遠野郷・サンライズ18
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『神威の瞳』を通して、宮部は戦場を見た。
そして、驚愕する。
直掩に上がっている『烈風』が少なすぎる。
なぜ少ないのか? という詳細な情報はわからないが、現状が良くないことはわかる。
『神威の瞳』を搭載したチョウゲンボウ4を離脱させ、戦域全体を見れる位置に移動させ、宮部自身は二機のドローンを率いて、手近な敵機に襲いかかる。
逃げようとする『ヘルダイバー』二機とと、それを護衛している『ヘルキャット』を瞬殺して、宮部は再び戦況を俯瞰してみる。
……ドローンの動きが悪いっす。
ドローンこと乙『烈風』を空戦で使えるのは、宮部以下数名しか居ないのは周知の事実である。かのサムライ坂井を持ってしても、そのドローンの空戦能力はヒヨコ並み。ドローンの扱いには、通常の航空兵とはまた違った資質が要求されるのだ。
ふと。
宮部は考えた。他人が扱いきれないドローンなら、宮部自身が扱えば良いのではないか? と。
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「警告。特号装置と乙『烈風』の接続断を検出。再接続不可」
AIの報告に相川は混乱した。
乙『烈風』との通信が切断されたことなど、今までに一度もなかったからだ。
エンジニアからも、乙『烈風』との接続は障害物はおろか距離の制約を受けないと説明を受けた。こんな事が起こるなど、想定外だ。
それより奇妙な事に、相川の制御を離れたドローン達は、滑らかな機動で左に旋回して離れていく。
まるで凄腕の航空兵が操っているような、巧妙さを感じざるを得ない。
「一体どこへ……?」
システムの暴走なら、もっとあらぬ方向に飛んで行きそうなものなのだが、実際には統率のとれた動きである。
自分のドローン達の向かう先を見ると、大きく旋回中の『烈風』が見えた。友軍識別によるとチョウゲンボウ1。先ほどの通り魔的攻撃の後、旋回してきているのだろう。
そして、相川は目を疑うような光景を見た。
戦域の乙『烈風』達……母機が存在しない個体を含む……が、チョウゲンボウ1の方へ一斉に集まっていく。
「!?」
状況を考えれば、今起こっている事はわかる。だが常識が理解を妨げる。
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同様に『瑞鶴』のCICでも、混乱が生じていた。
「一体なにが起こっている!?」
草加は叫んだが、誰も答えてくれない。
突如、出撃中の無人機の制御が失われ、それに伴う大量のアラート音があちこちから鳴り響く。
「敵のハッキングか?」
真っ先に疑うのは当然コレである。
そもそもこの時代、無人機が好まれない理由の一つがこれだからだ。
「ドローン達に特に不正アクセスが行われた形跡は認められません」
特号装置の担当士官が叫び返す。
「いえ、待ってください草加参謀長……チョウゲンボウ2、3、4の三機は正常に稼働しています」
「……つまり、宮部が他のドローンを乗っ取ったとでも言うつもりか!」
「現状、外部からのアクセスが検知できない以上、特号装置経由でアクセスがあったとしか……」
確かに宮部の特号装置適正は、ラーズと並んで最強である。
「通信! チョウゲンボウ1に通信を繋げ! 最優先だ!」
宮部がやっているなら話は簡単だ。本人に聞けばいい。
もし本人が大量のドローンを高水準で並行して操れるなら、それは宮部が分身しているような物なので大幅に戦力アップが期待できる。
「チョウゲンボウ1とつながりましたが……応答がありません!」
「どういう事だ!?」
「わかりませんがAIが応答しています。宮部少尉は……眠っていると、そう言っています」
「寝てる。だと?」
草加は慌てて手元のコンソールを操作して、チョウゲンボウ1のヘルスデータをダウンロードする。
確かに、チョウゲンボウ1からは宮部のレム睡眠中と思われるデータが返ってきていた。
だが、チョウゲンボウ2や3は普通に戦闘を行っているし、なんならこの瞬間も『瑞鶴』に迫る敵機を撃墜している。
「一体なにが起こっているんだ?」
再び草加は心情を口にした。
「草加参謀長……ドローン達が……」
チョウゲンボウ1の周囲に集まっていた二〇機程のドローンが、一斉に向きを変えて散っていく。
まるで花火でも見ているような気分だ。
ドローン達は驚くべきレベルで統制されたまま、防空輪形陣を抜けてくる敵機に襲いかかる。
その動きはまさに熟練の航空兵のそれであり、複数の機体が連携して敵機に襲いかかる。
「やはり、宮部がやってくれているようだ……」
ドローン達の動きは宮部のそれであった。
「なら、ここは動く!
