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第二章 第十一話  あっという間にお友だち

子どもの頃って、いつの間にかできていた友達は、

大人になるとなかなかできないものですね。


たぬまるは、たぬきの日で何人のお友だちをつくれるのでしょうか?



では、どうぞ。

 わいわいがやがや、わいわいがやがや。

 話しては食べ、食べては話し、そして笑い、笑ってはまた食べて。

 まっしろもりの広場は大にぎわいです。

 あんなにたぬきの日をしぶっていたたぬまるも、おしゃべりして笑っています。


「え! 君のおじいちゃんもたぬまるっていうの?」

「うん、そうだよ」


 たぬまるはおどろきました。

 そしたらべつのお友だちがいいました。


「ぼくのとこでは、お父さんの弟が、たぬまるって名前なんだよ」

「そうなんだ。ぼくのところでは、たぬきはぼくとぼくのお母さんだけだから、ぜんぜんしらなかった。たぬまるって、けっこうある名前なのかな?」


 たぬまるがききました。

 すると、あっちからもこっちからも、こんな返事がきました。


「うん。あるよ」

「ぼくはぼくのところのおさがおしえてくれたんだ。ひいおじいさんがたぬまるだったって」

「わたしはわたしがうまれたときに、もしも男の子だったら、わたしの名前、たぬまるにしようって決めてたんだって」

「じゃあたぬまるがふたりだったかもしれないんだね」


 そう声があがると、みんな笑いました。

 それをすずめさまもどすんも目を細めて見ていました。

 まだ話はつづきます。


「たぬまるのところには、とんびさんってお友だちがきて、めずらしい外国語を教えてくれるんだってよ」

「へえ、そうなんだ」

「いいね、そういうの」

「うん。外国語を教えてくれたり、人間たちのめずらしい道具を持ってきてくれたり、旅をしてきいた面白い話をしてくれたり。だからとんびさんがきた日は、学校が休みになることだってあるんだよ」

「うわあ、面白そう」

「みんなのところには、とんびさんみたいな人、いないの?」

「うん。人間の世界にいっているお友だちから手紙が物が送られてきて、いろいろ知ったりはするけど、とんびさんみたいな人は、いないなあ」

「ぼくのところにはいるよ。ぼくは沖縄っていうところからきたんだけど、沖縄には島がたくさんあるんだ。その島にてんざいするぼくたちの集落を回って、やっぱり物を持ってきてくれたり、手紙を届けてくれたり、面白い話をしてくれたりする」

「いいなあ」


 みんなにうらやましがられて、たぬまるは気分がよくなりました。

 だから、とんびさんからきいた面白い話をひとつ、しました。

 みんな食事の手を止めてきき、結末をいうと大笑いしました。

 ばんざいやまのみんながとんびさんからきいたときと、おなじ反応です。

 ぼくのところにもわたしのところにも、とんびさん、きてくれないかなあ、とみんな思いました。

 とんびさんはどこでも人気者のようでした。


 ごはんがおわると、すこしのあいだ休憩をします。

 風の吹きぬける原っぱで、みんなで横になりました。

 空には太陽、まっしろなくも、それに青空。


 すずめさまがお話をしてもいいですか?

 ときき、みんなではい、と返事をしたのですが、だれかがぷうっとおならをして、みんなで笑いました。


「たぬきの日は、今日の夕方、五時半でおしまいになります。帰りに伝書鳩をわたすのは知っていますね? 今日お友だちになった人と、これからもお友だちでいるために、手紙でやりとりをするのですが、十七人の名前と住所を覚えるのはたいへんです。そこでお昼休みがおわったら十七枚の紙に名前と住所と、ぼくはわたしはこんなたぬきですよっていう自分のとくちょうを書いてもらいます。これは大事ですよ。あとで、あれ? この人どんな人だっけ? なんてことになったらじょうずに手紙も書けませんからね。だからみなさん、横になりながらでいいですから、ひとつきいただけでパッと思い出せるような、自分のとくちょうを考えておいてください。いいですか?」

「はい」


 とみんな声をそろえて返事をしたのですが、まただれかがぷうっとおならをしました。

下品ではあるのですが、でてしまうものはしかたがないですね。

 すずめさまの話がおわると、たぬまるはぼんやりと空を見ながら、自分のとくちょうを考えました。


 なんて書こうかな?


