第二章 第二話 かなしいこと
あなたは早起きは得意ですか?
では、どうぞ。
太陽が出てきて、やまのお友だちに、朝だよと一日のはじまりをつげました。
気の早い人は家の外に出て、やまから太陽が顔を出すのを運動をして待っていました。
がまおじさんやがまおばさんと、おはよう、とあいさつをかわして、きゅうびはおにぎりを食べました。
きゅうびは早起きはとくいなのですが、ごんたは苦手だと言っていて、じっさい、きゅうびがごんたの家におとまりしたときは、朝、きゅうびがおこしても、
「まだねむいよ」
と、にどねをしたことをきゅうびは思い出しました。
ふふっと笑ってしまいました。
「ん? どうした、きゅうび」
がまおじさんにきかれてありのままに話すと、がまおじさんも牛乳をもってきてくれたがまおばさんも、ふふっと笑いました。
「だから学校に行くときにも、ごんたはあくびをすることがあるんだ。ふあああって。ときどきなんだけどね」
「まあ、ひとそれぞれだからな。ごんたくんはあれだけからだが大きいんだ。きゅうびよりもいっぱいねむらないと、体力が回復しないんだよ、きっと」
がまおじさんにいわれて、たしかにそうかも、ときゅうびは思いました。
学校に行く時間になるまで、きゅうびはがまおじさん、がまおばさんと話をしました。
楽しい時間は早くすぎていってしまいます。
あっと気がついて、おくれちゃう、ときゅうびは家をとびだしました。
でもちゃんと、いってきます、をわすれずにいいました。
走っていくと、ちょうどごんたも来たところで、手を振って合図してきました。
「びっくりした。がまおじさんたちと話してたらもりあがっちゃってさ、ちこくしちゃうかと思ったよ」
「ぼくも今日はねぼうをしちゃってさ、でもまにあってよかった。さあ、行こう」
「ごんたはほんとうに早起きが苦手なんだね。もしもどうしても早起きしなくちゃいけなくなったら、どうするの?」
「それはもちろん、気合いだよ。目が覚めて、ねむい、と思った自分に、気合いをいれて起き上がるんだ。朝だ、起きるぞって声にして言うと、いいよ」
「じゃあごんたはいままでいったことがあるんだ。朝だ、起きるぞって」
「うん。あるよ」
きゅうびはおかしくなって笑いました。
笑ったきゅうびを見て、ごんたも笑顔になりました。
そうやっておしゃべりをしながら、やまの広場にむかって歩いていました。
すると、後ろからだれかが走ってくることにふたりは気がつきました。
「だれだろう?」
「うん。だれだろうね?」
ふたりは足を止めました。
よおく見ていると、たぬまるでした。
「おはよう、たぬまる」
「おはよう。どうしたの? そんなにいそいで」
きゅうびが、そしてごんたがあいさつをしました。たぬまるはいいました。
「なにいってんだ。ゆっくり歩いてたら、ちこくしちゃうぞ」
ふたりはどきっとしました。
「え、もうそんな時間なの?」
「ああ、走れ、走れ」
ふたりもあわてて走り出しました。
せいかくには、授業はお友だちが集まって先生がそろそろだなと思ったら始まるので、よっぽどおくれないかぎりはちこくにはならないのです。
ふたりも心のなかでは、そんなにおくれたかなあ? と首をひねっていたのですが、たぬまるの顔はひっしでした。
だからしんじたのです。
ですが、
「ぷぷぷ。だめだ。ははははは」
とたぬまるは笑いだしました。
「なにがだめなの?」
ごんたがききました。
「いまはまだいそがなくたって、ちこくにはならないよ」
たぬまるはうそをついて、ふたりをおどろかしたのです。
走るのをやめて、きゅうびとごんたがいいました。
「やっぱり。そうだと思ったんだ。たぬまるにまんまとだまされた」
「たぬまるはやくしゃだね」
ふたりはだまされたことには腹を立てませんでした。
むしろ、たぬまるのはくしんのえんぎを、じょうずだなあとかんしんしたくらいです。
それから三人は、やまの広場までおしゃべりをしながら歩いていきました。
風の強い日で、おしゃべりをしているごんたの口のなかに、葉っぱが入ってきたくらいです。
つばといっしょにはきだすと、
「こんな風の強い日は、たこあげなんかをすると、うまく風をつかまえられれば、ぐんぐん高く昇っていくんだけどなあ」
とごんたがいいました。
「じゃあ、学校が終わったら、たこあげをして遊ぼうか」
