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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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4 お嬢様の星

 

 遥か太古。

 人類は神より、魔力という恩寵を授かった。


 それは、ただ不可思議な力ではなかった。

 一定の法則と術式に従うことで、火を生み、水を湧かせ、雷を招き、風を操る──世界そのものへ干渉する力であった。


 やがて人は、その恩寵を戦へ用いた。


 そうして、生み出されたのは岩と泥を組み上げ、魔力によって命令を与えられた巨大な人形──ゴーレム。


 兵を踏み潰し、城門を打ち砕き、砦の石壁さえその腕で崩した。


 だが、その力には致命的な弱点があった。


 ゴーレムを操る術者は、その巨躯の外にいた。


 いかに強大な人形を従えようとも、術者自身が弓矢や魔法の標的となれば、ゴーレムはただの土塊へと戻る。


 そこで人々は、術者を守るため、ゴーレムそのものを鎧とした。


 騎乗ゴーレムの始まりである。


 厚い装甲で巨体を覆い、その内部へ術者が乗り込み、みずからの魔力によって直接巨人を操る。


 戦争が激しさを増すにつれ、その巨体はさらに大型化していった。

 しかし、巨大な身体を動かすために必要な魔力は、もはや一人の術者が備える量を遥かに超えていた。


 人々はそこで、地中より掘り出される魔力を秘めた鉱石──魔石を機体へ搭載した。


 術者の魔力を補い、蓄え、増幅し、巨大な躯体へ安定して供給する装置。


 それが、やがて魔石炉へと発展していく。


 時代が進むにつれ、騎乗ゴーレムは戦場だけの存在ではなくなった。


 そして戦場は陸から海へ、空へ、そして星の海へ。


 それこそが──


 現代の騎士機(キャヴァリエ)である。


 ロマンの塊である。


 その騎士機に、今日、ディートリヒは乗っていない。


「……なんで、騎士の俺が土木作業を……」


 ディートリヒ・バウアーは、木を一本引き抜いた。


 ずぼん、と根ごと地面から抜ける。


 ただし乗っているのは騎士機ではない。


 土木作業用人型工作機械(ゴーレム)である。


 先日の改修事故で愛機は現在修理中。

 だからといって空騎士が暇になるわけではなかった。


 ノイエルデでは今、人手が圧倒的に足りない。


 結果。


 帝国空騎士ディートリヒ・バウアー、本日の任務。


 伐採。


『おーい、騎士様ー!』


 通信機から、やたら陽気な声が飛んできた。


 アクセルだ。


『その辺も頼むわ! もうちょい見晴らしよくしてくれよ!』


「…………」


 土木用ゴーレムの巨大な手が、ぎしりと木を握りしめる。


「俺は……空騎士なんだが……」


『知ってる知ってる。だから手際いいな!』


「…………」


 もう一本。


 ずぼん。


「ディートリヒー!」


 遠くから声がした。


 ディートリヒが振り向く。


 エレオノーラが扇を手に振っている。応援してくれてるようだ。


「頑張ってー!」


 ツナギ姿だった。


 開拓領主として現場を歩き回るようになってからというもの、ドレスよりもこちらの方がすっかり板についている。


 もっとも。


 その頭上には、メイドが差した大きな日傘。


 首元まできっちり紫外線対策。


 肌の露出は最小限。


 開拓作業には参加する。


 しかし美容について妥協する気は一切ない。


「はいっ!」


 ディートリヒの返事が元気になった。


「俺が言ったときと反応違わねえか?」


「気のせいです!」


「そうかぁ?」


 さらに木が一本、勢いよく引き抜かれた。


 その様子を眺めながら、R《軍事顧問》ヘニング・ブロームが髭を撫でる。


「しかし……島を丸ごとですか」


「ああ」


