↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/87

8 開拓ちょっと前進?

 

 今日も鏡の中には、美少女がいた。


 エメラルドの瞳に、きつめのつり目。黙っているだけでも可愛いより強そうと感じる顔である。


 その背後で、メイドがはちみつ色の髪をきっちりと結い上げていく。


 顔はよし。髪もよし。


 エレオノーラは立ち上がり、ツナギの腰を整えた。


 服は今日も、これである。


 ドレスは裾が汚れる。

 スーツも汚れる。

 靴など一度外へ出れば、土と泥で元の色が分からなくなる。


 結果、ブーツと白と赤のツナギに落ち着いた。


 十八歳の領主にして、帝国三大公爵家の令嬢。

 エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルクは、今日も剥き出しの土の道を颯爽と歩き、仮設役所へ出勤した。



 ─────



「おはようございます。本日のご予定ですが」


 執務室では、ディートリヒが予定を読み上げていた。


 顔が良い。


 姿勢がいい。

 制服が似合う。

 朝の光を受けた灰金の髪も、実によい。


 朝から推しの摂取。


「午前中は現地の視察、その後は」


「ん〜」


 エレオノーラは椅子に腰を下ろし、うっとりと耳を傾けた。


(非常によいお声。そして美形。制服。健康にいいですわ!)


