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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第三章 辺境惑星、大繁盛ですわ!

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1 責任のゆくえ

 エーデルシュテルン銀河帝国、議会──


「婚約破棄と、辺境への追放。処分としては重いが、事情は理解できる」


 相手は星乙女である。

 伝説に語られる救世主。帝国が国家を挙げて保護すべき存在だ。


 そのアンナへの度重なる不敬、嫌がらせ、さらには害した罪を問われた公爵令嬢。

 皇太子との婚約を破棄され、中央を離れて謹慎する──


「では、続けます。帰還の条件は、惑星ノイエルデの開拓を成功させること――」


「開拓を成功させるまで、帰還を認めない、と」


「それは刑罰なのか?」


「国家事業では?」


 議場の空気が、一斉に仕事の話になった。



 ─────



 皇帝は重々しい顔で、眼下の紛糾を見つめていた。


(余、そんな話は聞いてないんじゃが)


 顔には出さなかった。皇帝なので。


「入植者の受け入れ、産業誘致、上下水道、電力及び魔力供給、港湾設備、航路、治安、金融、技術者──」


「そもそも、事業主体は?」


「エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルク嬢です」


 沈黙。


「……お一人で?」


「開拓領主として任命されています」


「十八歳の?」


「はい」


「無理では?」


 中立派だった。

 今のところ、どちらにも肩入れするつもりはなかった。


 ただ、無理そうだった。


「むろん、実務は配下に任せることになりましょう。ヴァルテンベルク家には、それだけの人材が――」


「その人材は暇をしていると?」


 ヴァルテンベルク系の席から、低い声が飛んだ。


 説明していた皇太子派の貴族が口をつぐむ。


「我々の領地では、道路も水道も勝手に出来上がるとお考えか。技術者も行政官も、既存の事業に就いている」


「しかし、三大公家の一角であれば」


「惑星を複数持っていれば、もう一つ増えても同じだと?」


「庭の植木鉢ではないのだぞ!」


 皇帝は頷いた。


(そうなんじゃよなあ)


 頷いたところで、味方が増える状況ではなかったが。


「通常の惑星開拓であれば、複数の貴族家と企業が出資し、金融機関と調整を行い、軍及び行政の協力を取りつけるものです」


 開発担当が、閉じた資料をまた開いた。


「数年で済めば上出来。事業によっては数十年を要します」


「その間、令嬢は帰還できないのか?」


 また、議場がざわついた。


「婚姻はどうなる!」


「そもそも開拓成功とは、何をもって成功とする!」


 皇帝は手元の命令書へ目を落とした。


(そこ、大事じゃな)


 今さら気づきたくなかった。



 ─────



「お待ちいただきたい!」


 皇太子派の貴族が立ち上がった。


「これは星乙女をお守りするための処置です。殿下は、アンナ嬢の身の安全を第一に――」


「そのために辺境に水道を引かせるのか?」


「そういう意味ではない!」


「港も造らせるのだろう?」


「話を矮小化しないでいただきたい!」


「惑星一個の話をしておる!」


 机が鳴った。


 皇帝は、眉間の皺を深くした。威厳は増した。

 胃の具合は悪くなった。


(あやつがやらかしたのは、分かっておる)


 エアハルトがアンナに肩入れしていたことも、エレオノーラとの関係が悪化していたことも承知している。


 婚約破棄。

 追放。

 公爵領での謹慎。


 そのあたりまでは、皇帝の頭の中にもあった。


(なぜ謹慎先で惑星を仕上げることになっておる)


 反省して帰ってくる話ではなかったのか。

 帰ってくる前に、産業基盤を確立しなければならないらしい。


「費用について、確認を」


 財務に携わる貴族が手を挙げた。


 議場が、少し静かになった。


「誰が支払うのでしょうか」


 皆、知りたかった。


「現状、ヴァルテンベルク家が支援しております」


「それは現状のお話です。命令に伴う支出の負担先を伺っています」


 もう少し静かになった。


「国庫でしょうか」


 皇太子派が黙った。


「皇室でしょうか」


 皇帝の指が、肘掛けの上で止まった。


「それとも、ヴァルテンベルク家が全額を?」


「まさに、それを申し上げている!」


 ヴァルテンベルク系の貴族が立ち上がった。


「これは令嬢への処罰を名目に、我が派へ惑星開拓の費用を押しつけたものではないか!」


「そのような意図は――」


「意図がなくても請求は来る!」


 財務の席が頷いた。

 そこは、まったくそのとおりだった。


「既存領の開発予算を削れと? 人員を引き抜けと? 星乙女のために、公爵家を食い潰すおつもりか!」


「不敬な物言いですぞ!」


「支払う側には敬意が要らんらしいな!」


「静粛に!」


 静粛にはならなかった。



 ─────



「その前に、処分そのものの妥当性を!」


 ヴァルテンベルク系が声を上げる。


「星乙女保護という大前提をお忘れなく!」


 皇太子派も引かなかった。


 全員、怒っていた。

 怒っている箇所は、見事にばらばらだった。


 皇帝は、重々しく息を吐いた。


 それを見た者たちが、わずかに声を落とす。

 陛下がお考えになっている。


 考えていた。


(で、これの責任を取るのは、余なんじゃよなー……)


