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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第二章 わたくしの領地へようこそ!

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4 お嬢様、お気を確かに!

 ディートリヒ・バウアーが、執務室へ入ってきた。


 自分の足で歩き、エレオノーラの前へ進む。

 もう、身体に繋がれた管もない。


 エレオノーラは応接用のソファに座ったまま、その姿を目で追った。


 彼が片膝をつく。

 胸に手を当て、深く頭を下げた。


「──ご報告いたします」


 ああ。

 本当に、戻ってきたのだ。


「此度は俺の未熟のせいで、ご心配をおかけしました」


 顔が上がった。

 その姿を縁取る、虹色の枠。


 URだ。


 灰金の髪。

 まっすぐにこちらを見る、灰青の瞳。


 ドッ。

 心臓が変な音を立てる。


(顔がいい)


 エレオノーラの指が、膝の上の扇を握った。


(やっぱり顔がいいですわ)


 知っていた。

 知っていたが、改めて元気な姿で正面に跪かれると、話が違った。


 近い。

 しかも、こちらを見ている。


 エレオノーラは背筋を伸ばした。

 公爵令嬢として、主君として、復帰した騎士を迎えなければならない。


「命の恩人であるお嬢様のため」


 ドンッ。


 心臓が跳ねた。


 声が、胸の奥へ入ってきた。


 何度も再生した、あの声。

 けれど今は、画面も、スピーカーも介していない。


「この命を──」


(顔よし! 声よし! そして入職ボイス!)


 無理だった。


(ありがとうございます‼)


「はうっ……♡」


 ばたり。


 エレオノーラが、ソファへ横倒しになった。


「お嬢様!」


 メイドが駆け寄る。

 セバスティアンが、ディートリヒへ振り向いた。


「貴様、なにをした!?」


「えっ?」


 ディートリヒは跪いたまま、両手を見た。


 何も持っていない。

 何も触っていない。

 まだ報告の途中だった。


「お嬢様、お気を確かに!」


「……たいへんけっこう、ですわ……」


「何がでございますか!」



 ─────



 メイドに背中を支えられ、エレオノーラは何とか身を起こした。


 胸元を扇で扇ぐ。

 暑い。

 とても暑い。


 目の前ではディートリヒが、立つべきか跪いているべきか分からない顔をしていた。


「申し訳ありません。俺、何か失礼を──」


「ございません!」


 エレオノーラは勢いよく顔を上げた。


「大変よろしゅうございました!」


「……はあ」


 セバスティアンが眉を寄せる。

 メイドたちは、赤く染まった主人の頬と、困惑する騎士を交互に見た。


 エレオノーラは咳払いをする。


「それで、ディートリヒ」


「はい、お嬢様」


「呼び方です」


「呼称?」


「エレオノーラとお呼びくださいまし」


 室内が、静かになった。


 ディートリヒの背筋が伸びる。

 メイドの一人が、隣のメイドの袖を掴んだ。


 セバスティアンだけは、口を開きかけて閉じた。


 あの病室で、主人はこの男を「ディー」と呼んでいた。

 今度は、自分の名を呼ばせるという。


「……よろしいのですか」


「ええ!」


 エレオノーラは頷いた。


 推しに名前を呼んでもらえる。

 せっかく本人が目の前にいるのだ。お願いするくらい、よいではないか。


 ディートリヒは一度、視線を落とした。

 それから、改めて彼女を見上げる。


「……エレオノーラ、様……」


 ドンッッッ!


 心臓が爆発した。


(い、いま……名前で呼ばれましたわよね?)


 前世のホリスタでは、「君」、「貴女」、「お前」、「お嬢ちゃん」、「お姉ちゃん」。

 キャラクターごとに違っても、用意された呼びかけだった。


 画面にプレイヤー名が表示されても、声にまではならない。


 自分の名前を。

 あの人気男性声優と同じ声帯で。


(名前を呼ばれることなんて、ありませんでしたわ!)


 今のセバスティアンですら、呼ぶのは「お嬢様」だ。


 それなのに、この男は。

 こちらを見て。

 少しためらって。

 一音ずつ、大切そうに。


(最高のファンサではありませんこと⁉)


「はぁん♡」


 ばたり。


「お嬢様ぁぁ!」


 今度はメイドが、倒れる先へクッションを差し込んだ。


「きさまぁぁ!」


「俺、何かしました!?」


「お嬢様が二度も倒れている!」


「言われたとおりに呼んだだけですっ!」


 ディートリヒは立ち上がりかけ、ソファへ手を伸ばしかけ、セバスティアンに睨まれて両手を引っ込めた。


 命を救ってもらった。

 ようやく復帰できた。

 その礼を述べ、改めて忠誠を誓うつもりだった。


 まだ、誓い終わってもいない。


 なのに主君が二度倒れ、執事に怒鳴られている。


「どうすればいいんですか、俺……」


 メイドたちが顔を見合わせた。


「……お名前だけで」

「ええ……」


 囁き合う二人の頬まで、なぜか赤い。


 ディートリヒは助けを求めてセバスティアンを見た。

 まだ睨まれていた。



 ─────



「……恐るべしURですわ……」


 クッションに頬を埋めたエレオノーラが、ようやく声を発した。


 ディートリヒが身を屈める。


「何の話です?」


「私にも分かりかねます」


 セバスティアンが答えた。


 顔。

 声。

 名前。


 三連撃だった。

 こちらの防御力では、到底耐えられない。


 エレオノーラは震える手で扇を開き、熱い頬を隠した。

 その向こうに、心配そうな灰青の瞳が見える。


 また胸が跳ねた。


(これがURの力……!)


 名前を呼んだだけである。


「最高レアは伊達ではありませんわ!」


 ディートリヒは、ますます困った顔をした。


 ──なお、名前で呼ぶたびに倒れるので名前呼びは後日撤回された。



最後まで読んでくださりありがとうございます。

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