が増える!乙女ゲームだからね!


 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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