2 イケメンが宇宙基地を背負ってきましたわー!!
今日も今日とて、ノイエルデ軌道上は混雑していた。
「入域申請、百十二番船まで受理!」
「第四待機区域、間隔を詰めすぎです! 三百キロ後退してください!」
『こちら移民船エーデルワイス。子供が発熱している。優先入域を要請する』
「医療班、対応を! 百九番船はその場で停止! 接岸許可はまだ出ていません!」
『食料が尽きそうなんだ! いつまで待たせる!』
「一昨日から並んでいる船もおります! 順番を守ってください!」
通信が、鳴る。
切る。
また鳴る。
管制官が一つ処理する間に、三つ増える。
百年住めば、その土地は自分のものになる。
エレオノーラが打ち出した制度は、帝国内外の移住希望者へ、たいへんよく刺さった。
土地所有権を許さない国や領は大変多い。
刺さりすぎた。
結果、入域待ちの船は百隻を超えた。
移民船。貨物船。企業の調査船。家族だけで乗ってきた小型船。年代物の船。
それらが、《ヴァルテンベルク》を中心に、ノイエルデの軌道上へ長い列を作っている。
管制官たちは、ここ数日というもの、宇宙を見ていなかった。
見ているのは識別番号と進路予測線と、減らない入域申請だけだった。
─────
「次ですわ……」
エレオノーラの声から、覇気が消えていた。
本日の移民・採用面談、二百八十人目。
ここまで、白。
緑。
白。
白。
たまに青。
引けども引けども、金色どころか黄色すら出ない。
二百八十連。
爆死だった。
「特殊な技能はお持ちで?」
『特には』
「ご希望の職種は?」
『なるべく楽で、給料の高い仕事を』
「次ですわ」
『まだ話の途中ですが!?』
通信が切り替わる。
セバスティアンが候補者の資料を一枚送った。
「次の方は、農業経験が三年。ただし、希望職種は芸術評論家とのことです」
「次ですわ……」
「お嬢様。面談は必要です」
「では、農業へ」
「本人の希望を聞いておりません」
「どうせ芸術評論家ですわ!」
ちょうどそのときだった。
警報が鳴った。艦内へ繰り返し響く。
机上の端末が一斉に警告表示へ切り替わり、部屋の通信機まで鳴り始めた。
セバスティアンが受話器を取る。
「はい」
数秒、聞く。
いつもと変わらぬ顔から、わずかに表情が消えた。
「承知しました。すぐに参ります」
受話器を置き、エレオノーラへ向き直る。
「お嬢様。急ぎ、ブリッジへ」
「まあ」
エレオノーラは立ち上がった。
「ガチャどころではありませんの?」
「それどころではございません」
─────
ブリッジでは、怒号と通信が飛び交っていた。
「第三待機区域、全船後退!」
「後退できません! 後方にも船がいます!」
「そこの二隻、進路を変えるな! そのまま直進しろ!」
「七十八番船、急旋回!」
「戻させろ! 接触するぞ!」
「接触します!」
正面モニターには、ノイエルデ周辺の宙域図が映し出されている。
百を超える船舶識別表示。
その列を押し潰すように、巨大な赤い反応が迫っていた。
「あら、どうしましたの?」
ブリッジへ入ったエレオノーラへ、セバスティアンが状況を告げる。
「小惑星級のワープ反応が、こちらへ向かっております」
「小惑星?」
エレオノーラは赤い反応を見上げた。
「困りましたわ」
彼女の領地には、まだ軍港どころか、まともな道路すら完成していない。
戦争をするには、あまりにも準備不足だった。
「二十キロ級反応、いまだ健在!」
「出現予測地点、さらに接近!」
「まだ出てこないのか!?」
艦長ヴァルターが肘掛けを叩いた。
ワープ反応は、とっくに捉えている。
空間の歪みも近づいている。
それなのに、肝心の船影がいつまで経っても現れない。
巨大すぎる何かが、ワープ空間の出口で周囲の船が散るのを待っているようだ。
「周辺宙域の重力偏差、増大!」
「移民船の航路が乱れます!」
『こちら三十四番船! 姿勢制御が──』
『前の船が近すぎる!』
『管制! どちらへ逃げればいい!?』
「逃げるな! 動くと余計にぶつかる!」
回避しようとした一隻が、隣の船へ寄る。
寄られた船が離れる。
その先に、別の船がいる。
百隻を超える船団の中で、混乱が波のように広がっていった。
「艦長、出現します!」
「全船に衝撃警報! くそっ、こんなときに──どこのどいつだ!?」
ノイエルデ前方の宇宙が、大きく歪んだ。
星の光が引き伸ばされる。
暗い空間に亀裂のような光が走り、その奥から巨大な影が押し出されてきた。
小惑星。
では、なかった。
あまりにも大きい。
小惑星と呼ぶには人の手が入っている。表面には無数の灯りが並び、塔のような構造物が突き出し、大小のアンテナが林立していた。
外周には、巨大なドック。
そこにはさらに、何隻もの船が係留されている。
巡洋艦の大きさを超えるものも見える。
ブリッジが静まり返った。
「な……」
ヴァルターが口を開けたまま、正面モニターを見上げる。
「識別照合、該当なし!」
「規模、二十キロ以上!」
「所属不明!」
オペレーターが息を呑んだ。
「宇宙基地です!」
誰も、すぐには反応できなかった。
「宇宙基地そのものが、ワープしてきました!」
宇宙基地は、普通、動かない。
少なくとも、周囲の船を蹴散らしながら突然やってくるものではない。
「通信、入ります!」
「映せ!」
メインモニターが切り替わる。
映し出された男は、片手を上げた。
『よぉ』
銀髪。
紫の瞳。
褐色の肌。
笑えば覗くギザ歯。
片目を覆う眼帯。
上半身は裸。
上着は着る気がないらしく、肩へ引っかけているだけ。
そして、画面いっぱい輝く──金色の枠。
SSR。
『あんたらが、面白いことやってる星かい』
「…………」
エレオノーラは黙った。
属性が多い。
多すぎる。
どれか一つでもキャラクターを立たせるには十分なのに、盛れるだけ盛っている。
よく知っている。
原作ゲーム──ホリスタにもいた。属性盛りすぎでたいへん人気だった。
アクセル・ヴォルフ。
二百八十連の果てに、ようやく来た。
それも、一人ではない。
宇宙基地つきで。
「採用!!」
「おーっほほほほ!」
エレオノーラは立ち上がり、扇を高々と掲げた。
「カモがネギならぬ──」
金色の枠。
二十キロ級宇宙基地。係留船、多数。
足りないものを、全部まとめて向こうから持ってきた。
「イケメンが宇宙基地を背負ってきましたわー!!」
「お嬢様」
「何ですの、セバスティアン! 今こそ勝利を分かち合うところでしてよ!」
「あちらに繋がっております」
「ンンッ」
笑い声が止まった。
エレオノーラは静かに椅子へ戻った。
背筋を伸ばす。顎を引く。
扇を開き、口元へ添える。
わずか一秒で、歓喜に満ちたガチャ廃人から、気品ある公爵令嬢へ戻った。
「初めまして。わたくしが惑星ノイエルデ領主、エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルクですわ」
完璧な微笑みだった。
モニターの向こうで、男が片方だけの眉を上げる。
『おう』
アクセルのギザ歯が、にやりと覗いた。
『採用、ありがとな』
全部、聞かれていた。
属性盛り盛り!宇宙基地も盛ってます!
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