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第二章 第十話  たぬきがいっぱいだ!

ゴールデンウィーク、みなさんはどこかへ出かけますか?

ゴールデンウィークではないのですが、たぬまるはたぬきの日に行きます。

どんなことが待っているのか?


では、どうぞ。

 いずみの精霊さまがいった『えにしの通路』を、たぬまるは歩いていました。

 横から見たらただ空間に一ミリくらいの細い線が引かれているようにしか見えなかった『えにしの通路』は、いざ入ってみると、いがいと暗くてすこしせまくて、どこまで続くのかわからないぶん、たぬまるにはなんだかながくかんじられました。


 まえを見ても出口は見えず、ふりかえってももう入り口は見えず、たぬまるはだんだんとこわくなってきてしまいました。

 人間もばんざいやまのお友だちも、こわいと思うとよけいにこわくなって、おばけが後ろからおいかけてくるような場面を想像してしまうことが、あるのです。


 たぬまるは走りだしました。

 こんなに長いなんてきいてない。

 いずみの精霊さまもてんぐさまもいじわるだ。

 ちゃんといってくれればこんなことにはならなかったのに。


 たぬまるはもちろん本心からいっているわけではありません。

 こわいときには思ってもいないことが頭にうかんだりするものなのです。


 あ。


 まえのほうが、明るくなっていたのです。

 とたんにたぬまるは走るのをやめました。

 息をととのえ、光にちかづいていきます。

 そう、出口です。

 出口のてまえで立ちどまり、ためしにとそっと手をのばしました。

 光の向こうに言った手は、見えなくなりました。

 たぬまるは、えいっと光をくぐりました。


 目をあけると、そこはまっしろもりでした。


 たぬきがいっぱいだ! 

 たぬまるはめずらしさのあまりきょろきょろとしました。

 そうしていると頭ふたつくらい大きないのししが、たぬきたちをかき分けてきちかづいてきて、いいました。


「どこからきたんだい?」


 どうやらこの大きないのししが、案内役のようです。


「ばんざいやまです」

「おお、そうか」

 というとぺらぺらと紙をめくりました。

「たぬまるくん?」

「はい」

「うん、いい返事だ。あっちに広場があるから、みんなについていけばいい。もうみんなほとんどが集まっているよ。あぶなくビリになるところだ。もうひとり、が最後だ」


 たぬまるはほとんどが集まっているときいて、走って広場にいこうとしました。

 一歩ふみだしたそのとき。


「うわああああ」


 そうさけびながらひかりの輪から走ってきたたぬきとぶつかって、たぬまるはふっとびました。


「大丈夫か?」


 案内役の大きないのししが、最初にたぬまるを、つぎにたぬまるをふっとばして自分も転んだたぬきをおこしてききました。

 たぬまるは大丈夫ではなかったので、なにも答えられませんでした。


「はい、大丈夫です」


 その声は女の子でした。

「ごめんなさい。わたし、ぽこみっていいます」


「ぼくはたぬまる。おお、いててて」

「たってみろ、たぬまる。体を動かして具体的にどこがどれくらい痛いか、確認してみるんだ」


 いわれたとおりにたぬまるはたって、とんだりしゃがんだりしました。


「どうだ?」

「これくらいなら、あと十分もすれば痛みはおさまると思います」

「ごめんなさい。わたし、わざとじゃないんですけど」

「はい。わかってます。おばけにおいかけられてるような気持ちになったんですよね?」

「どうしてわかったんだ?」

 案内役の大きないのししが、不思議そうにききました。

「ぼくもそうだったからです」

 たぬまるがいうと、ふたりは笑いました。

 たぬまるも、笑いました。


「じゃあ、たぬまる、ぽこみ、広場に行こう。おれは案内役のどすんって名前だ。よろしくな」


 よろしく、とふたりは返事をし、三人で広場にむかいました。




 広場には十五から二十くらいのたぬきのお友だちがいました。

 初対面のはずなのに、もうみんな輪を作っておしゃべりをしています。

 右を見ても左を見ても、たぬき、たぬき、たぬき。

 たぬまるは思わず「うわあ」と声をあげました。


 たぬまるは、ひとごみならぬたぬきごみにはいっていきました。

 たぬまるに気がついたお友だちが、あいさつをして話しはじめたときに、よくとおる大きな声でどすんがいいました。


「みんな、きいてくれ。たぬきの日に集まってくれたお友だちが、全員そろった。これからこの集まりのおさをつとめるまっしろもりのおさ、すずめさまからお話がある。よくきくように。それでは、すずめさま」


