2-22.クリストファールート「出産」
妊娠5ヶ月になると、つわりも落ち着いてきて、私の体調も以前と比べたら大分良くなってきていた。
点滴もせずに、半分ほど食事も食べられるようになった。
骨盤が痛いなどのマイナートラブルも出てきたが、体調が良くなってきて、私はまた仕事を再開した。
何より嬉しいのが、最近ではお腹の中の赤ちゃんが蹴ってくれるようになった事だ。
クリス様も大喜びで、いつ蹴ってくれるかワクワクした様子で、私のお腹に手を当てている。
「今、蹴った!蹴ったよ!」と喜ぶクリス様は、何だか年相応の青年のように感じられた。
美しすぎる見た目から氷の王子様と呼ばれているのが信じられなくらいの、はしゃぎよう。
私はとても幸せだった。
ドレスを着ていると分からないけど、薄着の時はお腹も少しずつ目立つようになつまてきた。
私の体調が良くなってきた事を、クリス様が一番喜んでいる。
妊娠が分かってからのクリス様から過保護にされるのは変わらず、出産までこの状態が続きそうだ。
医療、学校、商業施設などの視察、会議への参加は再開させていたけど、社交界への参加は明日が2ヶ月ぶりだ。
王城でのクリスマスパーティで私が妊娠中である事を、皆に発表することになっていた。
正直、つわりは辛すぎたし、赤ちゃんが流れてしまったらどうしようと常に不安だったけど、無事に妊娠5ヶ月を迎え、以前よりも不安が減った。
今は胎動が感じられるから、赤ちゃんが生きているって分かって嬉しい。
逆に、胎動を感じていないと、赤ちゃんが生きているか不安になって、「おーい、動いてー」と胎動を感じるまで、お腹に手を当ててしまう。
パーティー会場から賑やかな声が聞こえてくる。
私とクリス様は両陛下の後に続いて王族の扉から、皆の前に出る。
今日妊娠の発表をすると思うと少し、緊張する。
私が出てきた瞬間に皆の視線が一斉に集まる。
国王陛下が挨拶とともに、私の解任を告げると、会場は拍手と歓声に包まれた。
皆が私の妊娠を喜んでくれているのが伝わってきて、嬉しかった。
多くの家族から祝福の言葉をもらい、ダンスを踊ったり、久しぶりのパーティーは楽しく過ごすことができた。
クリスマスパーティーの後からは、視察へ行った際に、国民から「おめでとうございます」とお祝いの言葉をたくさんもらえるようになった。
幸せな日々を過ごしている間に、あっという間に季節が過ぎて、6月。
流石にいつ出産してもおかしくないので、視察などの仕事の予定は入れないようにしながら、執務をこなしていた。
クリス様はソワソワしながら日中でも頻繁に私の部屋にやってきて、私のお腹を撫でたり、話しかけたりしている。
そして、ついに私が産気づいた。
最初はいつものお腹の張りとの区別がつかなかったが、もう2時間程定期的に痛みが続いていて、更にどんどん強くなってきている。
痛みで声が漏れていたので、クリス様も起きて、私の事を心配してくれている。
外が明るくなり医師に見てもらってから、食事が食べられる間に食べるように言われ、痛みの間に頑張って朝食を摂った。
食事が終わると私は再びベッドへ行ったが、どんな体勢だったら痛みが少しでも和らぐか試行錯誤しながら、次の痛みに怯えていた。
どんどん痛む時間の間隔が狭まってきて、更に痛みは強くなっていく。
(痛い、また痛みが来た!痛い痛い痛い痛い!)
何度も襲ってくる痛み。
私は痛みで叫んでいた。
クリス様は近くで凄く心配そうに私の手を握ったりマッサージをしてくれていたが、そろそろ産まれるだろうから部屋から出ていくように医師から言われていた。
それでも、クリス様は出産に立ち会いたいと強く希望して、私からもクリス様に出産に立ち会って欲しいと医師にお願いして、渋々医師から了承された。
出産に立ち会う王族など前代未聞であった。
両親と両陛下はすぐ近くの部屋で待機をしてくれているようだった。
これ以上の痛みがあるのかと驚く程に痛い。
1分間続く激痛が2分間隔で襲ってくる。
1分間耐え難い激痛を我慢したら、1分間の休憩。
休憩の一分間でも意識が飛びかけるが、激痛で目が覚める。
クリス様の手を必死に握りしめながら、とにかく叫びまくる。
力の抜き方すら分からない。
「子宮口全開!」と言う声も聞こえる。
痛すぎてとにかく早く生まれて!と願ったが、しばらくこの状態が続いた。
ようやく医師からいきんでいいと言われ、痛みのピークに合わせて叫びながら無我夢中でいきんだ。
こんなに叫んだのは生まれて初めてだ。
何度も叫び、何度もいきみ、「頭が見えてきた」、「もうすぐ生まれる」という声かけに励まされた。
そして、ついに…赤ちゃんが産まれた。
やり切った達成感に浸りながら、感じた違和感、赤ちゃんが泣かない…?
でも、1分もせずに赤ちゃんの元気な鳴き声が聞こえてきて、私は心底安堵した。
「無事に産まれましたよ!元気な男の子ですよ!」
看護師が息子を抱っこして嬉しそうに話しかけてきてくれたが、5秒ほどですぐに処置の為に息子を連れて行った。
私は元気に泣く息子が見れて嬉しいような、何だかまだ信じられない、現実ではないような、ふわふわとした幸福に包まれた。
医師が「王子様は出産で少し苦しくなってしまっていたようですが、大丈夫なので安心してくださいね。」と声をかけてくれた。
私もクリス様も「ありがとう」と涙でいっぱいになりながら、お礼を言った。
クリス様は私に「ありがとう。元気な赤ちゃんを産んでくれて、本当にありがとう。頑張ってくれてありがとう。」と泣いていた。
ただ、私の産後の処置の方の医師と看護師がバタバタしているのが伝わってきた。
「出血1,000mL超えました!」と看護師の声が聞こえてくる。
何だか体は震えてくるし、眠くなってくるし、クリス様が必死に私の名前を呼ぶ声を聞きながら、意識を手放した。