 そう考えていて、ふと気がつきました。

 みんな静かなのです。

 つまり、みんなが空を見ながらじぶんのとくちょうをなんて書こうかと、考えているのです。

 たぬまるはなんだかおかしくなりました。

 でも、気がついているのは自分ひとりだけのようだったので、いうかいうまいかとまよって、いいました。

 自信がないので小声で。


「いまみんながこんなに静かなのは、みんな一生懸命に自分のとくちょうを考えているからなんだな」


 笑い声こそおこりませんでしたが、みんなの顔が笑顔になりました。

 たぬまるがふと横を見ると、ぽこみと目があいました。

 ぽこみはたぬまるににっこりと笑いかけると、また空を見ました。

 風が吹きました。


 ごはんのあとの休憩がおわると、またみんなで遊びました。

 いちばんもりあがったのはばけくらべです。

 みんなたぬきでばけるのが得意だし好きだからです。

 たぬまるは最近になって、キジはキジでも、ももたろうといっしょに鬼と戦ったキジにばけることができるようになったので、みんなの前でばけてみせました。

 みんな驚いて、拍手をして歓声をあげました。

 たぬきのお友だちのあいだでも、とてもむずかしいへんげだったのです。

 たぬまるはちょっと照れたのですが、とてもうれしくなりました。


 楽しい時間は、あっというまにすぎさってしまいます。

 たぬきの日も、おわりがちかづいてしまいました。

 どすんが広場にたぬきのお友だちを整列させて、すずめさまがいいました。


「かなしいことではありますが、もうそろそろたぬきの日もおしまいです。でも、みなさんにこんなに短い時間でお友だちが十七人もできたことは、とてもうれしいことです。帰る前にひとり三分間ずつ時間をかけて、みなさんひとりひとりと、あいさつをしてわかれましょう。そしてまたいつか会う日のために、握手をしましょう。三分間はいがいとながいものです。だから、なにもいうことがなくなったら、顔を見てしっかりおぼえるようにしましょうね」