 にまぁ。


「お嬢様。顔面が崩れております」

「あら、ごめんあそばせ」


 ぱっと扇を開いて隠す。


 ディートリヒが、手元の予定表から顔を上げた。


「あの、聞いていましたか?」

「いえ、まったく! 美声を堪能しておりましたの!」


 声は届いていた。内容が残っていなかった。


 ディートリヒは一度、ゆっくり息を吐いた。


「では、初めから……」

「お嬢様、ポスターが届きました」

「まあ!」

「げ」


 セバスティアンが広げたポスターには、爽やかに微笑むディートリヒがいた。


 《その翼を、ヴァルテンベルクで。》


 歯が、きらりん。


 エレオノーラは扇を閉じ、身を乗り出した。


「保存用と観賞用と布教用に、各種三枚。わたくしのお部屋へ」


「そんなにいるんですか⁉」

「ええ!」

「おそばにおりますが」


 セバスティアンが、本人を示した。

 エレオノーラも本人を見た。

 本人は、困った顔をしていた。


「でも、午後は訓練やらなんやらで、いないでしょう……」


 少し残念そうな声に、ディートリヒが口をつぐむ。


「では、お部屋にご用意いたします」

「お願いいたしますわ!」


 話がまとまった。


「待ってください。俺がいない間、あれを部屋に?」

「あなたがいても飾りますわよ?」

「いても!?」


 エレオノーラは満足げにポスターを眺めた。

 紙のディートリヒは、何も言わず微笑んでいる。


「それで、本日のご予定ですが」


 生身のディートリヒが、予定表を持ち直した。

 諦めと切り替えは早い。



 ─────



 街へ視察に出ようとしたところで、エレオノーラの肩に赤いマントが掛けられた。


「……ツナギに、これですの?」


 背中には、剣を携えた騎士の兜。その後ろに鷲の翼、ヴァルテンベルクの紋章がある。


 足元は作業用のブーツ。

 肩には公爵家の威光。


「紋章が汚れてしまいますわ」

「遠目からでも、ご領主様と一目で分かるように」

「それもそうですわね」



 ─────



「領主様、おはようございます!」

「おはようございます。今日もよいお天気ですわね」


 役所前。もともとこの星に住んでいた人々が声をかける。

 元犯罪者と聞けば物々しいが、今は笑顔で挨拶をしてくる住民たちである。


「今日もツナギなんですね」

「動きやすいんですの」

「でも、後ろはすげえなあ」

「あれがご領主様かぁ」


 仮設市役所の前の広場で軍人が元の住民たちを集め、立ち退きと移転先について説明していた。


「インフラも順次復旧します。星間ネットワークも整備予定です。ただし、まだ当面は不便が続きますので……」


「星間ネット?」

「つながるようになるんか?」


 人垣がざわつく。


「閉鎖され、破壊されていた旧宇宙港は解体します。新しい宇宙港を建設する予定です」

「あそこ、直すんじゃねえのか」

「新しく造るんか」

「港まで新品かあ」


 軍人は資料をめくった。


「あと、三親等以内のご家族で百年居住された場合、土地の永久所有権が認められます」


 住民たちが黙った。


 一人が、赤いマントのエレオノーラを見る。


「……神か?」

「女神では?」


 エレオノーラは扇の陰で、セバスティアンへ囁いた。


「わたくし、領主から女神に位が上がりましたわ」

「領主様で結構でございます」


 前の方にいた老婆が、小さく手を上げた。


「おら、仮設住宅でいいだ」


 その向こうには、新品のコンテナハウスが並んでいる。


「おらも、あっちがいいな」

「窓、ちゃんと閉まるんだべ?」

「騙されるな!」


 後ろから男が声を張り上げた。

 皆が振り向く。


「いいことばっかり言いやがって! そうやって俺たちを追い出す気だろう!」


 軍人は資料を持ち直した。


「なお、立ち退いていただけない場合は、強制執行となります」

「ほら見ろ!」

「何の権限があって!」


 別の住民まで声を上げる。


「領主権限ですが」


 軍人は、すぐ答えた。


 赤いマントに視線が集まった。

 エレオノーラは、静止した。ちょっと気まずい。


「新しい仮設住宅へ、強制的に引っ越していただきます」

「……」


 声を上げた住民が、振り返った。


 今の家。建築も素人の住民たちの手作り木造住宅。崩れかけの壁。

 継ぎ足した屋根。

 傾いた戸口。


 次に、コンテナハウスを見た。


 新品。電気あり。水道もこれから。

 星間ネットも整備予定。

 宇宙港まで新しくなる。


 そのうえ、この星に百年住めば土地が自分のものになるという。


 住民は腕を組んだ。


 しばらく、難しい顔をした。


「……強制なら仕方ねえな」


 隣の男が重々しくうなずいた。


「領主権限だもんな」

「逆らうわけにいかねえべ」

「おら、荷物まとめてくるだ」


 老婆がさっさと立ち上がった。


「お前ら切り替え早すぎるだろ!」


 反対派の男の叫びを背に、住民たちはそそくさと新品の家を見に行った。



 ─────



 惑星ノイエルデ軌道上。

 《ヴァルテンベルク》では、今日も人事部が移民と採用希望者の初期審査に追われていた。


 宇宙基地と連携し、審査を分担。

 入国対応の体制も決まった。


 決まったからといって、暇になるわけではない。


「シュミットさん、お嬢様はどこだい?」


 白髪の老女が、艦内を早足でやってきた。

 レア度はR、会計担当のイルゼである。


「お嬢様なら、一昨日こちらの様子を見に帰還されたあと、昨日の朝一番で地上に戻られましたよ」


 副艦長シュミットが答えると、イルゼは天井を仰いだ。


「ああもう! あたしもすぐに行くよ! 通信が不便すぎるよ!」


 シュミットは、ふっと笑った。


 イルゼが睨む。


「何が面白いんだい」

「思っていたより、開拓がうまくいっているようで」

「うまくいってるのは一割だよ!」


 即答だった。


「残りは赤字と素材不足と人材不足! 人が来たら家が足りない、家を建てようとしたら素材が足りない、素材が来たら今度は運ぶ人が足りない!」


 イルゼは端末を持ち上げた。


「AIですら『回線パンク』『接続不良』って口答えばっかりだよ! 役に立ちやしない!」


 画面には、くるくる回る表示が出ていた。


「ほらね!」


「……お嬢様のお言葉を借りるなら、そのうち人工衛星を提供してくれる企業が出るといいんですが」

「その企業を待ってる間にも、支払いは来るんだよ!」


 イルゼは端末を胸へ抱え直した。


「シュミットさん! 早く地上へ行かせておくれ!」

「すぐに手配を。地上へ下ろす建築機械と一緒になるかもしれませんが」

「構わないよ!」



 ─────



 輸送の手配をしながら、シュミットは口元を緩めた。


 開拓命令を受け取ったのは、エレオノーラがまだ昏睡状態にあった頃だ。


 公爵は、娘が開拓を投げ出した場合まで考えていた。


 婚約者との一件で傷ついた心。

 突然背負わされた重圧。

 経験のない仕事。


 十八歳の令嬢に、惑星を一つ任せるのである。

 普通なら、まず任せる方を止めたい。


 もし彼女が動けなければ、艦長たちが主体となるはずだった。

 都市型移民船を兼ねる巨大空母≪ヴァルテンベルク≫を地上へ下ろし、艦そのものを開拓都市として利用する。


 ところが、エレオノーラは投げ出さなかった。


 腹を立てた。


 そして、その勢いで立ち上がった。


 皆が誇りを持てるようにする。

 開拓を成功させ、帝都へ凱旋する。


 言った本人は、領主としても開拓者としても新米である。


 そのうえ、百年居住で土地を永久所有できるという、異例の政策まで打ち出した。


 人が来た。

 企業も来た。

 宇宙基地まで来た。


 最後のものは、さすがに誰も想像してなかったが。


 数か月で、シュミットもすっかり彼女のファンになっていた。


 どんな町ができるのか。

 この星が、どんな場所になっていくのか。


 見届けるのが楽しみだった。


 と、その時。

 端末に、新たな通知が入る。


 移民審査の厳格化について。


 さらに一件。

 ノイエルデ開拓領府への会計監査役派遣について。


 シュミットは笑みを引っ込め、画面を見下ろした。

 楽しみよりも、仕事は増加していく。



 ─────



「くしゅん」


 地上で、エレオノーラが小さくくしゃみをした。


「お嬢様?」

「お加減が?」

「何か羽織るものを」


 セバスティアンが顔を覗き込み、メイドたちが一斉に動きかける。


「いえ、地上の砂埃がひどいだけですわ」


 エレオノーラはハンカチを鼻に当てた。


「さあ、執務室へ参りましょう」


 そう言って歩き出し、足を止めた。


「……役所、あちらではありませんでした?」

「本日はこちらでございます」


 セバスティアンが示した先に、コンテナユニットが並んでいた。


 仮設役所はコンテナ式だ。

 動かせる。

 そして、実際によく移動する。数日で位置が変わっているのだ。


「便利ですけれど、出勤先はもう少し落ち着いてほしいですわね」


 エレオノーラは新しい位置の入口へ向かった。


 扉を開け、執務室に入る。


 机には、決裁待ちの書類が積み上がっていた。

 端末を開けば、こちらにも大量のデータ。


「今日も書類だらけですわー」


 役所が移動しても、書類はきっちりついてくる。


 エレオノーラは椅子に腰を下ろし、一番上の書類を引き寄せた。


 その横で、メッセージを確認していたディートリヒの眉が上がった。


「お嬢様!」

「なんですの?」


 ペンを手にしたまま、顔を上げる。


「監査役が帝都からまいります」


 エレオノーラの手が止まった。


「監査役!?」



 最後まで読んでくださりありがとうございます。

 面白い、続きが気になると思われた方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】評価&ブックマークで応援をしていただけると嬉しいです。


 感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。