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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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26/90

5 拠点完成!

 まだ名前もない島──アクセルらヴォルフ商会が拠点にする島。


 重機が動き、作業員が走り、あちこちから怒鳴り声が飛ぶ。潮の匂いに土埃が混じり、エレオノーラは鼻先を指でこすった。


 ここに港ができ、人が住みつき、街になるのだろう。


 もっとも、今は道を引いて家を建てるところからだ。街を歩くには、まず街が要る。

 エレオノーラは遠くにいるアクセルを見やった。


(そういえば……本来、砂の惑星で船が座礁していたはずでは?)


 原作『銀河聖国の星乙女』で、アンナたちがアクセルと出会うイベントである。


 『砂礫の幻灯』


 砂漠の惑星で事故を起こし座礁して困っている彼のもとへ、星乙女が颯爽と登場。あれやこれやを解決するうちに親密度が上がり、イベントボスを倒し、砂の惑星の小さな街とアクセル一行を救って、めでたく仲間になる。なお、ガチャで引けていなくても以降のストーリー内では仲間になっていることになる。


 イベント報酬の美形幹部たち。

 限定ピックアップ。そして、あの顔。


(属性もりもりの見た目に、ハスキーで掠れた低音……大変、好評でしたわね)


 何しろ銀髪、紫眼、褐色肌、眼帯、ギザ歯。そのうえ引き締まった上裸に肩掛けの上着である。

 盛れるものは盛っておこうという、強い意志を感じる。


 あの声で甘く囁かれたら、それはもう──。


「だから、そこ塞いだら荷が通れねえだろ!」


 好評の低音が、工事現場に響いた。


「こっちも掘らなきゃ先へ進めねえんですよ!」

「先に向こうを──ああ? 資材の着陸待ち?」

 アクセルが通信機へ顔を向けた。


「……イベントどころではありませんわね」


 エレオノーラは、しみじみつぶやいた。


 しかも原作で仲間になったのは、アクセル一味である。

 巨大宇宙基地ごとではなかった。


 こちらは面談を重ねていたら金枠が現れ、ついでに基地までついてきた。

 ついでの方が二十キロある。今は惑星ノイエルデの宇宙基地として機能している。なんなら小さな町ひとつ分の移民つきだ。


「というかわたくし、イベント開始前にガチャで引いてしまいましたわね?」


「何を仰っているのか分かりかねます」

 隣のセバスティアンが、いつもの顔で答えた。


「アンナより先に、こちらで人材確保できましたわ!」


 エレオノーラは得意げに胸を張った。


 原作なら、アンナが砂の惑星で出会う男。

 現実では、ノイエルデの島で工事担当者と揉めている男。


(……では、アンナのイベントはどうなるんですの?)


 ちょっと気になった。


 船が座礁するはずの本人は、今、工事現場を指揮している。

 この先、アクセルは砂の惑星へ行くのか。行かないのか。

 そもそも、同じことが起きるのか。


 少し考えたが、遠くでアクセルがまた何やら叫んだので、考えるのをやめた。


「まあ、わたくしには関係ありませんわ。先に引いた者勝ちですもの!」


 と、考えていたら。


「お嬢様。ノイエルデ首都にて、お嬢様の受け入れ準備が整いました」


「まあ!」


 エレオノーラは振り向いた。


「お家ができましたの?」



 ─────



 白い壁。ミントグリーンの屋根。

 新しい木造洋館が、剥き出しの土の上に、ちょこんと建っていた。


 公爵家の本邸には遠く及ばない、小ぶりな館である。

 それでも窓や玄関まわりの造りは美しく、貴人の住まいとして十分に整えられていた。

 庭はない。植栽もない。道は仮舗装。


「お庭は、これからですのね」

「はい。本来の領主公邸は別途建設いたします。こちらは将来的に迎賓館、あるいは離れとして使用する予定でございます」


 セバスティアンが玄関の扉を開いた。

「魔導機器、電気、上下水道、通信、防犯設備は、すべて使用可能です」


「では、暮らせますのね!」

「はい」


 エレオノーラは、弾む足取りで中へ入った。


 白を基調に、サーモンピンク。

 曲線を描く装飾には、上品な金。

 ロココ調にも似た華やかな内装に、思わず頬が緩む。


「まあ……わたくしの好みですわね」


 「当然でございます」


 セバスティアンは、確認する必要すらなかったという顔をしていた。


 エレオノーラが部屋を見て回る間にも、玄関からは次々と荷物が運び込まれる。


 メイドたちの動きは速かった。


 箱が来る。指示が飛ぶ。箱が消える。

 魔法による荷物の制御であっという間に荷物が消えていく。


 ディートリヒも運搬対応に組み込まれていた。


「これはどちらに?」


 大きな箱を抱えて階段を上がってきた彼に、マリーが振り向く。


「この階ではございません!」


「ああ、じゃあこっち──」


「お嬢様の寝室は立ち入り禁止です!」

 今度はジュリアが立ち塞がった。


「ああ、悪かったよ!」


 ディートリヒは箱を抱え直し、慌てて向きを変えた。


 そこへ、寝室からエレオノーラが顔を出す。


「まぁ!わたくしは──」


「「よろしくありません!」」


 二人の声が重なった。


 ディートリヒは箱の陰から、困り果てた顔を覗かせた。


「俺を巻き込まないでください!」



 ─────



「ようやく本拠地完成ですわね!」


 ベランダに出たエレオノーラは、手すりに手を置いた。


 見渡す限り、工事現場だった。


 向こうで土を掘り、こちらで柱を立て、仮の道を荷台いっぱいの資材が通っていく。

 ついこの間まで荒野だった場所に、少しずつ建物の形が生まれていた。


 近くの暫定役所にも、人が出入りしている。


 今度からは、ここで暮らすのだ。


 エレオノーラは満足げにうなずき──ふと、眉を寄せた。


「そういえば、この街の名前」


 隣に控えるセバスティアンへ顔を向ける。


「ノイエルデ監獄中央区、なんですわよね?」


 新居の住所として、あまり嬉しくない響きだった。

 原作にも存在しない星だ。名前も適当すぎる。


 監獄中央区。


 白い壁とミントグリーンの屋根の屋敷が、少々気の毒である。


 周辺の区画名も、《第一〜三開墾区》《川端》《北荒野》《旧懲罰労働区》《第一湾区》《原野(げんや)》。


 川のそばだから川端。 北の荒野だから北荒野。

 原野に至っては、命名すら諦めている。


「もう少し、ちゃんとした名前にいたしませんと」


「それが……」

「どうしましたの?」


 セバスティアンが、わずかに間を置いた。


「現地住民の間では、すでにここは《エレンシュタット》と呼ばれております」


 エレオノーラは静止した。


「……エレン?」


「お嬢様のお名前から」


「誰が許可しましたのーーー⁉」


 ベランダに声が響いた。


 セバスティアンは動じなかった。


「すでに商店の看板にも使用されております」


「浸透が早い!」


 家が建ったと喜んでいる間に、街の名前まで生えていた。


「《エレンシュタット中央市場》《エレンシュタット建設》《エレンシュタット交通》など」


「多いですわね⁉」


 市場も建設も交通も、もうこちらの名前で営業する気である。


 エレオノーラは手すりから身を離した。


「止めるなら今ですわ!」


「もう地図にも載りました」


「遅かったですわーーー‼」


 エレオノーラが頭を抱えた、そのとき。


 近くの暫定役所から、誰かが飛び出してきた。


「領主様ー! 人が足りません!」


 街の名前は、領主抜きで決まっていたが──


 仕事は、領主を待ってくれなかった。




 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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