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第二章 第五話  まるまるの日

今話はいつもよりちょっと長めです。

その長さを感じさせないだけの筆力が私にあるのかないのか?


では、どうぞ。

 おおかみ男がリーダーになっておこなわれた『やまの子どもの話しあい』から数日がたちました。

 話しあいの翌日、はなは先生がくるまえに、みんなのまえでたぬまるにあやまりました。

 たぬまるも、たたいてごめん、とはなにあやまりました。


 ふたりはおたがいにあやまったのですが、それいらい、まだ口をきいていません。

 いつもなら気持ちのいいそよ風も、なんだか不吉なすきま風のように思えてしまうのです。


 そこに、てんぐさまがやってきました。

 どうやらてんぐさまが先生のようです。


「おはよう。まだきてないお友だちがいるから、そのままお話していてもいいですよ」

 みんなは元気にあいさつをかえしてから、またおしゃべりに夢中になりました。

 その様子を見て、てんぐさまはにっこにこです。


 きゅうびは、たぬまる、ごんた、かわぞうとたこあげをして遊んだときのことを、お友だちに話していました。


「ごんたがころんじゃって、そしたらごんたにひっかかって、ぼくもたぬまるもかわぞうもころんじゃって、たこ、落ちちゃったんだ」

 ときゅうびがいいました。

「そう。たこがこわれなかったからよかったけど、ごんたはからだがおおきいから」

 とたぬまるがいいました。

「でも、それからはうまくいったんだよ。たぬまるのたこがいちばん高くあがったんじゃないかな」

 とかわぞうがいいました。

 すると、

「ぼくはやまにいたんだけど、きっとあのたこは、きゅうびたちがあげたたこだったんだね。ぼく、見たよ」

 とお友だちの一人から返ってきました。


 やまからも見えたという事実に、四人はすなおにおどろきました。

 たこはあんなに高くあがったので、よくよく考えれば別の場所から見えてもおどろくことではありません。

 でも、その男の子にいわれるまで、四人は考えもしなかったのです。

 こういうのを『盲点を突かれた』というのです。


 そんなやりとりをしているあいだに、おくれていたお友だちがやってきました。

 その子がおちつくのを待ってから、てんぐさまは授業を始めました。

 内容は算数です。てんぐさまはいいました。


「今日の算数は、こないだよりもむずかしくなるぞ」

「えええええ」

 とお友だちはいやがりました。

 でも

「これをおぼえたら、いままでよりもはやく計算ができるようになるんだ。これはおぼえたらべんりだぞ。人間の世界にいってもやくにたつ、すごい算数なんだ」


 とてんぐさまがつづけると、お友だちの目は見る間にきらきらとかがやきだしました。


「といっても、ものには順序というものがある。まずみんなは『九九』をおぼえようか」


 クク?

