第二章 第七話 小さくたって
書いてよいものか迷ったのですが、書きます。
地震が起きて津波の危険性があるそうです。
命を大切に。
では、どうぞ。
「ちょっと待って。きゅうけいしよう」
とかわぞうがいいました。
「うん。そうしよう」
ときゅうびがさんせいしました。
「おれもひと休みしたくなったとこだったんだ」
とたぬまるがいいました。
「いっぱい走ったもんね」
とごんたがいいました。
四人は森のなかの、葉っぱのじゅうたんのうえに寝ころびました。
川で泳いだあとで、やまに新種の虫を見つけにいこうよ、とかわぞうがいいました。
みんな、いったかわぞうもふくめてみんな、見つかるわけがないとわかっていたのですが、じっさいに見つけられるか、られないかは、この場合重要ではないのです。
木にのぼったり、くさむらに手をのばしたり、さいている花のまわりを探したりと、森じゅうを走りまわったのです。
「でも、あんなところにハチの巣ができてたとはしらなかったね」
そうごんたがいいました。
そう、ハチはお友だちを刺す危険な虫なのですが、花から花へと花粉を運んで種を作る『受粉』という大切な役割があるのです。
だから、ハチは殺さないというのがやまのルールなのですが、お友だちのくらすところにまで巣を作ったら、それはべつです。
おおかみ男が、ハチの巣をとるときにハチに刺されても平気なように着る、ごわごわの服を着て、くじょ、するのです。
ごんたがいったハチの巣は、くじょの対象にはならないところにできていたので、次の学校のときにみんなに教えないといけないね、と四人の意見はまとまりました。
「そうだ、たぬまる。たぬきの日って、なにかとくべつなじゅんびをしなくちゃいけないの?」
ときゅうびがききました。
「いや、そんなことはないってお母さんがいってた。でもいずみの精霊さまのところへいって、なんだかみちをひらくんだって」
とたぬまるが答えました。
「みちをひらく?」
「そう。まあ、おれがいってきたら、どんなふうだったか、おしえてやるよ」
声をそろえたごんたとかわぞうに、たぬまるはいいました。
「いてて。走りまわったから、足が痛いや」
とかわぞうはふくらはぎをさすりました。
「でもふしぎだよね。かわぞうはあんなにはやく泳げるのに、走るのは苦手なんだから」
とごんたはいいました。
「うん。かっぱはみんなそうなんだって」
「でも、だれだってとくいなことと苦手なことがあるんだから、それはそれで当たり前じゃないか?」
とかわぞうにたぬまるがいいました。
みんな、そのとおりだと思いました。
だから、だれもなにもいいませんでした。
すると、
「ぷう」
とおならの音がしました。
「あはははは」
「だれだ?」
「風上ににげよう」
「しょうがないやつがいたな」
四人は立ちあがって離れました。
離れて気がついたのですが、四人が寝ころんでいた場所のすぐそばに、三十センチを超えるか超えないかくらいのへびがいたのです。
「あ、へびだ」
四人はピンときました。
きゅうびの夢の話です。
もうかわぞうにも話してあるので、かわぞうもわかっています。
だから、ただへびを見つけたとき以上に、四人は驚きました。
このへびがコトミちゃんがきゅうびの夢でいっていたへびなのかと、四人はつばをのみました。
でも、見れば見るほど、そのへびは小さかったのです。
おにババが先生で授業をしたときにおそわった毒へびともちがいます。
へびはこわくはなかったのですが、おそるそる、ごんたがききました。
「ねえ、きゅうちゃん。このへびがコトミちゃんのいっていたへびなのかなあ?」
「わからないよ。でも、へびだよね」
「うん」
とかわぞうはあとずさりしました。
「じつはおならをしたの、おれなんだ」
「そうなんだ……って、この状況でいったからってごまかせると思ったらおおまちがいだよ」
さりげなく告白したたぬまるにきゅうびが強くいいました。
でも、ほほはゆるんでいました。
四人とへびは、しばらくにらみあうようなかたちになっていました。
かわぞうはいいました。
「ねえ、みんな。コトミちゃんが気をつけろっていってたんだから、ここはなにごともないようににげるのがいいんじゃないかな?」
その言葉でみんなが考えて、ごんたがいいました。
「でも、毒へびでもないし、このへび、子どもでしょ? 気をつけるほどのことでもないんじゃないかな?」
「いや、わからないぞ。小さくたってへびはへびだ。なめてかかったら痛い目にあうのかもしれない。そういう意味で、コトミちゃんは気をつけろっていったのかもしれないじゃないか」
「たしかにそうだね」
たぬまるの言葉に、きゅうびが同意して、みんなけいかい心を強めました。
さきにうごいたのはへびでした。
小さな体でかまくびをもたげて
「シャー、シャー」
と二度、鳴いたのです。
小さくたってへびはへび、というたぬまるの言葉と、なにごともないようににげるのがいいんじゃないかな?
