第二章 第十四話 緊急事態のさなかに
前回のラストから、少し時間が経過しています。
私のミスではありませんよ(笑)
では、どうぞ。
きゅうびは、かわぞう君は元気になったよ、とがまおじさんが笑顔で戻ってくるのをじっと待っていたのですが、夜になってもがまおじさんは帰ってはきませんでした。
がまおばさんだけがさきに帰ってきて
「ごはん、いまからつくったらおそくなっちゃうから、今日はおにババ食堂にいきましょう」
と笑っていいました。
どこかつかれているような笑顔でした。
雨はあがっていて、空には満天の星々が見えたのですが、きゅうびはすなおにきれいだとは思えませんでした。
次の日になって、学校へ行って、かわぞうがくるのを待っていました。
けれど、おおかみ男がきて、みんなをしずかにさせて、こういいました。
「みんなうちの人から聞いていると思うけど、かわぞうが石になった」
「いずみの精霊さまがなおしてくださったんじゃないんですか?」
ときゅうびはいいました。
「いや、いずみの精霊さまが祈りをささげても、てんぐさまが神通力をつかっても、かわぞうは石のまんまだったんだ」
お友だちはざわざわとしました。
「どうやら呪いらしいのだけど、呪いと魔法が同時にかけられていて、あまり余計なことをしてしまうとかわぞうにどんな悪影響をおよぼすかわからないから、てんぐさまもいずみの精霊さまも、ようすを見ながらでないといけないと、つまりは治るとしても時間がかかると、いっているんだ」
「でも、じゅえるさんのときはすぐに治ったよ」
ときゅうびはいいました。
「うん。それは聞いている。だからいずみの精霊さまは、呪いだけでなく魔法もかけられていて、そのせいで祈りが届かないのだと、そういっているんだ」
「つまり、かわぞうに呪いと魔法をかけて石にしたやつがいるってこと?」
きゅうびが驚いて大声をあげると、そうだそのとおりだと、お友だちはまたざわざわしました。
「そうなんだ。緊急事態なんだ。だから今日はみんなにおとなのお友だちと一緒に学校にくるようにしてもらったんだ。そして、今日からしばらくは学校も休みにする。期間は犯人がつかまるまで、だ。その代わり、宿題はいっぱいだすぞ」
おおかみ男はすこし大げさに、明るくいいました。
子どもたちの心をすこしでも不安から遠ざけるためです。
そして、続けました。
「じゃあなんでみんなに学校にきてもらったのか? それは、あたらしいお友だちを紹介するためだ。おいで」
木のかげから、走ってくる子がいました。
だれだろう?
ひとりをのぞいて、みんな思いました。
たぬまるだけは、目が飛びでるくらいにおどろいていました。
「はじめまして。わくわくだにからきました、ぽこみです」
「ぽこみは見てのとおり、たぬきのお友だちだ。わくわくだには和歌山県の森の奥の奥にある、きれいな谷だ。今日からみんなのお友だちになって、このばんざいやまでくらすことになった。ぽこみはばんざいやまにきたばっかりだから、とうぜんしらないことだらけだ。みんなでやさしくしような」
はい、とみんなの声がそろいました。
たぬまるをのぞいては。
「たぬまる」
おおかみ男が呼んでも、たぬまるは気がつきませんでした。
「たぬまる」
「おい、たぬまる」
ごんたに肩を揺すられて、ようやく言葉が耳にはいったようです。
「はい」
「たぬきの日で、一緒だったんだろ。おなじたぬきのお友だち同士だ。なかよくな」
「はい」
人間の世界でも、ばんざいやまのお友だちのなかでも、女の子はほれたはれたのお話は大すきです。
ひそひそと
「もしかしてぽこみちゃん」
「たぬまるのことが」
「好きだからばんざいやまにきたんじゃないの?」
そうかんぐって顔を赤くしていました。
そんな女の子たちをしり目に、おおかみ男はいいました。
「せっかくだから、そんなに長い時間はおとなのお友だちにも、今日の場合はお母さんだけども、やることがあってむりだけど、すこしぽこみとみんなとでお話しようか。質問がある人は、いるか?」
「はい」
いきおいよく手をあげたのは、はなです。
「ぽこみちゃんはなんでばんざいやまにひっこしてきたんですか?」
「たぬまるくんのことがすきになったからです」
これにはいっしゅん、しんとしずまりかえり、そのあとで女の子だけでなく男の子も、やんややんやの大かっさいです。
いったぽこみよりも、いわれたたぬまるのほうがてれていました。
もうまっかっかです。
でも、お友だちのほとんどが、からかうのではなくて、おめでとう、というふんいきになっていました。
そして、
たぬまるはどう思ってるの?
