第二章 第八話 こまっている大きなへびを
気温もぐっと上がって、春めいてきましたね。
衣替えは、もうしましたか?
では、どうぞ。
「どうしたのですか?」
語り部さまがやってきたのです。
四人はすぐさま状況を説明しました。
説明をしているときに「みしみしっ」と音がして、見るとへびの重さにたえきれずに、木がぬけそうになっているのです。
「語り部さま、どうしたらいいですか?」
きゅうびは青ざめてききました。
語り部さまは答えました。
「きゅうび、たぬまる、いそいで鳥にへんげしてください。そして、これにあの大蛇を乗せるのです」
そういってピクニックのときに草むらの上にひくビニールのシートを広げました。
そうしている間にも、木は「みしみしっみしみしっ」と音を立てています。
もう時間があるとは思えません。
小さなへびは、早く助けてよ、というように「シャー」と鳴きました。
語り部さまはがけから身を乗りだして、大きなへびと目を合わせました。そしてきゅうびとたぬまるに指示しました。
「さあ、それにあの大蛇を乗せるのです」
おおわしにばけたきゅうびと、キジにばけたたぬまるがシートのはしをもって大きなへびのすぐ横にいき、大きなへびはおとなしく、そしてじんそくに、体を木からシートに移しました。
シートは語り部さまが弟子たちとピクニックにいくときに五人で使う大きなものだったので、少しははみ出したものの大きなへびもとぐろをまくたいせいで乗ることができました。
その直後、ぬけた木がひゅうううううっと落ちていきました。
こういうのを「間一髪」というのです。
でも、きゅうびとたぬまるには重すぎました。
一生懸命にはばたいても、なかなか上へはあがれません。
「きゅうび、たぬまる。こちらにあがらなくてもよいのです。ゆっくりとがけ下へ、おいきなさい」
そういわれて、落下ではなくて着陸できるスピードで、きゅうびとたぬまるはがけ下へと向かいました。
大きなへびは重かったのですが、持ち上げようとするよりもゆっくりと下がるほうが楽だったので、危険ではないスピードで降下してははばたいてスピードをゆるめ、を繰り返して、無事にがけ下に着陸しました。
大きなへびががけ下で「シャー」と鳴くと、がけの上から小さなへびが「シャー」と鳴きかえしました。
ごんたとかわぞうと語り部さまと小さなへびをがけ下に運ぶと、語り部さまは大きなへびをじっと見ました。
大きなへびも語り部さまをじっと見ています。
ああ、きっとなにか話をしているんだな、と四人は思い、そしてそれは正解でした。
語り部さまはいいました。
「みんな、このへびの親子はここよりもっと北からやってきて、南へと旅をしているとちゅうなのだそうです。ここがわたしたちのくらすばんざいやまだとはしらなかったそうです。この大蛇は北のへび神さまの使いで、へび神さまに渡された大事なたからものを運んでいるときに、がけから落ちそうになった小さなへびを助けようとして、自分が落ちてしまったのだといっています。へび神さまの使いになるくらいなのだから、この大蛇もきっと、かなりえらいへびなのだと思います。へびの親子は、どちらも四人にとても感謝しているそうです。ほんとうにありがとうと、そういっていますよ」
「いやあ」
「どういたしまして」
「ぼくは見てただけだから。きゅうびとたぬまる、語り部さまのてがらだよ」
「ぼくも、見てただけだった」
たぬまるが照れて、きゅうびが礼をいって、ごんたとかわぞうが弁解するように言いました。
すると、小さなへびは「シャー」と鳴きました。
「それでも、ありがとう、ですって」
そういわれて、ごんたとかわぞうはうれしそうに笑いました。
きゅうびとたぬまるも、お友だちがうれしそうにいているところをみて、うれしそうです。
思いたったように、大きなへびはさっきまで自分がしがみついていた、落ちてきた木へと近づきました。
そして、首をめぐらせて、なにかをくわえるようなしぐさをしました。
なにをくわえたのでしょう?
