2-21.クリストファールート「懐妊」
クリス様と結婚して3ヶ月が経った11月、私は常に湧き上がる吐き気と闘っていた。
2週間前は少しムカムカするくらいの違和感だったのに、今では24時間常に気持ちが悪い。
睡眠不足で眠いのに、夜も気持ちが悪すぎて眠れないし、うとうとしてようやく寝れてもすぐに起きて吐いてしまう。
日中も夜中も常に眠いけど眠れず、水を飲むのも辛い状況が続いていた。
もちろん食事なんてまともに取れるはずもなく、何とか無理して食べようとしても、少ししか食べられない。
書類仕事はなんとかこなしているが、社交や視察は昨日からお休みさせてもらってる。
書類仕事も吐きながらしている状態だ。
本当はこの状態でも社交や視察を頑張ろうとしたのだが、クリス様をはじめとした皆から止められた。
生理も2ヶ月間来ていないし、そうではないかと思い始めてはいたけど、今日医師から懐妊してるだろうと言われて本当に嬉しかった。
生理が2ヶ月来ていない事、身体を調べても特に悪いところも見当たらない、私の症状から懐妊に違いないだろうと言ってくれた。
おそらく妊娠3ヶ月で、来年の6月に出産予定だ。
クリス様は私の事を心配して「セルヴィが苦しんでるのに、何もできないのが辛い」と落ち込み、今まで以上にそばにいて体調を気遣ってくれている。
夜中でも私が吐くためにトイレに行くと、起きて背中をさすってくれる。
クリス様を起こさないように気をつけてトイレに行こうとしても、起こしてしまう。
クリス様も私の様子が気になりすぎて、あまりよく眠れていないようだ。
別々に寝ようと提案しても、一緒がいいと言われてしまう。
毎日あった夜の営みも2週間近くしていない。
結婚翌日の朝にクリス様に抗議してから、反省したのか初夜ほどの無理をさせられることは無かった。
それでも毎晩クリス様の体力は凄くて、私は翻弄されっぱなしだった。
今のクリス様は毎日私の体調を心配して、どうしたら楽か、何だったら口にできそうか、常に気にかけてくれている。
今日も公務の間にクリス様は、私の様子を見に来てくれた。
「セルヴィ、体調は大丈夫?辛いのなら執務なんてせずに横になっていていいんだよ。無理をしないで。早くセルヴィが元気になるように休んで。」
「いえ、横になっていても起きていても辛いですし、それなら仕事をしますわ。それに今日医師から言われたのですが、私は病気では無かったのです。」
「もしかして…」
「お腹の中に赤ちゃんがいるようです。」
「…本当に!?すごく嬉しい。ありがとう!ありがとうセルヴィ!」
こんなに無邪気に喜ぶクリス様は初めて見て、可愛いと思ってしまった。
「セルヴィの様子を見て、もしかしたらとは思ってたんだ。でも、他の病気だったらと思うと、不安で仕方がなかった。妊娠で本当に良かった!僕とセルヴィの子供がお腹の中にいるんだね。」
と嬉しそうに、愛おしそうに、まだぺったんこのお腹を撫でられた。
私もクリス様の喜びようが嬉しくて、自然と笑顔になった。
「ああ、本当に幸せだ。どんな子かな。セルヴィの子供だから天使のような子供だろうな。」
と浮かれていたが、
「でも、セルヴィは今とても辛いね。ごめんね、何もできなくて。早く体調が良くならないかな。何かして欲しい事ある?執務なんてしないで、横になってよ。」
とまた心配し始めた。
まだ妊娠初期の段階なので、あと2ヶ月経ってから周りに発表しようと話をしたが、両親と両陛下にはすぐに伝えた。
両陛下は、凄く喜んでくれて、両親はセルシア王国へ書簡を送った10日後には私に会いに来て喜んでくれた。
クリス様は、私が本など少しでも重い物を持とうとすると、すぐに取り上げて持ってくれたり、私が起き上がっていると心配したり、転ばないかハラハラしていたり、物凄く過保護な夫になった。
それから1ヶ月間悪阻の症状は全くよくならず、私は外交や視察を全て取りやめていた。
貴族の間では、私の健康問題、懐妊説など様々な噂が飛び立った。
医師からは何でもいいから食べられる物を食べるように言われて、無理やり食べるように努力したが、1ヶ月間で私の体重は減ってしまい、点滴で栄養を摂るようになっていた。
クリス様はそんな私を凄く心配していたけど、私は幸せでいっぱいだった。
私が幸せそうにするとクリス様も幸せそうに微笑んでくれる。
クリス様は毎日私のお腹を触り声をかけて、私もよく自分のお腹を触って声をかけていた。
妊娠4ヶ月になり、わずかにお腹が膨らんできて、私のお腹の中にクリス様との赤ちゃんがいると思うと、愛おしくて仕方がなかった。
「私、こんなに愛おしい存在があるだなんて、驚いています。」
と自分のお腹を撫でながら言うと
「我が子にすら嫉妬してしまいそう。」
とクリス様が言うので驚いた。
「でも、僕もセルヴィの次にお腹の中の赤ちゃんが愛おしいよ。」
と言われて、嬉しく感じた。