というかわぞうの言葉を、四人は思いだしました。
どうしたらいいんだろう?
四人が考えたり顔を見あわせたりしていると、またへびがうごきました。
今度は一メートルほど遠ざかって「シャー」と鳴き、また一メートルほど遠ざかって「シャー」と鳴いたのです。
四人がじっと見ていると、もといた場所に戻ってきて、また「シャー」とおなじことを繰り返したのです。
「なんだ? どうしたんだ?」
見つけたときより二メートル離れたへびを見て、たぬまるはききました。
その問いにきゅうびが答えました。
「……こっちにこいって、いってるんじゃないかな?」
「そうかもしれないね」
「ためしに近づいてみようか?」
ごんたがいうと、かわぞうはけいかい心を少しといて、一歩、勇気をだして踏みだしました。
それを見て、きゅうびもごんたもたぬまるも、一歩、踏みだしました。
小さなへびは、また一メートル離れて、また「シャー」です。
「ほんとうだ。きゅうびのいったとおりだ。ついてこいって、いってるんだ」
たぬまるは理解しました。
自分の思ったことが当たっていたきゅうびも、半信半疑だったごんたも、にげたがっていたかわぞうも、こうなるとけいかい心はなくなり、小さなへびのあとについていきました。
へびはときどきふりかえってちゃんとついてきているかどうか確認をしながら、にょろにょろと森のなかをすすみました。
「どこにいくんだろう?」
「わからないよ」
「でも、いったさきに、きっとなにかあるんだよ」
きゅうびがきいて、たぬまるが答え、ごんたがいいました。
「まさか大きなへびの大群がいて、食べられちゃうとかじゃないよね」
とかわぞうがいうので、
「そんなわけないだろう」
とたぬまるはいったのですが、四人ともその状況を想像して、こわくなってしまいました。
目をらんらんと輝かせ、ちょろちょろと舌をだす巨大なへびの大群に囲まれて、にげられなくなっておそわれる。
絶体絶命の大ピンチです。
四人がそんなことを想像していると、小さなへびがうしろをむいて「シャー」といいました。
そんなことない、といっているようにも、食べちゃうぞ、といっているようにもきこえて、四人は不安になりました。
すると、森のなかのがけに近づいていると、きゅうびは気がつきました。
「がけにいこうとしてるんじゃないかな?」
「まずいよ。お母さんにおこられちゃうよ」
とかわぞうがいいました。
「でも、あのへび、ほんとうに困った顔、してるよ」
とごんたがいうので
「じゃあ、がけの近くまでいって、なにもかわったところがなかったら、帰っちゃうってのが、いいんじゃないか?」
とたぬまるが提案しました。
みんなそのアイディアに賛成しました。
でもきゅうびは、困っている小さなへびをおいて帰ることはできないから、がけにいってなにもなくてももう少し様子をみようよといおうと思っていました。
そう思っているうちに、がけまで十数メートルというところまできて、小さなへびががけのふちでとまり「シャー」と鳴きました。
なんだろう?
四人ががけの下をのぞいてみると、三十メートルはあろうかという巨大なへびが一本の木にしがみついて、いまにも落ちそうになっているのです。
三十メートルほどのへびなんて、ばんざいやまにはいません。
はじめて見るとてもとても大きなへびに、四人は「うわあ」とさけんで二メートルも飛びあがりました。
ごんたは意味もなく逆立ちをしました。
きゅうびとたぬまるは慌てすぎて変化したのですが、きゅうびは下半身は人間でも上半身はうさぎでした。
たぬまるはもっと失敗して、なぜだか机に変化してしまいました。
かわぞうは五秒くらい、立ったまま気絶してしまいました。
でも、冷静になると、助けないといけないと気がつきました。
「どどどどど、どうしよう」
「助けなきゃ」
「でもあんなに大きなへびじゃ、持ち上げられないよ」
「だれかおとなのひとを呼んでこようよ」
かわぞうがあわてて、きゅうびがいって、ごんたが困って、たぬまるが提案しました。
たしかに、四人が知恵と力を合わせても、がけの上に安全な場所に運ぶのはとてもむずかしく思われました。
ちいさなへびは「シャー、シャー」と大きなへびをよぶように鳴いています。
目には涙がたまっていました。
そのときです。
罪なき人が苦しむのは嫌です。
今回の地震で、いや、今回に限ったことではなく、
この先ずっと、誰もが嫌な目になんて遭いませんように。
では、また。




