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魔法使いたちの宇宙戦争 ~ ユニバーサルアーク  作者: 語り部(灰)
移りゆく世界

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移りゆく世界2

◇◆◇◆◇◆◇


「現状を整理しましょう」

 ブリッジの天井付近に広がる広域走査情報を見あげながら、レクシーは言った。

「アメリカ艦隊は二つ。両方正規空母四隻を中心とした打撃艦隊で、補助艦艇として駆逐艦を三〇程度と戦艦を二隻づつ帯同していたわ」

 レクシーは、アメリカの空母艦隊の一つを指差した。

「後から出現した艦隊……仮にアメリカB艦隊は、小沢艦隊の航空攻撃で戦艦を喪失。戦艦を失った事で大日本帝国第八艦隊に詰められている状況ね。ただし、その状況下でなお小沢艦隊へ攻撃隊を送り込んでいるわ。ヤンキー魂って奴ね。

 それに対して、アメリカA艦隊の方は補給の為に一時離脱していたけれど、戦線に復帰。小沢艦隊を航空攻撃しつつ戦艦一隻を進めて、小沢艦隊を圧迫。同時にもう一隻の戦艦をアメリカB艦隊へ派遣。これを防衛する動きをしている」

 実にクレバーな動きだ。

 レクシーはこの地点で、アメリカA艦隊をスプルーアンス。アメリカB艦隊をハルゼーが指揮していると読み切っている。

「これにより、小沢艦隊はアメリカA艦隊攻撃中にアメリカB艦隊に奇襲されたのに続いて、アメリカB艦隊攻撃中にアメリカA艦隊の奇襲を受ける形になったわけね。

 ここが、遠野郷……大日本帝国海軍の根拠地でなければ、もう勝負がついているレベルだわ」

 根拠地である以上、基地航空隊くらい居そうな物だが、今のところまとまった数の航空機が活動している様子は見られない。

 温存しているのか、あるいは何らかの事情で使えないのか?

「レクシー提督! アークディメンジョンに動揺を検知しています。既知のどのモードとも異なるデータです!」

 プリシラが声を上げる。

 観測されたアークディメンジョンの動揺は、複数の『ユーステノプテロン』によって記録され、それを総旗艦で処理した結果である。

「これだけだとなんとも言えないけれど……」

「まるで浮かび上がって来ているように見えます。

 超光速機関を起動した艦をアークディメンジョンから観測したら、こう見えるんじゃないでしょうか?」

 データを見ていたルビィが言う。

 アークディメンジョンから見たら。というのは面白い観点だとレクシーは思う。

「エネルギー水準の低い空間から、通常空間に何かが上がってこようとしているように見えます……

 ……総質量は優に一〇〇万トンを超えます……これは!」

 地球の戦闘艦で、単独一〇〇万トンを超えるような艦が存在しない事はわかっている。

 従って、これは艦隊まるごとアークディメンジョンから出てこようとしているということだ。

「プリシラ。データは取ってるわね?」

「アイ。もちろんです。提督」

「よろしい。地球製の超光速機関のいいベンチマーク結果になるわ」

 それはそうとして、レクシーは出てこようとしている艦にも興味がある。

「艦隊のADDアウト確認! 不明な大型戦艦一、不明な中型ないし大型空母一、巡洋艦または駆逐艦十隻程度を観測しました」

 不明な。と言っているということは、コンピュータが識別できなかった艦という事だ。

 B型の『ユーステノプテロン』の能力で、観測精度不足で不明艦になるとは考えにくいので、これらは本当に未知の艦艇と考えていいだろう。

「巡洋艦は『阿賀野』型、駆逐艦は『不知火』型、『秋月』型、『初春』型などからなる混成部隊のようです」

「という事は、大日本帝国海軍の艦隊と見ていいわね」

 レクシーの言葉に答えて、不明な艦隊を示すアイコンが、所属不明を示すオレンジから友軍を示す水色に変化する。

「戦艦と空母の情報収集は引き続きお願い」

 そして、戦域に存在する戦闘艦艇の数が変化したことで、戦いの流れが変わる。

「不明な戦艦、小沢艦隊付近の『アイオア』級戦艦を砲撃。

 砲撃に際して、微弱ながらアークを観測しています。超光速兵器が使われている可能性があります」

 これに関しては、新型艦なら新兵器を搭載している事は別段驚くには値しない。

 すでに大日本帝国海軍が『アニサキス』のコピーを持っている事は分かっているので、他の超光速兵器を持っていても不思議はないという事だ。

「今戦闘に介入すれば、アメリカ軍に致命的なダメージを与える事が可能かと思いますが」

 戦況を見てルビィが言う。

「そうね。でももう少し情報収集がしたいわ。

 さすがにB艦隊が逃げる素振りを見せたら、妨害するけれど」

 レクシーの目標は、工業力でいくらでも再生できるアメリカ艦隊ではなく、替えの利かないハルゼーという猛将である。

 加えて、あまり大日本帝国海軍のホームで暴れたくないという思いもある。

 これは、味方であっても他国に手のうちを見せたくない。という思いと、手柄を奪うのは好ましくない。という思いの両面から来ている。

「シュガードール提督は攻撃しそうな雰囲気ですが……」

 現在、A艦隊への補給を終えた敵補給船団を粉砕したシュガードールは、遠野郷への侵入を開始。

 A艦隊の通った海域をそのままなぞって進行中である、A艦隊の後を追っているので、A艦隊と接触するのは規定ラインであり、接触すれば襲いかかるのがシュガードールの仕事だ。