「午後までこの風がつづいたらいいなあ」
きゅうびが提案して、たぬまるは空を見あげました。
ちこくというほどではなかったのですけど、三人がやまの広場についたのはおそめで、お友だちはもう集まっていました。
にぎやかに輪をつくってもりあがっています。
「じょうずだねえ」
という声がきこえてきたので、いったいなにがじょうずなのだろうと、三人も輪にくわわりました。
輪の中心にいたのは、はなでした。
つくえの上に、なにか紙があります。
「どうしたの?」
ときゅうびがききました。
「見て。はなちゃん、絵がすごくじょうずなの」
輪のひとりがいうので、三人はつくえの上の紙を見ました。
そこには、はなのお父さんの絵が描かれてしました。
きのうできあがったおにババ食堂二号店をたてているときのはなのお父さんの絵でした。
高いところにのぼって木と木を組み合わせているときの絵だと、一目でわかりました。
たしかにじょうずだ。
三人は思いました。
「これ、先生に見せたほうがいいよ。きっと、いやぜったい、すごくじょうずだってほめてもらえると思うよ」
「うん。わたしたちもそう思ったの。だからそれはもうみんないったよ」
ごんたがいうと、輪のひとりが答えました。
なんにんかが笑いました。
ああ、そうなんだ、とごんたはてれるように笑いました。
それを見たきゅうびも笑顔になりました。
でも、たぬまるは少しだけ、困ったようなきまりの悪そうな顔をしていたのです。
「はなちゃんは絵がじょうずで、はなちゃんのお父さんは大工さんのリーダーで。はなちゃんの手さきがきようなのは、お父さんからうけつがれたものなんじゃないかな。そういうのを『遺伝』っていうんだよね」
はなと仲よしの、やぎのさとが言いました。
きゅうびはちゃんとことわってから、はなの描いた絵を、手にとってまじまじと見ました。
よく見れば見るほど、その絵はじょうずでした。
きゅうびは感心しました。
「たぬまるも見る?」
「いや、おれはいい。もうじゅうぶん、見たよ」
するとさとがいいました。
「たぬまるには、ねえ」
はなが答えました。
「そうそう。お父さんが、ねえ」
ふたりは声を合わせました。
「いないから、ねえ」
目が、口元が、笑っていました。
「だからなんだっていうんだ!」
たぬまるが大声をだしたので、みんなびっくりしました。
「馬鹿にするな!」
そういって、本気でつくえをたたきました。
さとはそのけんまくに、顔をあおくしていましたが、はなはちがいました。
「馬鹿になんかしてないわよ。ほんとうのことをいっただけじゃない」
悪びれもせずに、そう反論したのです。
でも、いっていいことと悪いことというものがあります。
馬鹿にする気がなくても、いっていけないことは、いったらだめなのです。
だからたぬまるはおこりました。
「なんだ、そのたいど。あやまれよ」
「いやよ」
「あやまれ」
「なんであやまらなくちゃいけないの?」
「おまえがふざけたことをいったからだろうが」
「あ、おまえっていった。そんな口のきき方したらいけないんだよ」
「うるさい。あやまれ」
「そんなにおこらないでよ。ああ、こわい、こわい」
たぬまるはがまんしたのですが、はなのつぎのことばでがまんがげんかいをこえてしまいました。
「ねえ、なんでたぬまるには、お父さん、いないの?」
こういわれたたぬまるは、はなの頭をたたいてしまったのです。
「ふっざけるな」
「たぬまる、それはだめだ」
「うるさい。はなが悪いんだろ。なんでだれもはなをせめないんだ」
きゅうびとごんたが後ろからおさえたのですが、たぬまるはもう一回たたきたいのか、はなにつかみかかろうとしています。
「ふええええん」
とはなは泣きだしてしまいました。
「あ、泣かした。女の子に暴力をふるうなんて、いけないんだ」
お友だちの女の子のだれかがいいました。
「かわいそう」
「ひどい」
「はなちゃん、だいじょうぶ?」
女の子たちは、つぎつぎにはなに同情しました。
そこで、たぬまるにとっては悪いタイミングで、おおかみ男がやってきてしまったのです。
女の子が泣いていて、たぬまるがあばれている。
その状況だけを見ると……。
怒って暴力を振るった人と、
怒らせて暴力を振るわれた人、
どっちが悪いと思いますか?
では、また。