 広場にいちだん高く設置された台のうえを、どすんが手でさすと、みんなが注目しました。

 すずめは小さな鳥なのですが、まっしろもりのお友だちのすずめさまは、すずめとしては大きく一メートルはありました。


「みなさん、おはようございます。ここ、まっしろもりでたぬきの日がおこなわれることを、とてもうれしく思っています。今日はたぬきのお友だちとたくさん遊んで、たくさんお話をして、みんなでお友だちになりましょう」


 そうです。すずめさまはいいました。

 たくさん遊んで。

 たぬきの日は、むずかしいことを考えたり、めんどくさいことをしたりするための集まりではないのです。

 日本中にちらばっているたぬきのお友だちが集まって、みんなで楽しく遊ぶ、そのための集まりだったのです。


 たぬまるは知らなかったのですが、集まっているたぬきのお友だちの半分くらいは知っていたようで、拍手がおこりました。

 知らなかったお友だちは少しおどろいて、そうだったんだあという顔をしました。

 たぬまるもそうだったんだあと思いました。


 でも、ほんのすこし、残念でした。


 さっき、どすんは「全員そろった」といいました。


 その全員を見わたしても、大人のたぬきはやっぱりいなかったのです。

 たぬまるはちょっとだけ、ちぇっと思いました。


 もう一度辺りを見わたすと、近くにいた男の子と目があいました。

 目があったのになにもいわないで目をそらすのも失礼なので、たぬまるは、こんにちは、と話しかけました。


「こんにちは。ぼくはぬうき。山梨から来たんだ」

「ぼくはたぬまる。ぼくは福島から」


 そうあいさつをかわしていると、すずめさまがつづけて話しだしたので、たぬまるもぬうきも話すのをやめて、すずめさまに注目しました。


「日本中から集まってくれたたぬきのお友だちは、十八人です。十八人で楽しく遊ぶために、ふたつ、ルールを考えました。ひとつめは、いじわる禁止。もうひとつは、敬語。敬語を禁止します」


 すると集まったたぬきのお友だちから、こんな声があがりました。


「すずめさまにもどすんにも敬語は禁止なの?」

 笑い声があがりました。

「はい。禁止です。というのは冗談。でもそれはいじわる禁止のルールをやぶっていますよ。ルールをやぶるとわたしたちすずめの世界では、舌を切られてしまうのですよ」


 後半部分は、おばけの話をするときのような話し方と声色をしたので、たぬきのお友だちは一歩後ずさりました。


「それも冗談です。でも、せっかくのたぬきの日なのですから、みんなで楽しく遊んで、みんなで楽しい思いをしましょうよ。みんな、そのほうがいいですよね?」


 もとのやさしいすずめさまにもどったので、みんなほっとして


「はい」


 と大きく元気に返事をしました。


「みんな、じゃんけんは知っていますか?」


 また、はいと大きく元気な返事が広場にひびきました。


「これから三人一組になってもらいます。そうすれば六つ、グループができますね。それで、名前を呼ばれた順番でじゃんけんをしてもらいます。まずは自己紹介をしてもらいます。そして、負けたお友だちには、いいですか? 手でとさかを作ってにわとりのようにコケコッコーとさけんでもらいます。できますか?」


 こんどは、たぬきのお友だちのなかから

「ぼくできる」

 と声がしました。

 そのお友だちは、合掌した手を頭にのせて「コケコッコー」とさけびました。

 笑い声がひびきました。


「とてもじょうずです。みんなにもあれをやってもらいます。はずかしくても、元気にやれば大丈夫です。六つのグループが全部のグループとあたるまでですから、合計五回、じゃんけんをする遊びなのですけど、みんな、いいですか? 自己紹介、じゃんけん、負けたらにわとり、そしてつぎのグループとじゃんけん、ですよ」