 とみんな首をひねりました。


 いのししののっこは、自分のおとうとがくつのことを「クック」といっていたのを思い出して、よけいにこんらんしました。


 そんなみんなのひょうじょうはてんぐさまが思ったとおりの反応で、てんぐさまは内心でふふっと笑いました。

 笑ってから数字の書かれた紙をわたしました。


 1×1=1 いんいちがいち 1×2=2 いんにがに 1×3=3 いんさんがさん


 つらつらとそう書かれた紙です。


 紙を見ても、みんな理解はできませんでした。

 てんぐさまはみんなにわかるように九九を説明しました。


「みんなこういうのはどうかな? おにババ食堂にいってご飯を食べるとき、三つの皿が五人それぞれの前に置かれたら、どうやって数える?」

「指を差していち、に、さんって」

 とかわそうがいいました。

 それこそがてんぐさまのねらいだったのです。

「でしょう。でも、紙をよく見てみて。三つの皿が五人の前に並んだ、つまり、三かける五だ。答えはいくつだい?」

「十五」


 みんなの声がそろいました。

 そして、目が、なるほど、といいました。


「わかったでしょう。これが九九。これをおぼえたら、またひとつおとなになるんだ」


 はい、じゃあ紙を見たり読んだりして、しばらくおぼえる時間にしようか。

 てんぐさまがいうと、みんな紙を見て目をたてにうごかしたり、もごもごと口のなかでくりかえしたりし始めました。

 夢中になっています。

 てんぐさまはにっこにこです。




「はい。みんな九九はおぼえられたかなあ?」

「まだです」

「ぜんぶはむりでした」

「むずかしかった」

「うん。明日もつづきをします。いつもは授業に使ったものは返してもらっているけど、その紙は持って帰ってもいいです。それとも、返してもらったほうがいいかな?」

「いやです」

「うん。じゃあ、今日の授業はここまで。みんな気をつけて帰るんだよ」

「はい」

 さよなら、と元気にあいさつをして帰っていく子どもたちに、てんぐさまは、はい、さよなら、と笑顔で返しました。

 でも、たぬまるがあいさつをして横をとおりすぎようとしたとき、てんぐさまはこういいました。


「ああ、たぬまる。話があるんだ。時間はとらせないから、ちょっとのこってもらえるかな」


 たぬまるはこないだの件でおこられるんじゃないかと、どきりとしました。

 一緒に帰ろうとしていたきゅうび、ごんた、かわぞうはてんぐさまに、ぼくたちは帰ったほうがいいですか?

 ときき、いてもだいじょうぶだよ、と返事をもらったので、たぬまるといっしょに待ちました。

 みんなが帰ってしずかになった広場で、てんぐさまはいいました。


「たぬまる、再来週の、学校が休みの日、なんだけどな、たぬまるは、たぬきの日にいかなくちゃいけないんだ」

「タヌキノヒ?」

「そう。ばんざいやまみたいな集落は日本中にあるんだ。そのなかからたぬきたちが集まって、朝から晩まで、交流する……、ようするにお友だちをふやす集まりだ。それにばんざいやまの代表としていってもらいたいんだ」

「ええ?」

「いやなのか?」

「はい」

「すなおなのはいいことだ」

 とてんぐさまはうなずきました。

「楽しそうじゃないか。いったほうがいいよ」

 とごんたがいいました。

「てんぐさま、きつねの日とか、くまの日とか、かっぱの日とかはないんですか?」

 ときゅうびがききました。

「いや、あるよ。でもいろいろ事情があるから、いつになるかはわからないんだ。早くいきたいかい?」

「はい。ぼくはいってみたいです」

「かわりものだな、きゅうびは」

 とたぬまるはいいました。

「おもしろそうじゃないか。ぎゃくにきくけど、なんでいきたくないの?」

「りゆうなんてないさ。おれの直感があんまりおもしろそうじゃないっていってるんだ」

「そっちのほうがかわってると思うよ」

「うっさいやい」

「いや、たぬまる。いったほうがいい。いろんな土地のたぬきとであって、いろんな話をきくのは、きっとおもしろいぞ。お母さんにも、話しておいてほしい。そう、お母さんもたぬきの日にいったことがあるんだから、お母さんにきいてみたらいい。たぬきの日が、おもしろかったか、つまらなかったか」

 とてんぐさまはいいました。

「はい」

 とたぬまるは元気のない返事をして、さよならと四人で帰っていきました。

 