 命令を出したのは皇太子。

 勝手に押されたのは皇帝の印だった。

 名義は皇室。

 その頂点には、自分が座っている。


 今も座っている。

 たいへん座り心地の悪い椅子だった。



 ─────



「あの……よろしいでしょうか」


 文官が一人、端末を胸に抱えていた。


「まだ何かあるのか」


「ノイエルデにつきまして」


 今、その名前で胃が痛くなっている。


 皇帝は顔を動かさず、続きを促した。


「現在、同惑星の領主権及び開拓権は、エレオノーラ・フォン・ヴァルテンベルク令嬢に帰属しております。その令嬢が先日、少々、異例の施策を打ち出しました」


「異例?」


「領府が定めた区画において百年間、継続して居住・開発した者に対し、その後永久所有を認める、と」


 議場が静まった。


「……百年?」


「永久所有?」


「はい」


 皇帝は、肘掛けに置いた指を組み直した。


(何を配っておるんじゃ、あの娘)


 文官が端末を操作した。

 議場中央に、ノイエルデ周辺宙域の立体映像が浮かび上がる。


 惑星。

 旗艦《ヴァルテンベルク》。

 その周囲に、小さな点。


 さらに点。

 また点。


「現在、この制度を知った移住希望者の船舶が、帝国内及び諸外国から殺到しております」


 船舶識別表示が増えていく。

 重なった。

 まだ増えた。


「……表示が重複しておらんか?」


「すべて別の船です」


 質問した貴族が黙った。


 先ほどまで机を叩いていたヴァルテンベルク系の貴族も、手を机に載せたまま動かなくなっていた。


「外国からも?」


「はい」


「移民が?」


「企業もです」


 映像が切り替わった。


 銀行。輸送会社。建設会社に商社、農業、医療、鉱業。


 見覚えのある企業ロゴが並んだ。

 自領にも支店がある、という顔をした貴族が何人かいた。


「国内外から、支店設置、融資、物流拠点、住宅開発、資源調査などの問い合わせが相次いでおります」


「銀行まで?」


 財務の席が、前へ出た。


「はい」


「あの、何もない惑星に?」


「何もないからこそ、と見られます」


「何もないのだぞ?」


「ですから、これから必要になるものが、すべてございます」


 銀行。住宅。輸送。設備。

 文官が順に指し示すたび、財務の貴族の目が動いた。


「百年という条件は長期ですが、家族による世代継承や企業の存続を前提とすれば、検討の余地があります。しかも、公爵家の領地です」


 完全な無法の辺境へ飛び込むわけではない。

 法と治安、そしてヴァルテンベルク家の信用がある。


 そこへ、先に入れば土地を確保できるという話がついた。


「令嬢は土地そのものを売ったわけではございません。将来の所有権を条件に、居住者と資本を先に呼び込んでおります」


 皇帝は、ゆっくりと映像を見上げた。


(あの娘、何をしておるんじゃ)


 先ほどと同じ疑問だった。

 意味は、少し変わっていた。


「待て。では、開拓費用は?」


「全額を令嬢側が負担する形ではなくなりつつあります。移住者が自ら住宅を建て、企業が設備を持ち込み、金融機関が融資を検討し、輸送業者が航路開設を申し出ております」


「……民間資本で開拓させている?」


「結果としては」


「公共設備の負担は残るだろう」


「はい。融資も航路も、まだ検討や申し出の段階です。事業全体が成立したわけではございません」


(惑星開拓を罰として押しつけたはずが、なぜ投資案件になっておる)


「これは……軌道に乗る可能性もあるのでは?」


 つい先ほど、無理では、と言った貴族だった。

 資料が変われば見解も変わる。そこは柔軟だった。


「殿下は、令嬢に更生の機会をお与えになったのであって――」


「まだ成功したとは言っておらんぞ」


 ヴァルテンベルク系が即座に遮った。


「しかし、成果が上がれば、任命のご判断にも相応の――」


「費用の話では黙っていたのに、功績の話は早いな!」


 また机が鳴った。


 怒りは消えていなかった。

 ただ、怒っているヴァルテンベルク系貴族も、ちらちらと企業の一覧を見ていた。


(うちの令嬢、何を始めておるんだ?)


「引き続き、報告せよ」


 皇帝は重々しく命じた。


(余、ますます聞いてないんじゃが)


「はっ。なお、現在、最も深刻な問題は――」


「まだあるのか」


 文官が映像を戻した。


 《ヴァルテンベルク》周辺。

 入植船、商船、企業船、家族船、小型輸送船。びっしり。


「船が多すぎます。入域審査と管制が追いついておりません」


 誰も、すぐには返事をしなかった。

 さっきまで、人を集めるだけでも大事業だと言っていたのだ。


「……成功したのか、失敗したのか。どちらなんだ」


「現在、その判定が難しい状況です」


 映像の端に、また一隻、識別表示が増えた。


 皇帝は、玉座の肘掛けを指で叩いた。


 (勲章と始末書、どっちを用意すればいいんじゃ)




 三章です!

 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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