 たぬまるは、にわとりははずかしいな、と思ったのですが、はずかしいからと元気にやらなかったらもっとはずかしいなと思ったので、元気にやろう、と心をきめました。


「ではグループを発表します」


 すずめさまがいうと、ごくり、とつばをのむ音がきこえてきそうなくらい、みんないきをのみました。

 ひとつ、ひとつとグループがきまっていきます。


「次のグループ。次のグループは、ぬうきくんとたぬまるくんとぽこみちゃんです」

「よろしく」

「よろしく」

「よろしくね」


 きまった瞬間、ほほを紅潮させて、三人はあいさつをしました。

 すずめさまはグループの名前をい組からはじまってへ組まで、いろはにほへの順番でつけました。

 お友だちも123とかABCとかでつけられるよりもなじんだ名前のつけかただったので、すんなりとうけいれました。


「それでは、さっそくはじめましょう。いいですか? もういちどいいますよ。自己紹介して、じゃんけんをして、負けたらにわとり、そして次のグループとじゃんけん、ですからね。まずはい組とに組、ろ組とほ組、は組とへ組で、じゃんけん勝負です。では、わかれてください」


 お友だちはみんな指示通り、対戦相手と探して走り、むかいあって立ちました。

 そして遊びのはじまりです。


 たぬまるは五回のじゃんけんのうち、四回も負けてしまったので、四回もにわとりのまねをしてコケコッコーと鳴きました。

 たぬまるはたぬきのお友だちです。

 にわとりにへんげすることも、とうぜん、できます。

 でも、にわとりにへんげしてコケコッコーと鳴くのと、たぬきのすがたのままでコケコッコーと鳴くのでは意味がぜんぜんちがいました。


 その広場では、一回ごとに九人のお友だちが負ける計算になるわけですから、九とおりのコケコッコーがひびくわけですが、そのたびに笑い声がおきました。


 ぬうきが

「たぬまるはさっきも負けたんだよ」

 と対戦相手に教えると、またあたらしい笑い声がうまれました。

 たぬまるは四回もにわとりをやったので、さいごのほうでは、はずかしさよりもじょうずにコケコッコーといえたことのうれしさのほうが勝つようになりました。

 そしてすべてのグループとのじゃんけんがおわると、じぶんのじゃんけんの弱さがなんだかおかしくなってきて、笑ってしまいました。


「どうしたの?」

 とぬうきがききました。

「おれ、じゃんけん弱いなあと思って」

 とたぬまるが返事をしました。

「じゃんけんなんて運なんだから、そんな日もあるわよ」

 とぽこみがいいました。

「うん。フォローありがとう」

「ふぉろー?」

 ぬうきとぽこみがききかえしました。

「うん。フォロー。かばうとか、助けるとかって意味の外国語」

「そんなむずかしいことば知ってるんだ。すごいね」

「ばんざいやまでは、外国語ってあたりまえにならうの?」

 ぬうきがおどろいて、ぽこみが質問してきました。

「ううん。そういうんじゃないんだ。とんびさんってお友だちに教わったから、そのことばはたまたま知ってただけで、外国語なんてちんぷんかんぷんだよ」

「ああ、おどろいた」

「ほんと。わたしも」


 ぬうきもぽこみも、自然と敬語ではなくお友だちことばで話すようになっていました。

 それからもグループのメンバーをかえながら、いろいろな遊びをしました。

 メンバーがかわるたびにあいさつをして、一緒に笑って、勝った負けたでよろこんで、お友だちがふえていきました。

 すずめさまがいいました。


「そろそろおなかが空いてきたんじゃないですか? お昼ご飯にしましょう」


勝ち負けにこだわる人は、少なくともばんざいやまにはいません。

勝ち負けにこだわって、「勝ちたい、勝ちたい、負けるのはかっこ悪い」って……。

たぬまるは笑っていました。それがすべてです。


では、また。

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