「ねえ、がまおばさん」

 家に帰るなり、きゅうびはききました。

「たぬきの日って、知ってる?」

「もちろん、知ってるわよ。どうしてそんなこと、きくの?」

「さっきね、てんぐさまが、たぬまるにいったんだ。再来週はって」

「あら、そう。じゃあ、もうすぐきつねの日があるってことも、きいたのね?」

「うん」

 ときゅうびは元気に答えました。

「おばさんも何回もいったことあるけど、いいものよ。まるまるの日って」

「そうなんだ」

 ときゅうびの目は輝きました。

「でもたぬまるはね、あんまりいきたくないって」

「どうして?」

「直感がいうんだって。あんまりおもしろそうじゃないって」

「直感?」

 とがまおばさんはふきだしました。

 笑っているがまおばさんを見て、きゅうびもますます明るくなりました。


 手に九九の紙を持っていたことに気がついて、きゅうびは学校でのことを話しはじめました。

 話し終えると部屋にいき、自主的に九九の勉強をはじめました。




「直感がいうんですって」

「直感がか」

 夜になってきゅうびが眠ると、がまおばさんはがまおじさんに昼間のきゅうびの話をしました。

 がまおじさんもふきだしました。

「それにしても、もうまるまるの日になったか」

 がまおじさんは遠い目をしました。

「早いもんだなあ」

「ええ、ほんとに」

「きゅうびはいつになるんだろうな」

「まだわからないらしいけど、そう遠くない日にはやってくるでしょうね」

 ぐっすりと眠っているきゅうびには、とうぜん、そんな話がされていたなんて、わかるはずがありませんでした。




 また、そのころ。

 ばんざいやまにある神聖ないずみには、話しあう三人の姿がありました。

 いずみの精霊さまと、てんぐさまと、語り部さまです。

 その顔は夜のくらやみのようでした。やまのお友だちにとって、太陽のようにぽかぽかした話ではないようです。

 いったいなにを話しているのでしょうか?


「では、結界は強化されていることで間違いはないのですね?」

 といずみの精霊さまが確認しました。

「はい。だれかが弱くしたけいせきも、しぜんと弱まったけいせきも、もちろん、やぶられたけいせきも、ありませんでした」

 とてんぐさまが答えました。

「それでも、結界をぬけられたかのうせいが、ある」

 と語り部さまがいいました。

「はい。まったくもってこんなことがおきるなんて」

 とてんぐさまはこまっていました。

「語り部さま。歴史書のなかに、そんな話はありますか?」


 いずみの精霊さまにきかれて、語り部さまは話しました。

 てんぐさまのおじいさん、ばんざいやまの初代のてんぐさまがばんざいやまに結界をはじめてはったときにいちど、人間にいじめられて悪い心にそまってしまったお友だちが、結界をすりぬけてばんざいやまであばれまわって、結界をより強くしたお話。

 二代目のてんぐさまのときに、海をこえてやってきたお友だちが、結界をむりやりにやぶってばんざいやまに入りこんで、やまをのっとろうとしたときのお話。

 おなじく二代目のてんぐさまのときに、結界をやぶろうとしてやぶれなかったお友だちが、助けをもとめるふりをしてやまに入り、悪さをしようとしたお話。

 この三つのお話をして、


「という、にたような話なら、あるのですが」

 と、つけくわえました。

「今回と同じ話というのは、私の記憶にはありません」

「語り部さまがそうおっしゃるのなら、そうなのでしょう」

 てんぐさまはうでぐみをしました。

 いずみの精霊さまがいいました。

「じゅえるさんのときとは、違うのですか?」

「じゅうぶんにしらべてみなければ、せいかくなことはいえませんが、おそらくは同じだと思われます」 

 とてんぐさまはまゆをよせました。

「初代、二代目、そして三代目のてんぐさまがさらに強化した結界が、やぶられたわけでも、弱まったわけでもないのに……」

 といずみの精霊さまは考えこみました。

「まだ悪ときまったわけではありませんが、じゅうぶんに警戒はしないといけませんね」

 語り部さまはそういいましたが、よいお友だちならかくれたりはしないはず、ということは……と、いずみの精霊さまとてんぐさまだけではなく、いった本人でさえ、思いました。


 空気がひんやりしたように思えたのは、いずみの水のせいでしょうか?


私の筆力はどうでしたか?

楽しんでいただけたなら、幸いです。


では、また。

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