 どすんが列を整えて、たぬまるたちはひとりにつき三分間、わかれのあいさつをしました。

 十七人とするわけですから、全員とわかれのあいさつをすますまで五十一分かかる計算になります。

 話をして、名前と住所と自分のとくちょうを書いた紙を交換しました。

 顔を見て、忘れないようにすぐに思い出せるようにしました。

 最後に握手もしました。

 そして、たぬまるはぽこみとわかれのあいさつをする順番になりました。


「さよなら。ぼくの名前、おぼえてる?」

「もちろん。わたしがいきなり体当たりくらわしちゃった、じゃんけんの弱い、わたしがここにきてはじめてお友だちになった、たぬまるくん」


 はじめてお友だちになったといわれて、たぬまるはほんのすこし赤くなりました。

 そんなふうに思ってくれていたのかと、照れくさくなったからです。


「たぬまるくんは、わたしの名前、おぼえてる?」

「もちろん。ぽこみちゃん。あんな体当たりは忘れるわけないさ。ぼくのところにくまのごんたってのがいるんだけど、そいつとすもうをとったときみたいだった」

「ひどい。わたしはくまじゃないし、女の子よ」


 言葉は怒っているようですけど、ぽこみは笑っていました。

 だからたぬまるも笑いました。

「わたし、たぬまるくんに手紙、送ってもいいかな?」

 その声はすこしふるえていました。

「もちろん。ぼくも返事を書くよ」

 でもたぬまるにはそれに気づいたようすはありませんでした。


 ぽこみは聡いので、ああ、いまのでは気づいてはもらえなかったか、と残念になりました。

 でも、ぽこみは聡いので、勇気を出してもうひと押ししました。


「わたし、お友だちになった女の子にも送るけど、たぬまるくんにいちばんに送るね」

 これでたぬまるにも伝わるだろうとぽこみは思いましたが

「いや、べつに女の子のお友だちのあとでもいいよ」

 たぬまるはわかってはいなかったのです。

 たぬまるは鈍感なんですね。

 ぽこみも、たぬまるくんって鈍いんだから、とがっかりしました。


「どうかした?」

「ううん。わたし、ここにくる前はちょっと不安だったんだけど、実際にきてみたら、きてよかったって思ったわ」

「ぽこみちゃんも! ぼくもだよ。正直面倒くさかったっていうか、なんか気がのらなかったんだけど、きてみたら楽しかった。帰ったらみんなに話してみるつもりなんだ。まるまるの日っていい日だよ、面白いよって」

「私もそう思った。きっと、みんなそう思ってるはずよ」


 ふたりは周囲に目をやりました。

 みんなお話をしたり、忘れないようにとくちょうをかくにんしておぼえようとしたりしていました。


「ぼくたちも」

「うん」


 そういって、たぬまるとぽこみもおたがいをじろじろと見ました。

 ふつうなら失礼といわれてしまいますが、このときにかぎっては、いいのです。

 よく見ると、ぽこみの左の耳に白い毛がはえていることに、たぬまるは気がつきました。

 それはとてもめずらしいことなので、たぬまるの心に強く印象にのこりました。


 そうしているうちに三分たってしまいました。

 たぬまるとぽこみは握手をして、つぎのお友だちとわかれのあいさつをするのでした。


「ようし。全員とわかれのあいさつをしたな。これからまたみんながみんなの集落に帰って、毎日をおくるわけだが、今日知りあったお友だちのことも、たいせつにするんだぞ。なんせ『たぬき仲間』なんだからな」


 どすんは大声でいいました。ち

 ょっと泣いているようでした。


「じゃあ、またな、みんな」

「はい。さようなら」


 たぬきのお友だちはみんなで声をそろえて返事をしました。

 すずめさまも


「さようなら」

 と答えました。


 でも、すぐに解散とはなりません。

 各集落との『えにしの通路』が開かなくては、帰るに帰れないからです。

 その開きかたなのですが、すずめさまがブラシでたぬきのお友だちの毛をなでてぬけた毛をふっと空間にふくと、その毛のもち主がとおってきた『えにしの通路』が、なにもなかった空間に姿をあらわすのです。


 みんながまっしろもりにきたときの広場につづく小路で、ひとりひとり、ブラシをかけてはふっ、ブラシをかけてはふっとしました。

 毛に反応して『えにしの通路』があらわれるたびに歓声があがりました。

 最後から二番目だったたぬまると最後だったぽこみは、帰るときも最後から二番目と最後でした。


「あとふたり、無事に帰れたら、このどすんもひと安心だ」


 ブラシからぬけた、たぬまるの毛をすずめさまがふっとふくと、たぬまるの前に『えにしの通路』があらわれました。


「じゃあ、またね。ぽこみちゃん。どすんもすずめさまも、さようなら」

「はい。さようなら」

 とすずめさまが答えました。

「元気でな」

 とどすんがいいました。

 最後にぽこみが

「またね、たぬまるくん」

 と笑いました。

 たぬまるも、またね、と返して『えにしの通路』に消えていきました。


 最後にのこったぽこみは、すずめさまが毛をふいてあらわれた『えにしの通路』にはいる前に、すずめさまに質問をしました。

 それはどんな質問だったのでしょうか?


どすんみたいに(本当の意味で)情に厚い人は、

いい人だなあと私は思います。

そういう優しさを持った大人が、増えたらいいんだけどなあ……。


では、また。

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