全艦、可能な限りのドローンを発艦させろ!」
草加は命令を下した。
現状はドローンを出せば出すだけ宮部が増える。という状況であると草加は理解した。
ならば、ここはありったけのドローンを飛ばす事が、勝利への近道である。
現に新たに飛び立ったドローンは、しばらくすると自我を持ったように、飛び去っていく。
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宮部は圧倒的な全能感を感じていた。
戦域の全てを『神威の瞳』で俯瞰して、敵機に対してドローンを送り込む。
まるでヌルいシミュレーションゲームでもしている気分だ。
現状の脅威は、第一航空艦隊を攻撃中の敵機戦爆連合約二〇〇と、第八艦隊方面から接近中の敵機一五〇程。
後続の到着までに、今来ているの二〇〇機を削り切れるかが問題だが、基本的になるようにしかならない。
だが、なし崩し的にでも後続一五〇を蹴散らせば、この戦いは勝ちである。全知全能の宮部にとって、それは容易い事と思えた。
ちなみに、弾薬の心配はない。宮部の意図に気付いたのかどうなのかはわからないが、一航艦の空母からフル装備のドローンが発艦している。
当然それらも即座に宮部が掌握して、自由自在に操る事ができる。
「……」
『神威の瞳』が一隻の駆逐艦に注目した。
第一航空艦隊の外輪に配備された防空駆逐艦『三日月』だ。優秀な対空能力を有する『秋月』型駆逐艦の一隻だが、今は艦隊防空に参加していない。
「……『アイオア』……っすか」
『アイオア』級戦艦『ノースカロライナ』。『神威の瞳』はそう教えてくれる。
戦艦二隻を血祭りにしたにも関わらず、まだ残っているとは驚きである。
『三日月』は懸命に主砲を振り上げ、『ノースカロライナ』を砲撃している。
だが、航空機にとってはまさに凶器以外の何ものでもない長砲身の十センチ連装速射砲も、戦艦相手では効果は無さそうに見える。
なんとか助けに行きたいと宮部は思った。
実際何機か宮部の意思に反応した『烈風』が、『ノースカロライナ』の方に向かう。
だが、『烈風』は戦闘機である。駆逐艦程度が相手ならともかく、戦艦を沈めるような装備は積んでいない。
そもそも直掩に上がっているのに、重い対艦装備を積んでいるわけがなかった。
宮部が率いる攻撃隊は、戦艦に対して有効な装備を持った『流星』が居たが、すでに対艦装備は使い切っている。
結果として、宮部ができるのは敵機の掃討だけである。
この間にも、猛然と敵機は撃墜し続けているのだが、戦艦が輪形陣内部に侵入すれば脆弱な空母は一瞬で沈む事になるのは明白。
なんとかしないといけない。
「なんとかしないといけない」
宮部は見た。
チョウゲンボウ1の直下……直下といっても物理的な下ではなく、概念的な下……に、何か巨大で力強い物がいるのだ。
通常の感覚どころか、第六感ですら捉えられない領域を、『神威の瞳』が覗いているのだと、宮部は理解した。
「第七感……セブン・センシズっすよ」
それが何かわからないが、宮部はそれをこの海の主であると思った。
遠野郷の主。ならばそれは味方のはずだ。
ついに『三日月』が『ノースカロライナ』の砲撃に被弾。
一撃で艦が二つに裂けて轟沈する。
乗組員の断末魔まで『神威の瞳』は宮部に見せた。
チョウゲンボウ1の下でそれは大きく脈動した。
まるで巨大な生物が生まれ出ようとしているような、ある種の神聖さがそこにはあった。
『三日月』を粉砕した『ノースカロライナ』は前進を開始。
このままでは、空母が主砲射程内に収まってしまう。
守護。守護する力が必要だ。
そう思った刹那。『神威の瞳』が開眼するのを宮部は感じた。
開いた第三の目が、その巨体の正体を見つめる。
あまりにも巨大で、あまりにも暴力的。そして、あまりにも美しい。
それは舳先を高々と上げて、この世界に現出した。
「戦艦……『大和』。
これは、遠野郷の夜明けっす」
ユニバーサル・アーク




