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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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6 なぜ投げ出さない

 

「殿下」


 侍従のオスカーが差し出した端末を、エアハルトは不機嫌そうに見た。


「なんだ」


「ヴァルテンベルクのご令嬢が、奇策を打ち出したのはご存じですよね」


 その呼び方だけで、眉間に皺が寄った。

 端末を受け取り画面に目を落とす。眉が跳ねた。


「百年で永住権!?」


 記事には、百年間の居住を条件とした土地の永久所有について、図まで添えて説明されていた。


 続く見出しは、移住希望者の急増。 企業進出。開拓の進展。

 新しいビジネスモデル。


「馬鹿な。この星は……」


「ご令嬢のもの、です。殿下」

 オスカーが丁寧に補足した。


 エアハルトは黙った。


「現在も移民・移住希望者が列をなし、急速に開発が進んでおります」


「忌々しい!」


「なぜ投げ出さない!」


 オスカーが、わずかに口を開いた。

 何か言いかけたようだったが、閉じた。


 エアハルトはニュースを睨んだ。


 話が違う。


 辺境へ放り出せば、あの女もさすがに困ると思っていた。ろくに整備もされていない惑星で、何ができる。いずれ音を上げ、助けを求めてくるはずだった。


 星ごと与えておけば、失敗しても本人の責任。


 公爵家の金をいくらつぎ込もうと、帝国も皇室も後始末をする必要はない。

 あれほど偉そうにしていた女が、惑星ひとつ持て余して投げ出す。


 そのときは、存分に笑ってやるつもりだった。


 なのに、《新聞〈ニュース》によれば人が増えていた。 企業まで来ている。


 困っているのは、船が多すぎることらしい。


「……昔から、気に食わん女だった」


 きついつり目。

 勝ち気な性格。

 こちらが皇太子であろうと、ずけずけ物を言う。


 少しは機嫌を取ればいいものを、間違いを見つければ即座に指摘する。


 しかも、皇妃──母と茶を飲む。

 その茶会のあとには、たいてい母から小言を食らった。

 茶菓子と一緒に、何をどれだけ告げ口をしていたのか。


(寵愛が欲しいのなら、もっと俺を立てるべきだった)


 エアハルトは鼻を鳴らした。


(少しはアンナを見習えばいいものを……)


 アンナは、自分を頼ってくれる。

 好意を向け、必要としてくれる。

 自分を皇太子ではなく、一人の人間としてみてくれる。


「……アンナは」


 画面から顔を上げた。


「今、どこにいる」


「現在はホーエンフェルス公爵領に。アルブレヒト公子らとともに、現地の異変を調べているとのことです」


「ふん……」


 興味はない、という顔で端末へ視線を戻す。


「まだ戻らんのか」

「帰還予定の報告は、まだ」


 エレオノーラは辺境で勝手に開拓を進め、アンナはアルブレヒトと旅をしている。

 何もかもが気に食わない。


「それと……」


 オスカーが、ニュースの別の面を示した。


 エアハルトは目を見開いた。


「海賊だと!?」


 今度は、大きな見出しだった。


 〈ノイエルデ、海賊基地を誘致か〉

 〈十八歳の開拓領主、宇宙基地を借り上げ〉

 〈ヴァルテンベルク公爵令嬢「島を一つ提供」〉


 さらに、脇にはこんな文句まで躍っている。


 〈悪役令嬢、海賊を飼う〉


「何をしている、あの女は!」

「当人たちは商人を名乗っておりますが、海賊ヴォルフ一家の末裔でしょう」


 困って泣きついてくるはずの女が、海賊に島を一つ丸ごと与えていた。


 しかも借りているものは宇宙基地である。規模がおかしい。


「これを許しているのか?」


「現地では、すでに受け入れが進んでいるようです」


「勝手なことを……!」


 エアハルトは端末を机へ叩きつけた。


 その画面が切り替わり、大きな広告が覗いた。


 真紅をあしらった募集広告。


 中央には、姿勢よく立つ若い空騎士。

 灰金の髪。 整った顔立ち。爽やかな笑顔。


 〈その翼を、ヴァルテンベルクで。〉


 エアハルトは、無言でそれを睨みつけた。


「……これは」

「ノイエルデの人員募集です。帝都および各領地へ配布されております」


 広告には、軍人、警察官、騎士、魔法使い、各種募集中とある。

 通信端末用のデータだけでなく紙や、動く魔導ポスターまで用意されているという。

 画面の中の美形騎士がこちらを向き、笑う。


 歯が、きらんと光った。


 エアハルトの眉が、ぴくりと動いた。


 少し待つと、広告は最初に戻った。


 笑う。きらん。


「ふざけやがって」


 エアハルトは端末を伏せた。


「妨害だ」

「は?」


 オスカーが聞き返した。


 エアハルトは咳払いをした。


「海賊との提携だと? 言語道断だ! 監査を送り、移民審査も厳格化させる!」


 勢いよく椅子に背を預ける。


 そうだ。海賊である。


 これは自分が腹を立てているからではない。

 海賊だからだ。移民にも限度がある。


「あいつの好きにはさせない」


 エアハルトは、ようやく少し機嫌を直した。


 オスカーの視線が、伏せられた端末と、皇太子の顔を順番に巡った。


 さっきまで「なぜ投げ出さない」と言っていた口が、今度は監査の必要性を説いている。


「……殿下。念のため、確認ですが」

「なんだ」

「正式なご指示でしょうか」

「当然だ!」



 ─────



 一方、ノイエルデ軌道上ヴァルテンベルク。


 募集広告の公開翌日、人事担当者は応募件数を見て、もう一度見た。


 見ている間にも増えた。


「志望動機の三割が、“広告を見て”です」


 報告する声には、喜びと疲れが半分ずつ混じっていた。



 ─────



 街には、巨大なディートリヒのポスターが掲げられている。


 〈ヴァルテンベルク領ノイエルデ〉

 〈軍人・警察官・騎士・魔法使い 各兵種・公務員募集中〉


 その下を、通行人たちが通っていく。

 本人の知らないところで、今日も歯は輝いていた。


 きらりん。



 本日は2話掲載ですよろしくお願いします。

 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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