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第十ニ話 歪んだ光
「お母さんは、ね…僕が五歳の時に、出て行ったの…」
なつは私に抱きついたまま、ぽつりと話し始めた。
一刻も早く電話をかけたかったが、ためらいがちに漏れ出る言葉を、どうしても遮ることができなかった。
「お父さんは、お母さんが大好きなんだ。…今でもね」
「…うん」
「…それでね…僕が、お母さんなの…」
(…え?)
「お母さん?)
なつは、私の胸元で視線を泳がせ、小さく頷いた。
「…えっ?…なつがお母さん?…どういう…」
「…僕が、お母さんに…似てるから…お父さんは……僕を…好きだって…」
「…そっか」
(ちょっと煩いくらい過保護な親。…そういうことだったのか。)
私はまだ――
話の全体像を取り違えていた。
「…愛してるって…」
「毎日ね、『愛してるよ』って」
「…うん」
「だから」
「……セックスを…するんだ」
(……は?)
耳鳴りがした。
「……なにが?」
「僕が…お母さんだから」
思考が停止した。
「お父さんと、セックスをする」
ヅグシャーッ…ヅァガァァァッ!!
世界が一瞬、破れた。
耳の奥まで揺さぶる轟音が、夜を飲み込む。
電気が落ち、部屋は再び闇に包まれた。