大きなへびは、きゅうびたち四人に、自分のうろこをわたしたのです。
しがみついていたときにはがれてしまったのですね。
三十メートルほどもある大蛇のうろこなので、それはとても大きく、透きとおっていてとてもきれいでした。
大きなへびは「シャー」と鳴きました。語り部さまがいいます。
「お礼だからうけとってもらえたらうれしいのですが、といっていますよ」
そういわれたら、ことわる理由がありません。
四人が大きな声で礼をいうと、大きなへびも小さなへびもにっこりと笑いました。
そうして、旅にもどっていきました。
がけから上がった五人のうち、語り部さまをぬいた四人はなんだかぼうぜんとしているようでした。
いちばんにきゅうびがいいました。
「ばんざいやまにもあんなに大きなへびはいないよね」
「きゅうちゃんもたぬまるも、あんなに近づいて、こわくなかった?」
とごんたが訊きました。
「あのときは必死だったから思わなかったけど、いまになってドキドキしてきた。五十メートルはあったんじゃないかな?」
「それはいいすぎだよ」
きゅうびがいうと、みんな笑いました。
笑いがおさまると、かわぞうがききました。
「五十はいいすぎだけど、三十近くはあったよね。あんなに大きなへびって、森のへびのなかにも、みたこともないし、きいたこともないよ」
語り部さまが答えました。
「かわぞう、あのへびはへびであってへびではないのです。森の動物のへびではななく、我々ばんざいやまのお友だちに近いといったほうがわかりやすいでしょうね。長年生きた動物のなかには、ふつうのへびから、とくべつな力をもった動物になることがあるのですよ。へび神さまの使いといったことを、おぼえていますか? あの大蛇は、ふつうのへびから、へび神さまの使いへと成長したのです。だから、ふつうのへびなら大きくても十メートルにとどかないくらいなのに、三十メートル近くというとても大きな体になったのでしょう。みんなにはわからなかったかもしれませんが、霊力もかなりのものでしたよ」
そうなんだあ、と四人は感心しました。
そして、やまをおりながら、五人で話をしました。
やまをおりたところで、語り部さまがいいました。
「あなたたち四人は、ひとからほめられるような、りっぱなことをしたのですよ」
そういってからにっこりと優しい顔で笑いました。
四人もうれしくなって、にっこりと笑いかえしました。
語り部さまとはそこでわかれました。
帰りながら、四人は興奮してきて、いつもよりおしゃべりになりました。
だって、三十メートルほどもある大きなへびを初めて見て、その大きなへびの命の危険を、間一髪、助けたのですよ。
そのうえきれいなうろこというプレゼントをもらい、語り部さまにほめられて、これで興奮するなというほうがむりです。
わいわいとにぎやかな四人を、森のりすたちが「どうした、どうした?」というように見ていました。
歩きながら、ごんたがいいました。
「あのさ、きゅうちゃんがさ、いっていた夢の話。コトミちゃんがでてきたっていう、あの夢の話。へびに気をつけろっていったんだよね?」
「うん」
ときゅうびが返事をしました。
「それって、このことだったんだね」
「そうかもしれないね。あの小さなへびを無視していたら、大きなへびを助けることもできなかったんだし、へびに気をつけたから、こういうプレゼントももらえたわけだし」
とかわぞうはうろこを太陽にかざしました。
うろこはキラリと光りました。
「でも、三十メートルのへびを見たなんて話、みんなは信じてくれるかな?」
「信じてくれるさ。ぼくただけだったら信じてもらえないかもしれないけど、語り部さまっていう強い味方がいるじゃないか」
たぬまるは弱気な発言をしたのですが、きゅうびがいうと
「そうか。そうだな」
と気をとり直しました。
「きゅうびとたぬまるは、また大かつやくをしたね。みんな話をききたがるよ、きっと」
「いや、ぜったいに、だよ」
かわぞうがいって、ごんたが強めると、きゅうびとたぬまるは照れ笑いをしました。
四人はそれぞれ、家に帰ったらうろこを見せて、その日あったできごとを家族に話しました。
話をきいた家族は、四人が思っていたいじょうによろこんでくれて、四人とも、とてもうれしくなりました。
ああ、ぼくはすごいことをしたんだ。
みんなそう思ってふとんに入りました。
きゅうびは目をとじてねむるまでのあいだに、コトミちゃんの夢を思い出しました。
そしてコトミちゃんに、心のなかで話しかけました。
コトミちゃんのいったとおりにへびに気をつけたよ。
そしたら、命を助けられたよ。
ぼく、いいことしたんだ。
ごほうびももらって、がまおじさんもがまおばさんも、よろこんでほめてくれたよ。
きゅうびの心のなかのコトミちゃんは、うれしそうに笑ってくれました。
そんなことを考えているうちに、きゅうびはぐっすりと眠りました。
以前は眠る前に何か考え事をしたら、余計に目がさめてしまったのですが、
最近はいつの間にか眠れるようになりました。
……歳のせい? いや、私はまだ歳ではない。
認めないうちは大丈夫……でしょうか?
では、また。