 アクセルは島の海岸線を見渡した。


「できりゃ、坂や段差があるところがいい。平らな浜だけじゃ困るんだよ。ドックも造りてえし、船を上げる設備もいる。港にしやすい地形が欲しくてな」


「なるほど」


 ヘニングは海岸線を見ながら考え込む。


 一方、エレオノーラはあっさりしていた。


「そんなことでしたら、いくらでもありますわ!」


「島でも湾岸でも、余りまくってましてよ!」


 アクセルが笑った。


「景気いいな、姫さん」


「土地だけはございますもの!」


 ヘニングが小さく息を吐く。


「……土地だけは、ですな」


 その背後では、土木用ゴーレムに乗った帝国空騎士が、また一本。


 ずぼん。


「……俺、本当に何してるんだろう」


 誰にも聞こえない声で、ディートリヒは呟いた。



 ─────



 昼飯時。

 作業場の隅では、海賊も作業員も移民も、腰を下ろして飯をかき込んでいた。


「領主様、ほんとに現場来るんだな」


 一人が、エレオノーラたちの去っていった方角を顎で示した。


「公爵令嬢なのにツナギだべ」

「土埃もついてたぞ」

「でも日傘さしてもらってたぞ。メイドに」

「やっぱお嬢様だな」


 なるほど、と一同うなずいた。

 ツナギで現場に来るが、日傘はメイドがさす。自分たちとは、日陰のでき方から違う。


「そういや、あの人ん家ってどんだけでかいんだ?」


 エネルギーバーを噛みちぎりながら、海賊の一人が言った。


「大公爵だろ?」

「屋敷の話か?」

「いや、土地とか」

「土地っつったって、おめえ。星だべ」

「ああ、そうか。星、何個持ってんだべ」


 全員、少し考えた。


「五、六個くれえじゃねえか?」


 匙をくわえていた男が、片手を広げた。


「五、六個かあ」

「一個でもでけえのにな」

「いや、百個くらいあるべ」


 隣の男が、あっさり言った。


 五、六個と言った男が、広げた手をそっと下ろす。


「百?」

「大公爵だぞ」

「……ああ、大公爵だもんな」


 それで納得しかけたところへ、一人が端末を取り出した。


「調べりゃ出るべ」


 皆が顔を寄せる。

 男は指で画面を叩き、待った。


 待った。


「今日はこの時間つながんねえべ」

「昼だからな」

「んだな」


 端末はしまわれた。

 確認作業、終了。

 星の数は、百個が優勢のまま残った。


「まあ、娘に惑星一個ポンとやるくらいだもんな」


「んだんだ」

「一個しか持ってなかったら、やれねえべ」

「五、六個でも、ちょっと考えるわな」

「百ならなあ」

「百なら一個くらいなあ」


 誰も百個あるとは確認していなかったが、話はもう百個ある前提になっていた。


「娘に、ほれ、好きに使えってか」

「すげえな。うちの親父なんか、道具一本貸すにも返せ返せって」

「星は返せって言われても困るべ」

「引っ張って帰れねえもんな」


 どっと笑いが起きた。


 婚約破棄も追放も、飯の席ではすっかり抜け落ちていた。

 残ったのは、娘に星を一個くれた、たいへん気前のいい父親である。


「やっぱ大公爵閣下すげえな」

「領主様もすんげぇ」


 遅れて飯を持ってきた男が、空いた場所へ腰を下ろした。


「何がすげえんだ?」

「領主様ん家、星が百個もあるんだと」

「百個⁉」

「んだ。そんで娘に一個、ポンよ」


 男は匙を止めた。


「……百個のうちの一個が、ここかあ」


 皆、しみじみとうなずいた。


 ──大公爵家でも惑星はそんなに持っていない。



 名前が思いつかなくてようやく読み仮名つけました。騎士機がキャヴァリエです。英語圏発祥でしょう。

 なお、騎士はリッターです。ディートリヒなどの騎士階級持ちの人間ですね。こっちがドイツ語。


 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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