4. 幻界剣士
今日は新月だ。
漆黒の闇夜を照らす光は一筋もない。
つまり私を照らし出す物はない。
できる限り最小限の動きで素早く神宮寺花音は隣の木に飛び移った。
それに彩葉と優莉も続く。
「お嬢様、体力は大丈夫ですか?ケガはなさっていませんか?どこかにぶつけたりとかは?」
花音が心配そうに聞く。
「あ、うん。大丈夫」
ちょっとぽかんとした様子でうなずく彩葉。
「そうですか…」
ほっと息をつく花音。
とても良い君主と護衛だ。
「先輩方。敵はまだ籠っている様子。今出撃しても返り討ちに合うだけかと」
優莉が冷静に言う。
「多分私達なら大丈夫だと思うけど、万が一があるからね…」
彩葉が顔を曇らせる。
「心配御無用。この神宮寺花音が敵の様子を一瞬にして教えて差し上げましょう」
そう言うと花音は胸の前で複雑な印を組む。
「蛇影幻索・陽炎」
静かに唱えると、花音の足元に五匹の黒蛇が現れた。
そして其々違う方向に向かって這っていった。
「今のですぐに見つかるでしょう。私の蛇共は優秀なので」
「花音、ありがたい」
彩葉はにこっと笑った。
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その頃______________________________
「龍神とやらめ…遅い」
亜麻音は山の開けた場所に立っていた。
いつの日か自分が剣鬼になった場所。
そこに立って亜麻音は考えていた。
(私が死んだとして、どうなるのだろうか?)
結論は、『どうにもならない』
剣鬼は滅びないのだし、皇位は継承した。
別に死ぬ死なないは自由だ。
じゃあ生き残ったらどうしようか。
「生き残ったら…?」
考えてもみなかった。
(生き残ったら、また盗剣士として一から…)
「最強のスワッシュバクラーとして、私は…」
_________何を残したんだ?
「…?」
不意に足元に生温い感触がした。
ふと足を見ると一匹の黒蛇が巻き付いていた。
「…蛇?」
ひゅんっ
「!?」
弓なりの音がした。
反射的に剣を振る。
運よく当たって矢は落ちた。
「なぜ矢g…!?」
ブスッ
激しい痛みを感じ、左腕を見ると太いクナイが二の腕に食い込んでいた。
クナイを引き抜こうとするも全然抜けない。
「中で枝分かれしてるッ!?」
小道具にまで高濃度の術を染み込ませている…。
「誰だっ!?」
亜麻音は怒りで目を見開く。
「一発目が来たら二発目が来ないとは思えないよねー??」
自分の頭上から声がした。
ぱっと上を向くと木の枝の上に黒い影。
「どうも鬼さん。私、最強の射狩人…神宮寺花音です」
「神宮寺…花音…っ!」
知らないはずがない。
あの時、射狩人部門トップ、総合四位のやり手だ。
でもなぜ龍神じゃなくお前が…
「花音、ないす」
「先輩ご苦労様です」
木陰から二人の女が出てきた。
一人は蒼眼で龍の尻尾が生えてる。
もうひとりは________________
「龍神っ優莉!!」
「あ、知ってるんだ」
「知ってるも何も、あんときトップだったもんな…」
あの時を思い出し沸々と怒りがわいてくる。
「あんとき?」
ぽかんとした表情の龍神。
口を開きかけた刹那、龍の尻尾女が口をはさむ。
「あなた、獅神亜麻音…?」
少し驚いた顔の龍の尻尾女。
「は?何で知ってんの」
こんな女と接点なんかなかったはず…。なんで…
「知ってるも何も、あんとき男投げたもんな…」
「!?なんで知ってるっ」
その言葉に目を見開く。
つまりこいつもあの場にいた…?
「申し遅れましたね」
龍の尻尾女は不敵な笑みを浮かべると、前髪をそっと掻き上げる。
少し隠れていた右目は赤色に光っており、出ている左目は青色に光っている。
オッドアイ。
そわっ
「…!?」
前髪を搔き上げた瞬間周りの空気が冷えた気がする。
龍の尻尾女は妖しく光る両目で私をとらえ、気高い声で言った。
「どうもこんばんは。この国の幻界剣士 伊達彩葉と申します。お見知りおきを」
「幻界剣士、伊達彩葉…?あの時壇上に立ってた…」
亜麻音は必死に過去の記憶を探る。
あの日、男どもの一言で過去をないがしろにされた日。
トップたちの実力を知って絶望した日。
命からがら山道をひたすら駆け上った日。
…そして鬼になった日。
「そうですそうです。順位を決めるのも私なのでそりゃあ名前と顔は一致してますよねーー」
そんな呑気な言葉は耳にも入らない。
五位 天浦葉月、闇の帝王を討伐したうちの一人。天浦姉妹の妹…。
四位 神宮寺花音、忍びの末裔で最強の射狩人…。
三位 わたくし剣城亜麻音
二位 天浦恵珠里、葉月の姉で最強の守護戦士…。
一位 龍神優莉、帝王討伐の先駆者で最強の暗殺者…。
最強五傑のうち二人を今相手にしているのか…。
いや、伊達彩葉は幻界剣士。
(もしかして、龍神達よりも強いのか…?)
悪寒が走った。
“死”という恐怖が脳裏をよぎる。
(いや…)
私は剣の柄を握り締め、龍神優莉に向かって突進する。
(死とか関係ない。私が潰すべきなのはコイツだけ。死ぬか潰すかなら……私は潰すを選ぶ)
急に走り出した亜麻音に驚く優莉。
とっさに刀に手をかけるが間に合わない。
亜麻音は双剣を優莉の頭上に振りかざし、冷酷に言い放つ。
「龍神。私に跪け。…私が最強の覇者だ」