ときいてきました。たぬまるは正直に答えました。
「おれはひとをすきになるのに時間がかかるんだ。まだ一日の三分の一くらいしか一緒にいたことがなくて、どんなひとかはっきりわからないのに、すきかどうかなんて、まだわからないよ」
「すきか、すきじゃないかでいったら、どっち?」
「……それは……すきだけど」
またやんややんやの大かっさいです。
子どもたちは大はしゃぎで、それを見ていたおとなたちも、笑いだしました。
いつの間にか、かわぞうが石になったという暗くて悲しいニュースを、みんなが忘れてしまいました。
「それじゃあ宿題をわたすから、みんな一列にならんでくれ」
おおかみ男にいわれたとおり、みんな一列にならびました。
ぽこみがおおかみ男の一番近くにいたので、一番に宿題を受けとりました。
ひとりひとりに配っている間、ぽこみはこんなふうな質問攻めにあいました。
「ひとりできたの?」
「どこに寝泊まりするの?」
「ぽこみちゃんもへんげがとくいなの?」
「たぬまるのどこがすきになったの?」
「ナポリタン・スパゲッティって食べたこと、ある?」
「わくわくだにってどんなとこ?」
「どんなあそびがはやってるの?」
「ひとりできたの? 家族できたの?」
「兄弟は、いる?」
「とくいなことってなに?」
「どれくらい漢字って書けるの?」
「わくわくだにで、九九ってもうならった? まだこれから?」
「スポーツはとくい?」
「たにっていうところにいたくらいだから、魚とりはじょうずなの?」
「人間って見たことある?」
ぽこみはその質問ひとつひとつにていねいに答えました。
女の子だけでなく、男の子にも平等に。
たぬまるが宿題をうけとると、目ざとく見つけた女の子が腕をひっぱって、たぬまるとぽこみをならんで立たせました。
「おにあいね」
はながそういって、女の子たちが「ヒュー」とか「フー」とかとはやしたてました。
もちろん、たぬまるはいい気分はしません。
からかわれたのだから、あたりまえですよね。
はずかしくて、頭にきて、でもどなりたいのをぐっとこらえました。
たぬまるが怒れないのをいいことに、はなをはじめとした女の子たちは、ますますひやかしました。
がまんしきれなくなってその場をはなれたたぬまるの背中に
「どこいくの?」
とか
「ぽこみちゃんがかわいそう」
といわれても、ふりかえりはしませんでした。
たぬまるがはなれても、女の子たちは興ざめることなく、ぽこみをかこんで話し続けました。
そんな女の子たちのおしゃべりを、おおかみ男がとめました。
「ほらほら。宿題はもうみんなにわたしたから、おとなのお友だちといっしょに帰る時間だ。おしゃべりはそこまで」
「はーい。ぽこみちゃん、帰りながら話そう」
そうして、子どもたちはお母さんたちといっしょに帰っていったのでした。
かわそうが大変なことになっているのに、
目の前の恋バナに気を取られてしまうのは、
まだ子どもだから、ですむと思いますか? 思いませんか?
では、また。