「一応第三艦隊には、タスキングメッセージを送って、しばらく様子見をしてもらいましょう」

 もっとも、シュガードールならレクシーが沈黙しているのを見て、勝手に察してくれるだろうが。

「こちらもしばらくは、新型戦艦を観察させてもらいましょうか」


◇◆◇◆◇◆◇


「ふむ。どうやらマヨヒガからは出られたようだ」

 司令官シートにどっかりと腰掛け、古賀は鷹揚に言った。

「さて、戦況はどんな感じか」

 古賀は早速復活した戦術ネットワークからの情報を分析する。

「小沢君の艦隊は随分消耗しているな……敵空母艦隊が二つもあると、流石の第一航空艦隊でも厳しいと言うことか」

「敵機接近! 数二機!」

「対空戦闘用意!」

 CICに仁王立ちした松田艦長が、大声を上げる。

「対空砲撃ち方始め! 叩き落とせ」

「ヨーソロ。一四センチ対空機関砲、電探指示の目標。撃ち方始め!」

「ヨーソロ」

 電探連動の射撃管制により、接近してきた『ヘルダイバー』二機が一瞬消し飛ぶ。

「さすがは新型だ」

 古賀は感心した。

「それはそれとして……」

 戦術情報の中に、味方駆逐艦を攻撃中の敵戦艦を認めた古賀は一度言葉を切った。

「『秋月』型駆逐艦『三日月』に通達。戦場より離脱せよ。味方航空機にも本艦の対空能力は万全に付き、護衛不要の旨通達。これは長官命令である」

「しかしながら長官。いきなり撃っては、『アイオア』級の艦長が少々かわいそうであります」

 松田艦長がニヤリとしながら言った。

「なるほど。『大和』の実力の片鱗も知らない敵に全力を出すのは、いささか武士道精神にかけるかもしれん」

 松田の言葉に古賀も賛同し、ニヤリと笑う。

「松田君。少々アメさんをおどかしてやろう」

「ヨーソロ。では『増長天』あたりで、いきましょう」

「うむ」

「主砲一番、一式弾装填! 『増長天』起動!」

 この間に『アイオア』級は『大和』の正面を右から左に進みながら、距離を詰める構えだ。

 向こうも砲戦の意思ありと古賀は判断した。


◇◆◇◆◇◆◇


「なんだ!? あのバカでかいケツは!?」

 『ノースカロライナ』艦長のマット・デイビス大佐は驚愕した。

 それもそのはずで、『ノースカロライナ』の左舷側距離一〇〇万マイルの地点に、突如として巨大な質量が現れたのだ。

「わかりませんが、時空震を観測していますので……やはりアークディメンジョンから現れたのではないかと……」

 副長のジェイソンが困惑しながら答える。

 当たり前だ。目の前に巨大な戦艦が舳先を上げて突如出現すると言うのは、想定の範囲外である。

 通常、質量と重力の分布が複雑な海域へADDアウトすることはできないとされている。

 これは、ADDアウトした先に粒子があると光速に近い速度でその粒子に艦体が激突することになるためである。

 もちろん少量の粒子なら問題ないように艦は設計されているが、限度がある。小惑星などは論外で、場合によっては小さな空気溜まり一つで、艦は致命的な破壊をうけるのだ。

「戦闘真っ最中の海域にADDアウトだとお!?」

 マットが言っている内に、超巨大戦艦は舳先を下げて、仮想水平を取る。

「なんてデカいんだ! あいつ半マイル以上もある」

 これは間違いなく、敵の隠し玉だとマットは考えた。

「取舵! 両舷全速! ヤツとの間合いを詰める!

 砲戦準備! 気合を入れろ!」

 即座にマットは交戦を選択。

 ここで引くと、スプルーアンス艦隊がこの巨大戦艦に脅かされる。戦艦の相手は戦艦がするのがいい。

 と。

 突如、衝撃が『ノースカロライナ』のCICを揺さぶる。

 ただし、衝撃は大したことはない。

「今の揺れはなんだ?」

 機雷の類にしては衝撃が少ない。無論敵戦艦の主砲などの場合、もっと強烈な衝撃が来るはずだ。

 思い当たる要素がなく、マットは首を捻った。

「ダメコンチームより報告! 艦首区画で火災発生!

 状況の確認要請が入っています!」

「一体なんだと言うのだ」

 言いながらもマットは、手元のコンソールを操作して外部カメラを確認する。

「……」

 そこに広がっていた光景に、マットは言葉を失った。

「我が『ノースカロライナ』の艦首が……」

 なくなっていた。

 丁度一番砲塔のすぐ先で、バッサリと艦首が消し飛んでいるのだ。

「さっきの衝撃か!? なぜあの程度の衝撃で……」

 そこまで言って、マットは気付いた。

 敵戦艦の主砲威力が高すぎて、砲撃が過貫通を起こした為に衝撃が少なかったのだと。


◇◆◇◆◇◆◇


「やりすぎてしまいました」

 特に悪びれた様子もなく、松田が古賀の方に向き直る。

「存外、アメさんの戦艦は柔らかいようだ」

「ヨーソロ。

 『増長天』を使うまでもありませんでした」

 秘匿兵器『増長天』は、砲弾を超光速まで加速させる物だ。

 砲撃が超光速で行えるということは、射撃に偏差が少なくなり命中精度が劇的に向上するのだ。

「敵の損害は……艦首全損か」

 秘匿兵器『多目天』に観測されている『アイオア』級戦艦は艦首を五〇メートル程にわたって失い、それでも果敢に突貫してくる。

「ヤンキー魂ここにあり。といった風情だな……松田君。

 介錯してやりなさい」

「ヨーソロ。左砲戦用意! 全主砲発射準備、砲弾は引き続き一式。目標『アイオア』級戦艦」

 『大和』主砲が旋回し、『アイオア』級を指向する。

「テーっ」

 松田の掛け声と同時に、三基九門の主砲が高温高圧のプラズマを吐き出した。


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